窮追開拓。
ハグリット侯爵領にきて5日かな? ユーミ暦は55日に。
ハグリット侯爵が動かない。その間フィーナの孤児院で泊まってるから私は幸せだけど。ジルもお世話してくれるしね。
どうせ欲深い男なんだからいつまでもハグリット侯爵が黙ってることもないだろうけど、ちょっと追い詰めてみることにした。
ジルを連れてイーモン伯爵領に向かう。イーモン伯爵は喜んで私を女皇帝ユーミとして受け入れてくれた。できる人は違うね。ゾンビで追い詰められてたのにジルが、それにたぶん他にも何人かが身を売って資金を得たとはいえ、それでも家を立て直すにはキツかったはずだよ。
そんな彼なので軽い商談を持ちかけた。邪魔だけど崩せない山を削り資源をもらう、カリンさんと同じような契約だ。ついでにヒガンの神様、アキハルくんちに遊びに行くつもりだ。
イーモン伯爵は四十代に見えるけど子供はもう成人してるらしい。イストワールの成人は十五才だけどね。息子さんは銀の髪に金の目のなかなかのイケメンだ。でもジルのことが大好きなようで少し子供のようにはしゃいでる。
「ジル! よくぞ来てくれた!」
「ふふ、ぼっちゃま、私より陛下の方が大事でしょう」
「おお、すまん。だが嬉しくてな。よくぞ無事でいてくれた。ハグリット侯爵ではなくユーミ陛下に買われたのはなんとも幸運だ」
「ハグリットでは私は買えませんよ。あの貧乏侯爵はどうせ汚いことをして小銭を稼ぐくらいしかできません」
「ははは、辛辣だな!」
二人が和気あいあいとしているのを見るのも楽しいのだが、伯爵に商売の話を持ちかけることにした。その貧乏侯爵をさらにイライラさせるためにイーモンを開拓するのだ。
「つまりここイーモンから南の港やヒガンに続く街道を通して整地していただけるのですか?」
「うん、対価はその土地の植物や動物、魔物の素材。土砂崩れ対策や植林もするし、畑とか細かい開拓は任せるけど金属類はイーモン伯爵に渡すよ」
「対価はそれで十分なのでしょうか?」
「うん、もらいすぎくらいだから気にしないで」
「陛下にとっては散歩する程度のことなのですよ。心配は無用です」
「うんうん、散歩して素材を拾うだけだね。ついでにヒガンにも遊びに行くけど」
そこで街道を使った交易を少し提案するくらいはするかもね。女皇帝だしね。イーモンはこの大陸では珍しく畜産も盛んだし、ダンジョンからも肉やチーズが採れるらしい。この星のダンジョンってアイテムをドロップするタイプだからね。ダンジョンの外の魔物は普通に動物の延長なんだけど。この星に普通の動物はいないんだけどね。人間も魔石ドロップするし。こういうのは主神が持つ【スキル:世界設定】という惑星規模で支配するスキルによるらしい。ちなみにゲームみたいなステータスを作ろうとすれば作れるそうだ。この星にはないけど、インフォさんはそういうのをよく知ってるよね。誰なんだろ?
で、チーズとかなら小角首長国やユーミ帝国でも喜ばれるしヒガン経由で輸入してもイーモンの港から直輸入してもいい。ヒガンならワインもあるしアキハルくんならすぐに法整備して小角族保護を約束してくれるだろうから小角族が旅行もできるようになる。そうすれば小角族にもメリットが大きい。
ちなみにイーモンの開拓を先にすると言ったらカリンさんが悔しがってた。しっかりマーティスの街道整備もするからね。先にこっちからやる。
最初から私の好きなようにするとは言ってあるし、実際ブラーム公爵領との金属や武器類の取引、ダライ辺境伯領への武器輸出などでマーティスは笑いが止まらないくらい儲かっているらしく、悔しがったのもポーズだけみたいだが。可愛い人である。
その辺りイーモン伯爵に話すとなにやら嬉しそうだった。マーティスとは伯爵家同士でいろいろ繋がりもあるようだ。もともとそこそこ豊かなイーモンと貧しいマーティスという関係だったが、対等に近い関係になれたことが嬉しいようだ。よく分からないけどな。ライバルが強くなって嬉しいのかな。
政略結婚とかで繋がるとしたら相手と交易することが有益な方がいいか。イーモン伯爵の子供は三人もいるし、カリンさんも子供や孫の嫁や婿を外からもらわないとダメだと愚痴ってたしね。たくさんいるもんなあ。
どうもカリンさんの長男パリツさんは謀略とか好きな人らしく、裏方に徹したいと思ってるようだ。上っ面だけ見るとそんな風に見えないのは逆にすごいのかもしれないね。なんか間抜けで遊び人にしか見えないけどカリンさんも廃嫡してないところをみると信頼している部分もあるのかも。
貴族も面白いな~。外から見るだけなら。あ、私皇帝だったわ。
ジルはしばらくイーモンさんに預かってもらって、さっそく地図を受け取り街道整備の最適ルートをイーモンさんと話し合って決め、私は工事に出発する。ほとんど散歩するだけだけどね。地ならしとか植林はインフォさんにお願いだ。『美しい街道を作ります。お任せください』微調整はさせてもらおう。その方が楽しいしね。
さっそく道行きで山を一個削るといろいろ鉱石が採れた。うんうん、幸先がいいね。今まで使ってたメインの街道はあまりなだらかではなくて、主に南の港を通してヒガンとやり取りして、街道整備はその港の方面ばかりしていたようだ。こっちは住人に仕事を回すためにイーモンの方でやるらしい。仕事を作ることも必要なんだよね。まあその仕事量が半端じゃないと賃金が払えないわけだけど。
領主は税金を取って雇用でそれを領内に回すのが仕事みたいなところはあるね。
のどかな農村を眺めながら山を掘っていく。民家の位置とか植え替えるように移動できるんだよね。なのでこっそり植え替える。こういう小さい民家が移転を渋ってお金を巻き上げるような話は前世にもあったよね。純粋に土地を離れたくないっていうのもあるんだろうけど、さすがにほんの数メートル移動するのも嫌だとかは意味がわからないよ。お墓とかあるならまだしも。お墓があったらかわす。死体とか土葬なんだもん……。怖いなあ……。
街道整備はたくさんの人にメリットがあるうちはどんどんやるよ。大して意味のない道路を作るのに移転しろとはさすがに言わないけど、これは多くの人にメリットがある事業だしね。ガリガリやらせてもらう。
横暴な権力者とか言われるんだろうか。ドキドキ。まあたぶん味方の方が多いでしょ。家も全く壊れてないし基礎を工事し直して頑丈になってたりするし。本人も位置が変わったのが分からないレベルだよ。植林もしてしまえば森の中で数メートル家の位置が変わったとか、文句言っても誰も聞かないだろうね。笑われるだろう。お酒まで樽で渡しておけばだいたい黙るね。それに建て替えて宿にでもすれば街道が通ることで大きなメリットも得られるし。本人の気持ち次第だよね。ただ反発するだけとか意味が分からない。
無意味な開発とかならやらないけどね。少なくとも流通は加速するし騎士団の移動が迅速になれば魔物被害なんかも減るし悪いところはない。
まあこの星の時代レベルだと貴族に逆らうだけでも危険なレベルなんだけどね。容赦なく暗殺されて家を潰されるよりは、はるかにいいよね。
まあ私は山削りたのしー、とか思いつつ、ヒガンまで遊びにきたよ。
イーモン「この度はユーミ女皇帝陛下による開発工事を先に委託させていただきありがとうございます」
カリン「きいーっ、くやちぃーっ」
イーモン「え、あの」
カリン「うえええーんっ」
イーモン「すみません、ちょっと対処難しいです」
ジル「やり手のイーモン様が折れた!?」
ユーミ「カリンさんは可愛いなあ」
ジル「どこがですかな?!」
カリン「あ、銀食器とか売り出しますわ。よろしくお願いします」
ジル「いきなり特産を売り付けましたぞ!?」
イーモン「あ、いただきます」
ジル「素直ですな!?」
ルル「……ジルが珍しくツッコミしてるわ」




