スラムのまとめ役。
少し暴れてもいいかなと槍とか出してるんだけど暴れられるかな?
三人の汚い男たちに連れられて暗い階段を降りていく。一応レイン君の方もインフォさんにしっかり防御設定利かせてもらう。ちなみにレイン君には奴隷の首輪は着けてるよ。後ではずすけどね。
「こっちだ」
「兄さん、金づる連れてきたぜ」
「イケメンだぜ」
なんか三人目の目線がキモい。まあそれはおいといて。つか触れないで。
暗い部屋の中には数十人も男たちがいた。浄化浄化。……ちょっと暴れてみたいけど最近は懐柔する方が楽しいんだよねえ。マーティスが上手くいってるからかな。
「ほお、確かにイケメンだな」
中にいたのはかなり若い男だ。筋肉質で赤い髪と目、雰囲気はかなりの強者だね。全長1メートルくらいの短めの直剣を腰の左側に差して防具は革の胸当てだけを着けてる。素早く動くタイプとみえる。目がギラギラしてて野望とかも強く持っていそうだ。取引しやすそうだな。
「フレイムだ。よろしくな」
「ルーレンだよ。仲良くしてね」
「仲良くねえ」
態度は悪いが握手をすると獰猛に笑う。分かりやすいなあ。お金ならあるぞ。とりあえず大樽で赤ワイン出しておく。
「お、土産か? わかってるじゃねえか」
「単刀直入にいうと、誘拐犯を探してるんだ」
「……気に入った。探してやろう」
「頼む。じゃあこれはみんなで飲んでくれ」
私がもう一つ樽を出すとむさ苦しいおっさんたちの歓声が上がった。樽の蓋を割ってどんどん木のコップを浸けていく。バッチイから消毒ね。ついでにガラスのコップを大量に出してやると全員が目を輝かせた。透明なガラスのコップは売りに出せばかなり高価なものになるし、うちも貿易に使っている。そのうち小角族で透明なガラスは作れるようになればいいんだけどね。
フレイムもなんか目がキラキラしてるな。どうした。
「あんた何者だ?」
「ただの商人さ。それで納得しておきな」
「ふふん……」
「殺しとかやらないなら力になってもいいけど?」
「うちは殺しはご法度だ。まあ自衛で殺すことはあるがな」
まあこの国の現状ならそこは変わらないか。ここまで飢えてるスラムなのに聞き分けがいいんだよなこいつら。単純に酒の力もあるだろうけど。
「ぶっちゃけイストワールの暗部と繋がれるなら美味しいし。小角族に手を出さないならスラムのやつらに仕事をやってもいいぞ。最近港ができて人が足りないって嘆いてる人と渡りをつけてやる。お行儀よくしなよ」
「……なるほど。あんたのことはキングとでも呼ばせてもらうぜ。ルーレンも偽名だろうが」
「好きに呼びな。資金はこんなもんでどうだろう?」
まずは大金貨、切りよく百枚でいいか。一千万グリン、三億くらいだ。なんでもできるだろ。
「悪さに使うなよ」
「おいおい、すごいなこりゃ。キングで間違いないな。心配すんな、これなら王都の義賊とでも繋ぎつけてやる」
クイーンだけどね。エンプレスでもいいけどね。どちらにしても男ではない。まあ正体を隠すにはいいんだけどね。ちょっと楽しいし。
「まっとうに働きたいやつは働かせてやれよ。クズはいらん」
「わかってる、皆までいうな。……酒をもらおうか」
「乾杯」
「くうー、いい酒じゃねえか!」
しばらく酒盛りをしてから誘拐とか汚い仕事をしているやつらのねぐらをいくつか教えてもらう。あとはハグリット領都を散歩するだけだ。
「あんたをいいやつと見込んで一つ頼みがある」
「いいやつではないだろ、まあ聞くが」
「孤児院を一つ面倒見てくれねえか」
「それくらいならかまわない」
孤児院を経営とかテンプレだよね。そこに悪いやつらが来て叩きのめしたり。うんうん、楽しそう。
フレイムがそこのシスターに気があるらしい。まあ相手にされてないみたいだけど。お約束だなあ。
レインの妹は探してくれるらしいのでそれは一旦は任せて、孤児院の方に行ってみることにした。ハグリットいいね、テンプレの宝庫だよ。釣りができたら最高なんだけど。近くに湖とか川はあるらしい。いいね。
ユーミ暦はついに五十日。しばらくは街を堪能しようかな。裏道だけど屋台もいくらかある道を通っていく。串焼きの肉を買ってみる。大トカゲ肉らしい。この大陸トカゲ肉がメジャーだよね。他にはないのか。家畜の肉とか少ないんだな。食べられる魔物が多いもんね。
レイン君とフレイムに肉をおごってやる。なんか三人組もついてきてるので買ってやったら子供みたいに喜んでた。
味付けは塩だけみたいだな。まあタレとかは難しいのかも。美味いからいいけど。果物とかスジ肉とか貝類を煮詰めてこしてやるといいソースができるんだけどな。
ぼちぼち歩いていると孤児院に着いた。うん、シスターらしき人がいるな。この大陸は宗教は神様が実在するからそれに仕える巫女さんが中心らしい。男は神官だけどやることはアキハル君の指令を聞いたりで信仰とかはないようだ。孤児院とかは国や領主の経営らしいけど……まあここのハグリット侯爵はケチそうだよねえ。推定黒だし。真偽判定官じゃなくてもわかる。街に活気が無さすぎる。リッタ様に相談しておかないと。
シスター、といっておこう。巫女さんだけど服装は一般的な町の人と変わらないね。シスター服とか期待してたんだけどアキハルくんもそこまではしてないのね。
エリナ様が一応主神なんだけど、信仰は禁止されてるみたいなものらしく、実在してるアキハルくんに仕えるスタイルらしい。そもそも存在してる対象を信じるとかおかしいもんね。隣に友達がいて、その心を信じる、とかならわかるけど、存在を信じる、とか思わないよね。隣にいる友達は幻覚かも知れないけど。こわいなー。こわいなー。
まあそれはいいや。シスターさんは普通の人だ。顔は可愛いね。私に比べたらみんな可愛いね。
「フィーナ、パトロン連れてきたぜ」
「まだ生きてたのフレイム」
「けっ、そう簡単にくたばるかよ」
「あんたも……、誰このイケメン!」
「パトロンだっつの」
「よろしく、お嬢さん」
「はいい……」
これ女だって言っておいた方がいいかも? まあ後でいいか。とりあえずお茶の葉をプレゼントしよう。小角族の集落、チャバシラで採れたお茶。チャバシラのお茶とか冗談みたいな翻訳だけど本当に美味しいよ。リッタ様に認定してもらった王家御用達の高級品だ。
「……この人ヤバイ人?」
「かなりな。ご機嫌損なうなよ。まあ戦争にはならなそうだが」
どうもフレイムさんバカじゃないっぽいね。私の正体はもちろん、現在の情勢までわかってるっぽい。こんなとこでスラム束ねてるやつなんてろくなもんじゃないと思ってたけど偏見だったか。
二人が話してる間に寄ってきた子供たちにクッキーを配り、ボールを与えて投げたり、だっこしてぐるぐる回してみる。
うん、私子供なつかせるのも得意なんだ。
フレイム「一応誰かは当たりつけてるぜ」
ユーミ「へえ、どこでわかったんだろ?」
フレイム「イケメンで羽振りがいい、見知らぬやつだからかな。特徴も聞いてる」
ユーミ「イケメンって言われてるのか……」
フレイム「むしろイケメンという情報がいつも最初に出てくるな」
ユーミ「情報元潰していいよね?!」
レイン「……自分でもネタにしてるにゃ」