もふ拷問。
そのあともいろいろお酒を出して貴族様たちにもかなり興味を持たれた。とりあえず清酒なら今の小角族でも作れるのでいくらか仕込ませてあったりするけど、まだ最初のお酒もできてない。
出来はたぶん発酵の過程にもよるだろうけど、麹でデンプンを糖に分解してそれから酵母でアルコールに分解される手順はわかってるので、環境をどう整えるかが大事だよね。その辺りは小角族やドワーフたちが乗り気なので任せてある。
私の作るぶんはうちのドワーフや小角族たちが飲むし、贈答用程度なら大丈夫だけどよそには出せないかな。
イーモン伯爵にも話を聞いた。経営は持ち直しているのでジルを大事にしてほしいと頼まれた。なんか茶髪に茶色い瞳で温厚な感じの紳士だったよ。苦労してるのか痩せてて少し老けて見えたけど四十代前半らしい。
なかなかに盛り上がったお祭りは次の日、ユーミ暦47日も続いた。みんなで釣りしたりお酒を飲んだよ。雨が降らなくて良かった。
ユーミ暦48日、今日は雨。カリンさんをテレポートでマーティス領都に送ってからみんなでユーミ城に帰還したよ。
さて、捕まえてる暗殺者の子はどうしようかね。
「……拷問なら任せてくださいユーミさん」
「怖いからリッタ様!!」
なにか腹に据えかねてるのか、腹黒王子全開だもんなあ。リッタ様は見た目美少女だけど腹黒モードは冷酷ショタな感じで怖い。
「……その時の爪を剥がれ指を落とされた少年の泣き叫ぶ声が、廃城となったユーミ城の奥から今も響いているそうです……」
「ジルが変になった!?」
「怖いですなぁ……怖いですなぁ……」
ジルはなんか私が怖い話を聞くと笑うから怪談にはまったらしい。楽しくて笑ってるわけではないぞ。夏だからいいけどね! そんなに怖い話は嫌いじゃないんだよねえ。リンヤ、顔が青いよ? ルルの顔が怖い。
「ルルは怖い話がダメなんだよぉー」
「ネイコ……覚えてなさい」
「なんで?!」
仲良しだねえ。まあいいや、少年を取り出しー。拷問とか得意でもないけど、いいものがある。先日回収した団子くらいの玉、これが爆弾らしい。爆発しないように核になる部分をインフォさんに分解してもらってるけど、もちろんこの場にいる誰もそんなことは知らないよ。これを……。
「さて、話す気はあるかな?」
「……」
「だんまりもいいけど、うちの人たちはみんな私が大好きでね。ひどい目にあうだけならまだいいけど……。まあいいや、これ君が置いたんだよね?」
みんなが私を大好きっていうのは脅しで言ってるだけだよ? そこまでうぬぼれてないよ。
少年に爆弾を見せると思いきり引いた。やはりこれは爆弾なんだなぁ。そしてこの少年はそれを知っている。
ブリ婆ちゃんによると錬金術で簡単に作れるものらしい。使用するときは魔力を一定量込めて空気に触れさせると時間経過で爆発するんだとか。時限爆弾とかファンタジー世界にもあるのか。まあ爆薬さえあれば作ろうと思えば作れるよね。いろいろ方法はあるけど犯罪に使われそうだから解説はやめとこう。
さて、この爆弾の使い方なんだけど……インフォさん、この爆弾を収納してこの子の胃の中で取り出せるかな。『可能ですけど鬼ですか』鬼ですとも。私の作った港を壊すのも仲間を傷つけるのも重罪ですよ。はい、取り出し。
「……んぐっ!?」
「今君のお腹の中に爆弾を送りました。取り出せるのは私だけです。さて、おしゃべりしやすくなったかな?」
「……ユーミ……鬼ね」
「身内を傷つけられた時のユーミさんは恐ろしく容赦ないですね」
「た、頼もしいわね……」
「ルル、顔が真っ青だよぉ?」
「……怖いのだ……」
あれ、ホタテさんもいたの? 身内には向かないから安心していいよ。でも敵なら容赦しない。殺しはしないけど心は折りにいくよ。食糧難の時代だから生かしておいても負担にしかならないんだけどね。そこはそれ、みんなを食わすのは私の目的になってるからね。
「ぱあん!」
「ひっ!?」
「この拷問の様子を後世の物語に残していきましょうねぇ……怖いですなぁ……怖いですなぁ……」
ジルさん?! タキシード着てるからか語り部役が見た目的にすごいはまってるんだけど、なんかひどい物語にされそうなのが、嫌だねぇ……嫌だねぇ……。
「これでも語らないなら……仕方ない。もふもふもふもふ……耳をもふって~、長毛種の猫しっぽが最高のもふり加減です……もふもふもふもふ……」
「これが趣味と実益ね!」
「うらやましい……。憎い」
「リッタ様が怖い!?」
前回に引き続きホラー回のようです。なんか笑えるよね、ホラーって。自分に実害がない範囲ならだけど。
まあホラーはおいといてもふります。趣味と実益と趣味と趣味です。
「くっ、もふりになんて屈しないにゃ……ころせっ!」
「黒猫美少年のくっころいただきました」
「エルフの私が言ったことないのにね」
「リンヤ言いたいの?」
「言いたいわけじゃないけど?」
あとは女騎士だっけ。いないなあ女騎士。どうもその辺りのお話はアキハルくんが広めたらしい。日本で聞いたようなネタがけっこう通じるんだよね。だいたいアキハルくんのせい。
でもそれで分かるけど、やっぱりこの世界と元の世界の時間軸はずれてるみたいだね。この世界の時間経過と元の世界の時間経過は違うということか。ブロック宇宙論だったか、そもそも絶対時間というものは存在しないとされているよね。その辺りはいいや。本格的に勉強するのは難しい。
それはさておき。
「耳の裏ー。ここがええのんかー」
「親父臭いセリフやめなさい。せっかくイケメンなんだから」
「イケメンちゃうわ!」
「あきらめたら?」
「ルルさぁん?!」
ルル先生……美少女と呼ばれたいです……。諦めたらそこで試合終了なんですよ……。え、始まる前に終わってる?
「もふもふで心を慰めます。もふもふもふもふもふもふもふもふ……」
「あふっ……ううんっ……」
「私たちはなにを見せられているのかしら?」
「いい加減に吐きなさい。キモいのよ」
「ルルきつーい!」
「ジル、お湯の準備できたよ」
「シロル、ご苦労様です。さて、……。皆様、お茶が入りましたよ」
「シロル殿とジル殿はまいぺーすなのだ」
「うん、美味しいですね。さすがジルさんです」
「おほめに預かり光栄です、リッタ様」
「マイペース空間ね。私も飲もっと。んー、いい香りねえ」
「いただくわ」
「仕事しないメイドねぇ」
「ネイコもしてないでしょ」
私が拷問してるのにみんなお茶会始めてるし。私は腐っても皇帝なんですけどねえ?!
「腐った皇帝ね」
「さもありなん」
「ひどい!」
ルルもホタテさんもひどいねぇ……。まあ拷問もあんまり効果なさそうだし、そろそろとどめを刺しますか。
「家族を人質に取られてるなら助けるけど?」
「……っ!?」
「やっぱりか」
リッタ様のお陰でこういう駆け引き覚えちゃったよ。ブラフで引っかけて表情で答えを引き出すの。これで私のクーラーのスキルバレちゃったからねえ。
こんな幼げな少年が暗殺とか、裏があるとは思ったんだよ。
ルル「腐った皇帝よね?」
リンヤ「そもそも皇帝って言葉に違和感が」
ホタテ「善良な皇帝もいないことはないのだが」
リンヤ「あー、違和感の正体が分かったわ。ユーミって支配的に振る舞うのに善良なのよねえ」
ホタテ「一代限りの賢王なのだ。もちろんできないこともあるが、それは支援できないものの失策よ」
ルル「ふん、ユーミを支えるのはやぶさかじゃないわよ」
ネイコ「これがツンデレよぉ……」
ルル「うっさい!!」