サウスマーティス。
うーん、準備にカリンさんと何度も打ち合わせ。開港となると近隣領主とか他国との兼ね合いが出てくるんだね。
港も住む人のために少しだけ居住区と上下水施設をもうけたよ。ニートなのに仕事しすぎぃ。まあ港の大規模工事楽しかったけど。あ、クラーケン釣りは明日やってみようかな。ドワーフたちは3日祭りするけど。あの人たち毒耐性高いからお酒飲んでもすぐ回復するんだよね。鉱山って毒が多いから毒耐性が強い種族になって、水が汚れるからお酒主体になって、結果みんな酒好きで酒に強い遺伝形質を持つようになったみたいだよ。
そんな生物学的にみるドワーフの話はおいておこう。今はカリン伯爵と最後の詰めをしている。
ユーミ暦45日、最近は時間の進みが速いなあ。記念すべきマーティス領と小角首長国の国交開始と港開きを祝うよー。
カリン伯爵はなんか友達になりたいとか言いだしたのでカリンさんと呼ぶことにした。風の通信機までもらったら対等な関係ではあるね。特別に友達と言う必要はないけど仲良くはしていく。
やっと手に入れたけど、これ長距離で一対一で対応してるものとしか話せないんだよね。つまり増やしてもセットとして作られたもの、対応するひとつとしか話せないのであんまり意味がない。軍隊とかなら良さそうだけどその場合内緒話はできないよね。まあカリンさんの土地はイストワールの真ん中に食い込んでるのでいいけどね。通信をする意味がかなりありそうだよ。
これから北の辺境伯やノーゼリア王国ともお話し合いしないとだめだしね。
食わせるための食料をどう増やすかは悩みどころだね。カリンさんのとこの芋ダンジョンに挑戦してもいいけどそれって私が潜った時だけ食料は増えるけど継続性がない。ちなみにマーティス冒険者ギルドは芋ギルドと呼ばれているそうだ。そこを助けるとかすればいいんだろうか?
さてお祭りが始まった。長々とリッタ様やカンポス王子、カリンさんが挨拶したあとにうちのドワーフたちがなぜか嬉しそうに乾杯してるけどおいておこう。
今回は色々なイストワール貴族、そしてヒガンって国から人が来ているらしい。外交だなあ。
うちも取引できない距離じゃないからその人に会ってみてもいいかも。
あと、小角族用の船は私が用意した小舟だけだから建造するなら買いたい。マーティスではしばらく他領から買う予定らしいから私たちもそこと交渉して二隻ほど買おうかと思う。金属がやたら溜まったからお金には困らないんだよね。もともとあんまり困ってないけど。
おっと、何人かの演説が終わってカリンさんが来た。
「有り難う、ユーミちゃん」
「うちもめちゃくちゃもらってるから有り難うはいいよ。有り難うって一方通行なのが嫌なんだ。一緒に嬉しい、でいいよね」
「ユーミちゃんはそうなのね。でもなんというか、これは挨拶の文化みたいなものだと思うわよ?」
「それはわかるけどね、必要性がわからない。感謝してるならまたなにかしてあげればいいと思うんだけど」
「ユーミちゃんになにかしてあげるのは難しいから、せめて感謝よ」
なるほど、そういう考えもあるか。
「でもしてほしいことならあるけど? 船とか欲しいからイストワールの造船所と繋ぎが欲しいし、またうちまで遊びに来てほしいし、一緒に釣りしてほしいし、ほら、いくらでもあるよ」
「そう、じゃあ手配するわ。遊びにも行きたいわね。リッタ様の話だと海がすごく美しいらしいわね」
「あ、通信機は有り難うね」
「そこは有り難うなの?」
「手に入らないから、せめて感謝? ものの対価って値段じゃないでしょ? 砂漠で水をもらったのを湿原で返すのは恩知らずだよね」
「ふむ、経済ね」
「経済ってごまかしが利いてしまうから汚いお金とかいうけど、つまりごまかさなければお金って綺麗に使えるんだと思うんだよ」
「ふむ、そして正当な対価はわからないからお互いが助け合う形が生まれると」
「そうそう、そんな感じ。金銭が絡むから綺麗汚いってのは間違ってる」
こういうのは手前の価値観だから相手に押し付けがたいけど、じゃあ我慢するかっていったらそれも違うよね。私の価値観はこうだ、と言うべきなんだ。その方がコミュニケーションが円滑に進む。まあ理屈じゃないんだけどね。
「そういえばヒガンの人来てるんだよね。挨拶しておきたいかな」
「あれ? お知り合いじゃなかったの?」
「知り合いはいないと思うけど……?」
「へいらっしゃい! ヒガンからきたぜ……って嬢ちゃんか!」
「ん? ああ、失礼、……って貴方が? ヒガンの?」
そこにいたのはリートの商業ギルドで言葉をかわした寿司屋さんだった。名前は確か……ツルギさんか。
「ツルギさん」
「二人で話してるとこ悪いねえ! オレっちがヒガンの外交官ツルギさ!」
……失礼だけどこの人が外交官でいいのかな。寿司屋さんが政治しちゃダメなんて話じゃないよ。性格的に向いてなさそうなんだけど。まあ決まってるならこの人と話すしかないよね。威勢よくぐいぐいくるのはむしろ外交官向きなのかもしれないし。
「そうそう、ヒガンの外交官のツルギさんよ。偉い人よ。ツルギ様、こちらがユーミ帝国皇帝陛下、ユーミ様ですわ。……ユーミちゃんフルネームなんだっけ?」
「ユーミ・カワハラで紹介してくれたらいいよ。ツルギ殿、よろしく。ユーミ帝国のユーミ・カワハラです」
「おう、よろしく女皇帝様!」
これはあれか、敬語がない文化圏みたいなことなのかな。単なるインフォさんの謎翻訳の可能性と、この人がこういう人なだけの可能性があるね。
どうでもいいけどカリンさんの敬語の使い分けが面白いよね。私もあわてて使い分けてるけど熟練度が違う感じ。
「ヒガンでも造船はしているけれどどうする? リートかブラームに頼んでもらうとイストワールは助かるけど、横の繋がりがいまいち弱いのよね、イストワールって」
「そうなの? まあリートに造船所あるならそっちの商業ギルドにつてはあるんだけど」
「じゃあそっちの方がいいかもね。……ツルギ様、すみません、話し込んでしまいまして」
「気にしてないぜ! ユーミ帝国ってどこにあるんで? なんか取引してるものあるのかい?」
「ああ、ユーミ帝国は小角浜沖の諸島群にあります。特産品は魚介類ですが金属も少し取り扱っています。水晶やガラス製品は多いですね。魚から取れる程度の魔石もありますよ」
「ふむ、水晶はいいね。ガラスとかも買えるのかい?」
「ガラス製品は取り扱えますよ。鏡もありますし。塩などもありますが、基本は海ですので食糧品は海産物が中心となります」
「塩か。ヒガンはいい浜が少ないからねえ、それも取引できるかな。うちは鉱物資源や果物、ワイン、その他の酒や料理が売りでさあ。沖では魚も獲れるんだけどクラーケンは多いかな」
「クラーケンはここから東で獲れるみたいですね」
どうやらヒガンはマーティスよりさらに東のブラーム公爵家のさらに東にあるらしい。イストワールに食い込む形で存在している。ポルトガルみたいな国かな?
「ヒガンは神様がいる国だし領土もそれほどでもないから、イストワールも敵対しないのよ。海ならリートとブラームでも十分だし」
「へえ、神様。どんな人だろ」
「そんな人でさあ!」
「ん? うわっ!?」
なんか自分の隣で膝を抱えて座ってる人がいた! 目の下のくまが凄いな! え、なにこの世界中の犯罪を追いかけてる探偵っぽい人!
「どうも、神です」
バーリ「祭りじゃー!」
アーリ「祭りよー!」
ネリン「祭りですぅー!」
ユーミ「どうせ酒だろ」
ホタテ「酒なのだー!」
カツオノ「酒だぜー!」
ブリ「酒じゃー!」
ユーミ「外交しろよ」
アジ「……肴も美味い」