▽野生の聖女が魔王と戦った!
1000ポイント突破、有り難う御座います!
しかしストックが少ないのでしばらくお休みします。すみません。
暇だ。私は暇すぎるので釣りに行こうかリンヤをからかおうか考えた。三十秒ほど必死に考えてリンヤをからかうことにした。釣りは港ができてからそこでやるつもり。クラーケン釣りの予定だよ。
「そういうわけで」
「どういうわけで?」
「暇なのでなにか面白いことないかなって」
「マーベルでも吊るして遊んだら?」
裏からマーベルのひでえっ、という声が聞こえたぞ。リンヤの部屋っていっても一応ここは外交部の執務室だからね。リンヤせんせーの部屋は五つくらいあるかなぁ。
「あ、そうだ、例のもの手にいれてあるわよ」
「例のもの?」
「これよこれ」
「これか!」
それは、あの頭がおかしい系絵本、野生の聖女の新刊だった。
◇(side インフォメーション)
久しぶりじゃな、語り部のばばあじゃよ。三十年ほど前に孫が生まれてな。話をよくせがまれるんじゃよ。これがまた可愛い子でな(以下二十ページくらい孫の話)。
今回の話は聖女ルーナが魔王と戦う話じゃよ。そんな話より孫の話が有意義じゃと思わんかね? あながち否定できんじゃろ?
まあタイトル詐欺と言われるのじゃ。話してやろうかのう。
ルーナは今日も山で元気にゴーヤをかじっておる。生で。剛のものよな。ゴーヤだけに。
たまに山に登ってくる勇者にも蹴りを入れておるうちに、その蹴りは巨人の膝をも屈させる一撃に昇華していたのじゃ。これで世界が目指せる、ルーナがそう思い始めたころ、魔王が復活した。
封印されていた魔王が王国の騎士に乗り移ったのじゃ。お母様!
いきなりネタバレするルーナの脳は猿並みから下に突き抜けて賢者になっていた。まあ三秒くらいで猿に戻るのじゃが。
「ひょはー!」
「うえーい!」
その日もいい天気じゃった。しかしにわかに空が曇り始めたのじゃ。と思ったらまた晴れ始めた。また曇った。もう一回晴れかけて曇った。雷が鳴って荘厳な音楽が流れたかと思ったら陽射しが地を満たし、妖精のような歌声が響く。
ルーナの母親は強烈な雨女だったのじゃがルーナは強烈な晴れ女だった。二人の意地が天を二つに割っておるのじゃ。勇者もこれには「うえーい?」というしかなかった。ちなみに勇者は雪男じゃった。スノーマンじゃな。
魔王が山を登ってくる。それを感じ取った聖女ルーナは勇者を蹴り倒してから魔王の元へ向かった。もちろん回復も忘れない。回復しないと尻が腫れてしまうからだ。勇者の尻が猿のように腫れ上がるのだ。ちなみにズボンやパンツはすでに丸く破れておる。凄まじい蹴りの威力。そろそろこの山さえ打ち砕くかもしれぬ。
ルーナの蹴りは日に日に強力になり、虚空を蹴りあげれば雨雲さえ割れる!
まあルーナは晴れ女なので雨雲に遭遇することはないのじゃが。
魔王を見つけたルーナは一瞬でそれが母親だと気づくことはなく蹴った。尻を蹴った。母親に乗り移った魔王は一瞬で浄化された!
凄まじい蹴りじゃ。その瞬間に母親の尻が二つに割れたのじゃ!
もはや孫でなければ耐えられまい。わしの孫はいい子じゃからのう。よしよし。
そしてルーナの蹴り! 母親はその痛みに懐かしさを感じながら空を舞い、星になって帝国の城に突き刺さり皇帝を倒した! こうして母親は英雄となったのじゃ。めでたしめでたし。
ルーナはこの蹴りなら天下を取れると確信した。なので手近なトマトにかじりついた! 孫よ、お前もいい子じゃから野菜を残しちゃいかんぞい。
そしてルーナの蹴り!
山が揺らいだ! 天下はどこへいった! 忘れたんじゃ。ルーナの猿以下の脳細胞には己のアイデアさえ残るのが難しい。
そこに現れたガチムチの冒険者。ルーナは華麗にスルーした。蹴れよ。おっと、素でつっこんでしまったわい。冒険者もスルーされた衝撃でうすらハゲ頭にうっすら残った毛が十本くらい抜けた。大切にしていたのに、毛根から抜けたのじゃ。なんという鬼畜の所業か。ルーナは鬼だったのじゃ。
しかしルーナは知っていた。自分の回復魔法ではヅラも植毛も回復してしまう。蹴ったら回復せねばならぬ。尻が腫れてしまうからだ。そして毛根から抜ける。ルーナは鬼じゃが聖女でもあったのじゃ。孫も優しい子に育ってほしいのう。ルーナのように育ったら山に捨てるぞ。今も孫が「ルーナキック!」とか言いながらわしの尻を蹴っていきおった。全く誰に教育されたんじゃ。あの嫁が悪いんじゃな。間違いない。昔はあんなにいい子じゃったのに。尻が腫れ上がったので孫が回復してくれたわい。優しい子には育ったのう。わしの教えのたまものじゃ。
そしてルーナの蹴り! 孫はその蹴り足に乗りルーナを蹴り返す……あ、孫じゃなくて勇者じゃった。孫は勇者じゃないぞ。勇者は蹴られて喜ぶ変態じゃからな。
勇者は悲しんだ。うっかり攻撃をかわして反撃してしまい蹴りを受けられなかったことを嘆き、自殺して神子様に復活させられたくらい悲しんだのじゃ。
神子様は勇者にこう言った。「諦めたら?」とな。その言葉は勇者の心に響いた。反省した勇者はまたもや自殺して神子様に復活させられたので孫が、じゃなかった神子様がこう言った。「もうくんな変態、いや、スノーマン」とな。素晴らしい言葉に勇者は感涙し自殺しようとしたとこで思い直しルーナに蹴られに山に帰った。スノーマンの倫理観なんぞ知らん。
そのころルーナは勇者がしつこいので山を降りていた。畑に生っていたブロッコリーを盗んでかじったのじゃ。青虫がついておったがルーナは猿以下なので「貴重なタンパク源」としか思わんかった。お前は洗って食うんじゃぞ、孫よ。野菜嫌いだから大丈夫? ルーナは野菜大好きじゃぞ! 野菜を食わねば強くなれんのじゃ!
◇
「これさ、書いたお婆さんの脳は猿以下だと思ってるからいいんだけど、なんでルーナの蹴りと孫の話しか出てこないわけ?」
「しかも自分で教育したからルーナキックなのに他人のせいにしてるしね」
「半分くらい愚痴になってるし、勇者人間じゃないし魔王はちらっとしか出てこないし一発の蹴りで浄化されてるし皇帝倒したのルーナだし勇者自殺しすぎだし教育にめちゃ悪いし立派にタイトル詐欺だし孫が三十年前に生まれたとか小角族なの?」
「うえーい、よね」
「ひょはー!」
こうしてよくわからない絵本を読んでリンヤと遊んで、今日も一日を無駄に過ごした。
スローライフだなあ。あ、ちなみにこの絵本は野菜を食べないと大きくなれないという教訓が込められているらしい。最終ページの作者コメントに書いてある。
だけど孫の話とルーナの蹴りが天を目指せる話しか頭に入ってこなかったけど。夢に出そうだね。
あとスノーマンって猿だっけ? どちらにしてもルーナより勇者の方が若干賢いみたいだね。どうでもいいけどね。ちなみに他のシリーズでは勇者は人間だ。どうでもいいけどね。
ルル「……また絵本があったわ」
ネイコ「あー、読むー!」
ルル「……相変わらず頭がおかしい内容だわ……陛下はこんな本が好きなのかしら?」
ネイコ「お話を読むのは嫌いじゃないって言ってたよ。浮き釣りしながら本を読んだりしてたって」
ルル「本が汚れちゃうんじゃないの?」
セルト「お、またこの本か。今回も面白いな」
ベリー「なにこれ面白い」
ルル「……あんたたちのセンスどうかしてるわ」
メイレン「野菜があんまり出てない」
ルル「食べられてるけどいいの?」
メイレン「……食べる?」
ルル「食べないわよ!!」