釣り。
やっと釣りできるー!
トイレの便座とか大理石で作ったよ。雨水タンクとか温泉とか水回りは南西に固めることにした。キッチンも近くに作らないとね。
トイレを南に、キッチンを西に、お風呂も西に。雨水タンクはお風呂場の北に作って植物繊維のパイプを錆びないようにガラス質で覆った鉄骨で支える。
水はサイフォンの原理で各所に流すようにして、台所の水は一旦砂とかで作った浄水槽を通してタンクに貯めるように作ってみた。
適当っちゃ適当だけどそれが楽しい。除菌する仕組みも欲しいけど炭とか浄水槽に仕込んでおけばいけるかな?
とりあえずトイレは完成、と。さすがにトイレの貯水タンクに一定量水が貯まる仕組みや臭いが返ってこない構造なんかは簡単だ。
水が貯まったらその重さで取水パイプに蓋をして止め、水が減ったらオモリでその蓋が開くようにしてある。レバーを引くと便器に水が流れ込む方の蓋が開き水が流れ、レバーを離すとそっちの蓋が戻るのも同じオモリの仕組みを使っている。排水管はN字にして水が溜まって臭いに蓋をしてくれる。
下水管は太いのを下水道に直通で、雨水で下水が押し流される仕組みも作った。汚物を粉砕する水車とか作ってみたけどメンテナンス必要だね、下水道って。
下水は一旦地下プールに溜まりバクテリアで浄化して砂の浄水池を通して日光である程度除菌して海に流す。これだけのものを半日で作れるとかクーラーボックスのスキルが凄すぎる。
リン酸や窒素化合物は対策が思い付かないや。金属とかでいいのかね? まあ小規模なら気にする必要はないんだけど。工業化するなら考えるけど必要ないかな?
家自体は木を組み上げただけにした。屋根は三角屋根に継ぎ目のない板張りだ。普通は継ぎ目がないとか無理だよねえ。換気は良くしてカビを防ごう。収納してしまえばいいんだけどね、ホコリとかも。
昼にこちらに来て、こちらの星は朝方だったのにもう夕方だ。何も食べずに作業していたがワクワクしてお腹が減らないことってない? 全然お腹空いてないや。
でも釣りをしたいよね。釣りの準備もしたよ。リールは幸いに三号ラインを巻けるタイプだったので先糸を変えれば小魚も釣れるしシーバスくらいは余裕で釣れる。ただ、ロッドはテレスコの6フィート(180センチと少し)の短い物だから、7フィート二本継ぎのロッドと13フィート二本継ぎロッドをイメージして作っておいた。素材は元の竿を参考に強度を少し高めた物だし、リールシートはテレスコ竿の物をほぼそのままだ。メンテナンスは【設定】ダメージを素材で補修、道具に付着した塩分やゴミを収納して削除。と、しておく。
さて、三号ラインでまずはやってみよう。三号ナイロンラインは直径0,3ミリで5,4キロまで耐えられるので60センチくらいの魚でも楽に釣れる。そのサイズなら一食分なら一匹釣れたら問題ないだろう。
海用のミノー、イワシカラーを試してみる。この世界にイワシいないと思うけど、たぶん似たような魚はいるだろう。厳密に言うとイワシじゃない魚の名前がイワシと翻訳されることがあとで分かったんだけどね。インフォメーションさんの意外と雑なところというか、芸術にかかるセンスはないと断言してたよ。
さてさて、いよいよだ。私はこのために生きてる。
釣りを、始めよう!
装備は13フィート(約4メートル)ロッド、リールは120メートルの三号ナイロンラインを巻けるスピニングリール。ラインはそのナイロン三号、釣り場はサーフ、ルアーは海用ミノーイワシカラー。狙いはヒラメだ!
ヒラメいるかな? 異世界だしいないよね。まあ似たようなフィッシュイーターはいるだろう。フィッシュイーターというのは魚を食べる魚だね。肉食魚というといいのかな。ルアーに食いついてくるのはだいたい肉食だけどね。
肩越しに後ろに竿を担ぐように、真っ直ぐに構える。左手は竿を押さえ、右手はベール(糸を抜けないように固定している金具)を外したラインに人差し指をかけて、いつでもラインをリリースできるように構える。
大きく振りかぶって竿を肩越しに前に振り強くしならせ、ルアーが前方少し上に放たれるようなタイミングでラインをリリースだ!
ギュイン、と音を立ててラインがどんどんスプールから吐き出される。スプールは糸を巻いてる部分だ。けど……あれ? あっという間に糸がなくなって行く……。ちょっ、指でブレーキをかける!
あぶなっ、糸が全部吐き出されるところだった。糸がリールから全部出ると凄く切れやすくなるんだよね。やっぱりパワーがめちゃくちゃ高くなってるな。どういうことなのかインフォメーションさんに聞いてみるとこの世界の生物や道具は魔力を通すことで強度に補正がかかるらしく、私は無意識にそれができているらしい。今の私なら反作用をクーラーの力で跳ね返せるので直径2メートルの鉄の柱を殴り折ることも余裕だそうだ。ヤバい人じゃん私。
まあ、釣りだ。フィッシングキャップや偏光グラス(光のちらつきを抑えて水中が見やすくなるサングラス)を合成してかける。樹脂便利。
優しい風や穏やかな波が砂場に打ち寄せる音を聞きながら、潮風を吸い込む。空は青いし遠くには積乱雲も見える。竜○巣だー。ラピュ○はあるのかな? 魔法の世界だしね。
潮風めっちゃ心地いいな。ちなみに夏でも長袖を着ないと駄目だぞ。アウトドアのお約束だ。着ない方が暑いし太陽光や照り返しで火傷する。汗を吸ってくれるタイプなら気化熱で涼しくなるぞ。
ルアーを着底させて少し引いてみる。ちなみに水中が見えるわけじゃないので糸から伝わってくる感触で地形を判断しよう。最初は難しいぞ。
このミノーは中層を泳ぐサスペンドというタイプなんだけど、水が澄んでるので底近くを探れる。強めに引くと浮いてしまうのでゆっくり底を探る……と、来た!
ガツン、と、竿に衝撃がくる。お魚だ!
「ふぃーーーっしゅ!」
ヤバいねー、いきなり大物の感触!
この浜辺は人の気配がいっさいないからたぶん魚が全くスレてない。つまり釣り人に馴れてないので全く怪しまずに餌やルアーに食いついてくるので、入れ食いの予感はしていた。
入れ食いは餌やルアーを投入するたびに魚が食ってくるフィーバー状態のことだ。釣りは釣れなくても良いけど、やはり釣れるのが嬉しい!
かなり抵抗されるのでリールの防御システムであるドラグがキリリ、キリリと鳴りながら糸を吐き出していく。これによりラインへのダメージを減らしてくれるのだ。
暴れる魚。沖の方に頭を向けてるらしく真っ直ぐに沖に向けて竿が引かれる。竿を横に倒して頭をこちらに向けさせる。当然だが沖に向かうより手前を向かせた方が引きやすい。魚は後ろに泳ぐのが苦手だからだ。タコや海老は得意だけどね。むしろあいつらはゆっくりしか前に泳げないけど。蟹は横だ。蟹は釣らないけど。クーラーでゲットだぜ。毒蟹とかいるから気をつけてね。
しばらく格闘を続ける。リールを少しずつ巻きながらロッドをコントロールして魚に抵抗させずに体力を奪っていく。あ、タモさんも用意しよ。タモ網で釣り上がった魚を掬ってフィニッシュだか、ら、あれ?
デカい。なんで? 3メートルくらいある魚が寄ってきた。竿は耐えられるけどラインやリールは耐えられなさそう……。ああ、魔力で強化されてるってやつか。しかしデカい。タモさんには入りきらないよ。
さんざん抵抗してくれるその魚を、引き波で糸を切られないように注意しながら寄せていく。波が引くタイミングで沖に逃げられると糸が切れやすいんだよね。水は重たいよ。
寄ってきた魚は……オヒョウ?
いや、大ヒラメだ。左ヒラメに右カレイ。ヒラメの歯はギザギザだ。オヒョウはカレイの仲間だよ。釣りあげて確保したのでクーラーボックスさんに収納して名前鑑定。
『小角浜ヒラメ』
ほうほう、角は生えてないけど小角浜ヒラメというらしい。多分小角浜というのは地名だろう。アメリカザリガニ的な。
ゲームみたいに白い枠のピンク色の窓が目の前に開き、白い文字で魚の名前とサイズが表示される。3メートルを超える全長で重さも300キロを大きく超えている。凄い大物! これを簡単に釣り上げるとか、自分の体が化け物になってるな……。
単純に食べられる部分が半分として150キロ超えとか、何日かけて食べればいいんだろう。私の体重は変わってないから引き込まれてしまわなかったのは幸いだ。これから気をつけないとね……。
他の魚がスレても嫌なので、今日はその一匹だけにしておくことにした。……オヒョウなんてもちろん釣ったことがない。頬が引きつり上がり、勝手にニヨニヨと気持ちの悪い笑顔になってる感じがする。うへへ。やったぜ。
今日はここまで。明日も五話くらい載せます!