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芋女伯。

 どうもー、除光液でーす。今日は芋焼酎さんの家にお邪魔しておりまーす。


 改め、ユーミ女皇帝でございます。芋女伯とか領民に呼ばれている、カリン・マーティス女伯爵の家に取引に来ております。


 先手として芋女伯の息子を猿轡かましてロープで巻いて引っ立てております。罪状は女皇帝を謀った罪ですね。重罪です。


 さっそく女伯さんのおうちにお邪魔してみましょう。今日のお昼御飯は芋のようですね、湯気がすでに薫ってます。


 んー、執事さんとメイドさんに自己紹介しましたら執事さんは慌てて走っていきメイドさんはこちらにバレない程度ににらんできています。どちらもよく訓練されているようですね。それがバレるようじゃまだまだだと思いまーす。


(ずいぶん好かれてるみたいね)


(女伯はリッタ王子が言った通りやり手みたいね)


(だけど家臣の教育が甘い。最近旦那が死んで家を支配し始めた感じだな。旦那はどんな糞伯爵だったのやら)


(やっぱりそう見るわよね)


(まあ私たちが話すのは芋女伯だよ)


 しばらく待ってるといやに若々しい女性が子供を数人連れて部屋に入ってきた。


「おばあ様、一緒にいてもいいでしょ?」


「相手様が断られたらすぐに出ていくんですよ?」


「子供とかいいわね。私も早く作りたいわ」


「そうだな。まあ俺は結婚してるしなあ」


「なによ、つれないわね」


 おっと、お互いにお芝居が始まりました。これ、この子供の中に真偽判定できる子くらいいそうだわ。たぶんカリン女伯に抱きついてる子だね。リンヤも分かってるもんで、わざとらしくマーベルと嘘をまじえた話をしている。子供が嘘のたびに女性の袖を引っ張ってるけど女伯らしき彼女は苦笑いしてるね。


 なんというか子供のミスが可愛いね。あと女伯、おばあ様とか呼ばれてるけど二十代にさえ見える。これとんでもない化け物なんじゃないだろうか。この世界じゃ魔力で若さが維持されるらしいしね。つまりすごい魔力の持ち主なのだろう。私も十代に見えるらしいけど。


「ごめんなさいね、女皇帝様。この子達は私の孫でして、貴族社会を学ばせるためにこういった機会には社交の場に出すことにしているのです」


「まあこちらは得体がしれないのは理解してますよ。あ、これお届け物です」


 縛ってる息子をつきだしてみる。子供の何人かが父さま言っちゃってるね。彼女の判断ミス……じゃないんだろうね。油断を誘ってるんだ。ちなみにこちらはこの子供たちの中に「嘘尽」がいても仕方ないと暗に言ってる。しかし女伯の息子に対する反応は面白いくらい冷たい。


「お持ち帰りください」


「いりません」


「相手様もいらないみたいだし処分してもいいんじゃない?」


「そうしよっか」


「むごーむごー!?」


 向こうもおざなりだからリンヤとおふざけで息子をゴミ扱いしてみせる。どう判断するのかな?


「じゃあこちらでその辺に捨てておきますわ」


「じゃあどうぞ」


 カリンさんは息子を受け取った。まあそうだよね。お互いに伯爵の嫡男を駒と思ってるのが面白いけど。


 芋女伯とか呼ばれて放置してるくらいだから想定はしてたけど、カリンさんはかなりの変わりものみたいだね。マーベル、なぜ私を見て「おまいう(お前がいうな)」って顔してるのかな?


 でも話しやすそう。嘘尽以外にも手駒があるんだろうか。人の思惑を知るような、その辺りのスキルには詳しくないなあ。いろいろスキルあるから知り尽くすのは無理だけど。


 まあいくらでもチェスに付き合うよ。こっちのクイーンは相手には剥がせないしテーブルをひっくり返す用意もあるからね。私無双。


 種馬の息子を放置しているのもこの子達みたいな手駒が増えるからか。なるほど。種馬本人も分かってやってそうだね。


「単刀直入にいうと飯を持ってきたから山でもちょうだい」


「山? 銀山は確かにありますけどしょっぱいですわよ?」


「母上、なぜ抗議してくださらないのです」


「私に息子はおりません。下の息子しか」


「上の息子はー?!」


「野山に返しましたわ。このゴミうるさいですわね」


「まあ隅っこに捨てておいたらいいですよー」


 私とカリンさんはなんとなく打ち解けてきた。これって息子を使ったカリンさんの策だとしたら息子も読み取ってるのか。怖いな。でもリンヤはしっかり切り込んでいく。私は別にチェスをしに来てないんだよね。


「山は山ですわ。うちの女皇帝が切り崩します。そうですね、銀が出るようならお返ししてもいいですよ。食料品の対価分はいただきますが」


「! (銀山をいくつか探してくれるというの? いや、山を切り崩すことまでできるの?!)」


 かなり動揺してるね。私のスキルの破格さにもう気づいてるね。そこに着眼してる時点ですごいのかも。


「は、母上」


「うるさいゴミね。ごめんなさい、このゴミを少し捨ててきますわ」


「はい、どうぞ」




◇(side カリン女伯)



 これヤバイ。あかんやつや。息子が手も足も出なかったのは見てとれるし、おそらくは、と推測されるスキルがヤバすぎる。穏便な取引で大量の食料品を手に入れて銀山まで見つけてくれるなら手も足も出ない、というか出す必要がない。下手な取引はできないからここでこのバカ息子をはずしても問題ないけど、ほとんどチェックメイトだわ。うーん、でももう少し遊びたくなっちゃうのよね。女皇帝様のグイグイ攻めてくる感じがゾクゾクするわ。


「母上、ナンパしただけで私は拐われたんですが」


「彼女が女皇帝とあらかじめ知っていて取り入ろうとしたその魂胆が一瞬でバレたんでしょ。馬鹿ね、詰めが甘いのよ。そもそも貴方がどうされても私に関係ないじゃないの」


「ひどい」


「それより、魔法もスキルも問答無用で捕らえられたんでしょう? しかもこの動きの速さ。貴方が小角湿原奥地に行くまで何日かかると思う?」


「小角湿原奥地って二、三百キロはあるんじゃ……。魔物は手強いし足下もユルいから……片道で二週間?」


「あの女皇帝の噂が上がりはじめて二週間というところ。国に帰ってすぐ移動なんてあり得ないし、リッタ王子を迎えてからこちらに来たと考えるならもっと短い。噂通りならテレポートスキルも持ってるわ。まず収納持ちという話なのに。しかも戦力としてSランク冒険者で貴方のスキルを使えなくできる。こちらが何をしても揺るぎないって自信を持ってるのよ」


「なにそれ、とんでもない……。それこそこっちはチェスをしてるのにむこうだけ斧持ってチェス盤で木彫りの熊でも作ってるようなもんじゃないの」


「ゴミのくせによく分かってるわね。このゴミどこに捨てようかな」


「それ振りじゃなかったの?!」


「このゴミよくしゃべるわ」


「そろそろ泣くよママン!?」


 さすがに冷静ではいられないわよ。それで私のところに来たというのはおそらくはリッタ王子の差し金ね。あの腹黒王子のことだからチェス盤を何枚もひっくり返してリバーシで遊ぶつもりなんだわ。それくらい威力のある一手ね。なにそれ始める前に詰んでる。


 食料品と銀、それとうちの人間が欲しいのね。人間は間接的になら貸せる。ただくれてやるわけではないのが憎らしい。おそらく目的は……貿易とリートとの関係改善と辺境伯や公爵への間接的干渉か。そして小角からは手を引けとね、なるほど。まずは……。


「パリツ。残ってる銀をまとめてラグラを通ってリートに向かいなさい」


「ええ、息子を山賊につきだすつもり?」


「それくらい分かりなさい」


「ひどくない?」


 食料を買い集め北に送ったばかりだから余った銀は大したことない。でもラグラが傭兵を雇う程度にはなるでしょ。借金にも応えてやろうかしら。ラグラに開戦させて私はむしろラグラを許さない形にするわよ。痩せ領地は治めさせてもらうわ。ふふ、上手くやらないとね。北と東はリッタ王子と女皇帝に任せるのが一番だわ。悪くない。……悪くないわ。これがリッタ王子の策なのが面白くないくらいよ。


 さて、リッタ王子の最終的な思惑はどこに。あの腹黒ならもう終盤の盤面を見ているはずよ。


 歯がゆい。こちらは盤面の駒がまず全部は見えてないわ。






カリン「……女皇帝陛下は芋好きかしら?」


パリツ「普通に食うんじゃない?」


カリン「なんでよ、あんなに美味しいのに」


パリツ「うるせえ芋女伯」


カリン「その芋から生まれたのはこんなゴミクズだしね。ほっぺはよく伸びるわね」


パリツ「ごへんなひゃいママン!!」


ユーミ(なにを話し合ってるんだろうね。怪しい)


マーベル(……なんか途方もない手を打ってくる気じゃね?)


リンヤ(どうかしらね……ずいぶん長いし、これは気を引きしめないと!)


パリツ「この芋女ー!」


カリン「そんなこというのはこの口? この口?」


パリツ「いひゃひゃひゃ……ッ!!」




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