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御使い。

(side カリン・マーティス女伯爵)



 全くつまらないことになっているわ。


 御使いが現れて龍鱗川の小角湿原側だけを開拓していることが発覚して、隣領であるうちとラグラ男爵家が名指しで非難された。周到なことに王家はその相手である小角首長国、ユーミ帝国の二国と同盟の動きを見せている。本来は小角湿原まではイストワール領であると敵国ノーゼリアには主張していたのに、責任は我々に問うくせにあっさり手のひら返しで領有を認めるとか、あり得ないわ。


 しかしそれが通ってしまう。戦時でありダライ辺境伯は内に山賊外に敵国と毎日のように戦争に駆り立てられている。そしてその兵糧などはうちから差し出さないといけない。対価は頂いてるとはいえ、うちだって長寒期の飢えは押し寄せてきているのだ。私自身最近は芋ばかり食べてるのに。リートから海老とか贈られてくるけどあれってイヤミよね。うちは食えてるとでも? 美味しくいただいたけども。芋と炒めるとなかなかいいのよね。塩とかもリートは美味しいし、最近は胡椒とかいうのが小角族の方から売られているらしいわ。美味しいのよねえ。芋に合うのよ。全くリートばかり、海際は羨ましいわ。芋で海老をわけてくれないかしら。


 うちの領地も海に接しているのにね。断崖絶壁なのよね。船も出せないわ。自殺の名所としては有名よ。


 ラグラなんて内陸で寒く、不衛生で病がはびこって、小角狩りを再開しないと領地が滅びるとか言っている。領民も馬鹿じゃないから搾取されてるのは分かってるでしょうに。お前の腹に詰まった脂肪を売ればもう少し領民も豊かになるだろう。可哀想なのはラグラの領民と貴方の毛髪残量だわ。まあ一領主が飢えるほど切り詰めたところで万の領民が食えるはずがないんだけどね。例えば年収二千万グリン(※およそ6億円)の領主が一グリンも残さずばらまいても一人当たり一年で二千グリン(6万円)よ。とても一年の飢えは緩まない。そして領主のいない領地なんて山賊の餌だ。道も騎士団も法すらも当然維持はできない。維持する人が消えるんだから。


 しかし、あの歪んだ顔のハゲ頭のデブときたら、寄り親にあたるうちに戦争の費用を出させようと脂汗をかきながら毎日のように頭を下げてくる。相手は小角族? 勝てると思ってるのかしら。御使い様まで現れたのに。いつも芋を食べて帰るのやめてよね。私の芋よ。


 あんたらが小角湿原の監視を怠ったから私たちまで吊し上げられたというのに。おまけに息子と来たらもう母上は隠居なされるべきでは、などと。


 領地で金をばらまきあちこちに私が顔も知らない孫を量産してるあのバカ息子が継いだらそれこそマーティスは終わる。なんとかもう一人の息子か娘婿に継がせたいがさすがに実の息子を始末したでは外聞が悪すぎる。あの馬鹿息子はそういうとこだけは勘がいいしね。誰かこっそり始末してくれないかしら。包丁持って突撃する娘くらいいないのかしらね。成功したら騎士に取り立てるわ。芋もあげちゃう。称号は芋騎士よ。


 バカ息子の周りで人が消える? その人たちは諜報部隊に回って戸籍を消してるのよ。そういうとこ抜け目ないのよ、あのバカ。


 痩せ衰えていく我がマーティス領を支えるためには戦争が必要なことは理解している。しかし戦費がどこにある。痩せているのだ、この領地は。芋しか採れないし、しかも敵が強すぎる。周りにいるのは辺境伯に公爵に小角族と、勝てる相手がいない。もう馬鹿ハゲデブの領地取っちゃおうかな。痩せてて旨味ないけどね。


 豊かなリート子爵領に金を借りるなどもできるはずがない。ラグラを挟んで三百年睨みあっている敵なのだから。しかもやつらは小角族と仲がいい。海で食べ物も採れてるし羨ましいったらない。


 隣領であるブラーム公爵家もダライ辺境伯に援軍を送りながら内乱にも対応している。領内は山賊で溢れかえっていて騎士たちは毎日のように遠征。冒険者から騎士に引っ張りあげるしかなくなってその結果騎士の質も下がる。そして冒険者を引っ張りあげたら魔物が増える。馬鹿のようだが本当に人が足りない。食物もない。金もない。時間もない。プライドももうすり減った。うちも山賊は多い。魔物も多い。資源は辛うじて銀が採れるがその埋蔵量も怪しい。銀はそのままでは食えない。商人も魔物に難儀してる。寒い。野菜が育たない。こんな領地を出来の悪い嫡男になど任せたら三ヶ月もつか怪しい。戦争する相手が身内しかいない。


 詰んでるわ。


 御使い様もなんでうちの領地に落ちてくれなかったのだろう。小角湿原に星が落ちた日、私もたまたまその雲を引く星を見ていたのだ。地平線の向こうに落ちていった御使い様。なぜこちらでなかったのか。


 まあうちに落ちたらバカ息子に食われたかも知れないけど。女性嫌いと噂のあったリッタ第三王子がご執心するほどに美しい方なのだというわ。私も一度会っておきたいのだけど、なかなかに忙しくて小角湿原を越えて会いに行くというのは物理的に無理ね。テレポートできる配下でもいればいいのだけど、テレポートスキルなんて十万人に一人使えればいい方じゃなかったかしら。御使い様が使えるという噂はあるわね。


 私のスキルなんて筆断とかいうしょっぱいスキルなのに。紙だけあれば文字がかけるという、それ、インクで代わりできるじゃないってしょっぱいしょっぱいスキルなのよね。ラグラのハゲ頭にも書けるけど。ハゲって書いて送り返したらすぐに鏡でも見たのか真っ赤な顔で怒鳴り込んできたわ。すぐ真っ青になって帰ったけど。さすがに寄り親にいたずらくらいで怒鳴り込むのはね?


 息子のスキルの方が使えるわ。放談というスキルで怒鳴ると空気の弾丸に変わるという、まあやっぱりしょっぱいけど、使えるわ。それなりにね。私のスキルの方が面白いけど。息子の頬に渦巻きを書いてやったりね。赤色も使えるのよ。ピンクとか笑えるの。


 あの息子のスキルがないならとっくに家を出してるんだけど。どうせ小角族の月神の矢には勝てないしね。ラグラ男爵はあの月神の矢の痛みを忘れたらしい。もう百年は経つものね。一軍が抉れて消えたのよ? あんなヤバい技しっかり記録に残さないとね。ハゲ頭に書いとく?


 小角族が食われるだけの獣だと思っていたら痛い目を見るわ。長生きする小角族は五百年を生きるという。たかだか百年前の戦争で活躍していた戦士が干されてニートになっているはずもない。また前線に出てくるわよ。迂闊に戦えるはずがないわ。


 あんな大戦士がニートになってたら笑うわね! 小角族の英雄がニート! やばっ、お腹いたい! やっぱり芋を食べ過ぎたわね!


 ああ、また客が来たのね。誰? ダライ辺境伯の使いかしら。食料はもう出せないって手紙書いたけど、その返事とか。早すぎるわね。ラグラの馬鹿かしら。追い返しなさい。その腹に詰まった脂肪を食らえとか言って、もう可哀想なくらいしかない毛髪を抜いてから送り返してやりなさい。


 え、違う? ユーミ? 誰よ? え、じょこうてい? みつかい?


 早急に芋を用意しなさい! リートの塩と胡椒もつけるのよ!






ユーミ「芋……」


カリン「芋ですわ」


ユーミ「なに芋?」


カリン「ダンジョン芋ですわ」


ユーミ「ダンジョンで採れた芋……」


ホタテ「芋は畑で採るのだ」


カリン「畑で芋が採れるのですか?」


ユーミ「採れないの?!」


カリン「採れますわ」


ユーミ「私この手の人苦手かも」




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