うそつき。
(side スルメ)
今日も忙しい一日が終わる。犯罪が起こるたびに呼び出される真偽判定官は忙しすぎると思う。
小角族なのに守られていたりするのはこの嘘尽のスキルのお陰ではあるので文句は言えない。儲かってもいるしね。
儲かってはいるがタダ酒は好きだ。最近は女皇帝も来ないし、ブルーに奢らせるしかない。
「なんでギルマスにタカるにゃー!」
「お金持ってるからだっつの」
この街で一番お金持ってるのはリート子爵を押さえてこの女だと思う。猫耳獣人娘のギルドマスター、ブルーだ。
やはりただ酒は美味い。さあ今日はどの店にしよう。
「奢らせるなら私に店を選ばせろにゃー!」
「ブルーはセンスが悪いっつの」
このあいだもなんか生焼けの肉を出す店に誘われて、この生血の味がいいんだにゃーとか言っていた。肉食獣と一緒にしないでほしい。
今日は海鮮にしよう。港町リートではやはり海鮮に軍配が上がる。海老も蟹も魚も美味しい。今日は包み焼き食べようかな。
「そういえば例の女皇帝のとこにリッタ第三王子とカンポス第二王子が派遣されたらしいにゃー」
「海老が美味しいつの」
「イストワールも女皇帝にゆれてるにゃねー。あ、蟹もきたにゃー」
「美味しいつの」
「まあ天神様の御使いなんて百年はないらしいし、スキルがべらぼうにゃー。危険人物扱いもできないし厄介にゃー」
「悪いことはしてないつの」
「しててもたぶんわからないし証拠隠滅もやりたい放題だったりしないかにゃー?」
「だったらどのみち真偽判定でしかわからないっつの。そして私はする気はないつの。命が惜しいつの。あ、白ワインもう一本っつの」
「飲みすぎにゃー。まあ小角だから仕方ないにゃーけどにゃー」
「酒を奢るのは善人つの。ブルーも収賄してても真偽判定しないつの」
「してないっつのにゃー」
「白つの。つまらないやつだっつの」
「つまらなくていいにゃー」
全くお酒以外楽しいことがないっつの。シニアンとか引っ張って女皇帝の国に行きたいわね。いくらでも宝石とか売ってくる女皇帝様はたぶん一億グリンくらいはポンと払えるレベルのお金持ちだわ。取り入ってたくさん飲みたいっつの。ホタテ様の里のカイバシラは今や小角首長国を名乗り、リートも正式な貿易を始めようとしていると聞いている。
なかなかに楽しいことになってるわね。それに遅れるのは損失だと思う。タダ酒飲みたいっつの。
「リート子爵を困らせたくないから引き上げは勘弁にゃー」
「わかってるっつの。でもそのうちみんなでタダ酒飲みにいきましょう? っつの」
「タダ酒前提にゃねー」
タダ酒が飲めるなら小角族はどこにでも行くわ。ドワーフと小角族の前に樽酒はなく、後ろには空き樽があるのみ。イストワールでは有名なことわざだ。小角族を狩るには刃物はいらない、樽酒の檻があればいい。もともと警戒心の薄い小角族は酒を持って近づけばころりと騙せるのは有名だ。都会派小角族は私みたいな嘘つきもいるけどね。普通の小角族は頭が緩い。まあ悪人も少ないのだけど。
そういえば百年ニートしてるいとこが魚を獲るようになってもてはやされているらしい。今の調子なら結婚もするかも知れないとか。あのニートが信じられない。これが御使い効果なのか。百年前の男爵との戦争ではあの兄弟の合わせ技が「月神の矢」とか呼ばれてて盛大に噴いたものだが。あの技の正式名称が「カツオノエボシ砲」という名前だと知ったらきっと小角の英雄と呼んで今でも伝説を語る人々もがっかりするに違いない。面白いから話さないけどね。
だいたい国とも戦争してたホタテ様の世代の方がヤバイんだけどね。ホタテ様の占星の奥義は全てのスキルや魔法を見破る反則のような技だし。使うとしばらく寝込むらしいけどね。
小角族の元に御使いが来たのはやはりなにか理由があるんだろうか。やる気を出した小角族ほど厄介な生き物はいないと思う。伊達に狙われ続けてない。
今までは湿原や山脈で守られていた小角族だけれど、これからは私のように都会に出てくる小角族も増えるのかも知れないわね。もともと小角浜は遠浅で船が通るには難所だったのだけど、ミナミナが作ってる小型高速船がなかなかいいものらしく、最近では食料などをリートに買い求めに来るようになった。今はリートも豊かだけど、長寒期だ。食料はいつまでもは採れないだろう。
海際のリートだからこうやって食べるものがあるけれど内陸のラグラやマーティス、ダライでは農民が山賊化して争いが絶えないという。ラグラはリートの豊かな土地に手を出したり、小角狩りしたいだろうけどマーティスのカリン女伯爵は戦争に消極的だ。ダライの戦争に巻き込まれて旦那を亡くして女だてらに伯爵をやることになったのだ。やはり戦争に嫌気がさしていると見るべきか。
嫡男のパリツが野心家なようなのでそこが権力を握ったらどうなるか分からないが。あの男は嘘尽で見なくてもわかる真っ黒ぶりだ。貴族なのでそう簡単には裁かれないが、あの男の周りから何人もいなくなっているのは分かっている。中に貴族がいれば調査も入るのかも知れないけど。
そもそも王族も暇じゃないだろう。御使いが現れて小角は国家を名乗り湿原を支配していく。指をくわえて発展を見ているだけとはしなかったのは立派だが、御使いのスキルが不味すぎる。本人のスキルではないから真偽判定にもひっかからないとか念が入ってる。喋らせることはできるけど、対抗できる手段が恐らくは存在しないのだ。
なのでリッタ王子に取り入れさせるというのはなかなかいい手だと思う。あの御使いが変にガードが固くなければだが。リンヤが調べたところ、どうにも恋には興味がなさそうである。自分に自信がないようにも見えないのだが。大きいから気にしてる? どうだろう。
小角族なんて誰か別種族とつきあおうものなら相手が子供趣味だと思われるからこちらの方が恋愛は難しいのだが。まあ長生きな小角族なのでのんびりしたものだ。
「リート子爵がおみえです」
「仕事つの?」
「めんどいにゃー。まあどうせくるにゃ?」
「きたよー。二人とも飲むなら僕を誘ってよ」
「嫌だっつの」
「ごめんだにゃー。堅苦しいにゃ」
「えー。僕ほど柔らかい貴族いないのにー」
「とかいいつつどうせ御使いの話とかはじめるにゃ?」
「黒つの」
「うんまあ、それを聞きたいんだけどね」
王家が動いてるのにこの兄さんは鈍足だ。まあラグラ男爵なんてまだちっとも動いてないけど。リート子爵は私たちを信用してるだけかもしれないけどね。
面倒だけど仕方ないわね。分かってることだけでも伝えておきましょう。それに子爵に奢らせたらまたブルーにタカれるわ。美味しいわね。
いつも通り大事な情報はぼかして伝えておきましょう。また聞きにきたらタカれるからね。この町で一番の嘘つきは、真偽判定官の私だっつの。
ホタテ「飲むのだ」
アジ「む」
ブリ「出番少ないのう」
カツオノ「いやまあ、これから活躍するけどな」
リンヤ「恐ろしや……」
ユーミ「小角族とのんびり過ごすのが夢なんだけどねえ」
ホタテ「信愛の小角グリグリ」
ユーミ「普通に痛い」