ミナミナの獣人。
このお話は気長に読んでください。もうすぐあの子が来ますので。
皆には飲んでてもらい、宰相だしSランク冒険者だしエルフなリンヤと、執事の内務官ジルと、外交を任せたいマーベル、戦力として荷運びの勇者セルトと水中で戦える半魚人のハーチアで向かう。
エルフの大魔道士のベリーや怪力バーリは戦えるので控えていてもらおう。シロルはダークエルフでネシアもエルフだし魔法は使えるけど、ドワーフたちと最後の守りに控えていてもらおう。いらないとは思うけどね。私が無敵だし。
だいたいドワーフはお酒の方が大事そうだしね。普段仕事はさせてるからいいや。
「我も行く」
「え、ホタテさんは飲んでていいよ?」
ホタテさんも小角首長国のリーダーだから参加した方がいいか? まあ相手は人間の国ではないようだし、問題ないか。むしろ貿易とか始められたらいいよね。
表に出ると強い潮風が吹いてくる。夏も本格的に始まろうとしているので涼しくていい。ミナミナ獣人自治国の船がゆっくりとこちらへ向かってくる。大きさはそれほどでもないが三角帆の帆船だ。脚が速い。この間にリンヤにミナミナ獣人自治国について聞いておこう。
「ミナミナは元々はサウラル帝国の領土だったわけだけど、獣人たちが集まって一つの領地を作ったのね。それで独立を目指していたんだけど帝国側が強硬だったために、自治国という形で落ち着いたわけ。帝国ではミナミナ自治領って呼んでるはずだよ」
「ん、でも戦争してなかった?」
「最近のことだから詳細までは掴んでないけど、自治領の主権を返上させるための武力行使の名目でぶつかってるはずだけど、どうだろう。その辺りは聞いてみた方が確実かもね」
「そうしよう」
まあ特に興味もない隣の大陸の話なんて普通は熱心に調べないよね。情報も入りづらい文明レベルだし。
船が到着しそうなところでこちらからハーチアを向かわせる。向こうからは鳥の姿をした、顔もワシみたいな獣人が飛び出してきた。まさか攻撃されないと思うけどハーチアには20メートル以上は離れないように言っておく。
と、なにやらワシ獣人の方がハーチアに絡みにいった。風魔法を撃たれたようだがハーチアがブロックしてすぐに水魔法を撃ち返してびしょびしょにすると墜落した。なんだあのマヌケ。どうでもいいが私の身内に攻撃したので少しシメてやろうね?
クーラーの範囲内なので【セット:逆さ吊りスキル】発動。喋る以外の運動能力を収納して奪い逆さ吊りの状態で私の眼前3メートルに空中3メートルの高さで浮かせる。漏らしたり唾を吐いても削除する。当然あらゆる魔法を収納、スキルは分解する。
逆さ吊りを発動してワシ男を私の前3メートルの見やすい位置に逆さ吊りにする。睨み付けてやってから、ここから【セット:永遠落下スキル】を発動。逆さ吊りの状態で空気抵抗と摩擦を奪い呼吸だけさせて25メートル上空から自由落下。残り5メートルで収納、25メートルから自由落下を繰り返す。何かが間に入ったら回避。永遠に加速しつつ落ち続けるのでよろしく。気を失ってもインフォさんが起こすから大丈夫。
「うぎゃあああああああ……」
「落ちるのって怖いよね。私も経験あるー」
「うわー、オレ絶対姐さんには逆らわねえわ……」
失礼ダナー。セルトったら失礼ダナー。あ、土下座はしなくていい。それ大嫌い。謝ったり痛い目をみたりでは許さないからね。態度を示すの、これ大事。まあ謝る意思を見せるのは大事だけどね。
「もうからかいませんて」
「ちょっとした冗談にそんな目くじら立てないよ。普通にしてていいから」
「嘘だ、今の目は人を殺せる目だ。視線だけで」
「ああん?」
「それそれ! 怖いって!」
セルトは面白いな。荷運び勇者セルト。大事にしよ。
あ、やっと獣人の船がハーチアの誘導で接岸した。慌てて二人の獣人が駆けてきたな。どうする? 仲間がひどい目にあってるから暴れるとか? いいよ? それくらいなら永遠落下もしないよ? 仲間は大切だもんね。
スライディングタックルしてきた?! いや、これ五体投地だ! 謝るのはいらんというのに。まだ言ってないか。
「立ってー。謝罪は受けないからねー。私は謝られるのも感謝されるのも嫌いです。それを念頭に話し合いましょうー」
「も、申し訳ない……いや、そろそろ止めてやってください。なんか音速超えてそうなんですけど。ごあー」
「ウチからも謝罪しますコン」
「久々に獣人語が来たね! いいよー」
とりあえずお話にならないので下ろしてやる。まあ謝る態度だけ見せる人っているでしょ。あれが苦手なのよ。他人なのに、第三者なのに相手に謝れとかいう人も大嫌い。強制的に謝ったって謝罪にならないからね?
「ユーミ様、私のために怒ってくれて嬉しい!」
「そか、ハーチアの嬉しい気持ちが嬉しいよ。今日は焼き魚だね!」
「焼き魚は大好きですが私を見て言わないで!?」
「じゅるり」
「やめて?!」
冗談だよ? 私は冗談の分かる女皇帝だよ? その嬉しいっていう感想は気持ちいいね。それだけでいいんだよ。
「女皇帝っていうか邪皇帝だよな」
「セルト、いい度胸ね!」
「ひいー!」
まあ何もしないけどね。単なるじゃれあいだし。髪をわしゃわしゃにしてみた。なんか喜んでない?
あ、ワシ男は仰向けでヒイヒイ息をしてるね。まあそう簡単には立ち直れないよね。ショック死しない程度に脳内麻薬はインフォさんが操ってるらしいけどね。そういうとこ有能だよねインフォさん。というか怖い。『見事なブーメランですね』うるさい。
「き、き、しゃま、ひ、ひきょ、くえー」
「もう一回イキたいの?」
「しゅいましぇんくえー!!」
うーん、プライドの高い馬鹿な子みたいだね。まあこれだけ脅しといたら大丈夫かな? と、思ったんだけど後ろを向いたとたんにワシ男は魔法を撃ってきた。攻撃されたらコミュニケーション以外は【セット:永遠落下スキル】が自動発動するようにしてみた。
「かかったなっくえーーー!?」
「あの子物覚え悪かったりする?」
「本当に申し訳ない、最初から穏便に行くように言ったのにあれですから。ごあー」
「虎獣人語可愛い!」
「嬉しいですなごあー。やはりあなた様は御使い様ですか? ごあー」
「まあそうだね。皆さんは何しにきたの? あ、私は、ユーミ・カワハラ・フィシャーガール、女皇帝さ!」
「あ、これはどうもごあ、私はギムレット、こちらの狐娘はメアリー、そこで延々と落下してるのはモヒートともうしますごあー」
「インフォさん、次はカクテル攻めね。あ、こっちの話。よろしくね!」
獣人たちを連れて宴会に戻ることにした。私の力を見せるにはちょうどいいしね。あ、もちろん黙秘してもらうのは忘れてない。ワシは邪魔くさいので虎のギムレットさんに許可をもらって隷属の首輪をはめた。だってあのあとも同じこと繰り返すんだもん。鳥頭にもほどがある。三歩歩いたらだいたい忘れてる。
メイレン「陛下はモフモフ好き」
ユーミ「ま、まあ好きだけどね」
メイレン「可哀想に」
ユーミ「ネタバレ禁止ー!?」