新帝国民。
ふう、やっと家を買う段階まで来たよ。なんか疲れた。アリナリアさんには手早く手続きをしてもらった。
買った家は冒険者ギルドに近いけど目立たない感じの家だ。坂の脇にある辺りが生家を思い出させる感じで良かったので即決した。石造りで花壇も少しある小さな家だ。家のコピーしておこう。焼かれたりしたら困るしね。
「ユーミ様はお仕事はお受けになられないのでしょうか?」
「うん、好きなことしかしないよ」
「素敵ですね。私もそれで生きれたらいいんですが。あ、ここにサインで手続きは完了です」
「はーい」
お金の方はクズ宝石を固めただけの宝石であらかじめ払っておいた。クーラーで固めたから一つの大きな宝石と変わらないけど、実質タダ。やり過ぎたら駄目だろうけどそもそもこの家に住まないからなぁ……。リンヤもなにも言わないね。
「うーん、意外とユーミって男嫌い?」
「いや? 普通に好きなのは男性だけど」
「ユーミにも人の好き嫌いってあるの?」
「ええ、普通にあるよぉ。リンヤやホタテさんとかはのんびり一緒にいられるから好きだよ」
「アジとか苦手?」
「アジさんは気を使ってくれすぎるから苦手な方。でも欲に忠実なとこがある小角族はだいたい好きなんだけどね」
「なるほど、ユーミってそうなのね。でもユーミも小角族のためにやり過ぎな気もするけど?」
「いや? 好きなことを適当にしかやってないと思うけど」
「そう。じゃあ恩返しとかされたら嫌なの?」
「うん、スッゴい苦手。好きなことしてるだけだし。向こうが好きになんかくれるなら普通にもらう」
そのままリンヤはうーん、と唸ってるね。おっと、犯罪者は隷属状態で全員を取り出した。首輪は足りなかったんだけどあらかじめアリナリアさんに言ったら収納から取り出して売ってくれた。彼女はギルド職員はしなくても食べていけるだけ既に稼いだらしい。でも仕事してないと悪いことしてる気になるのでしてしまう、ので、私に憧れるそうだ。
分かるような分からないような。
「人間は大抵自分に似た人間が嫌いで反対の人間が好きって言うけど、ユーミの場合は違ってる気がするなあ」
「人間は好きなタイプになりたがるんだからいつまでも反対じゃないってだけじゃない?」
「そもそも信念がしっかりしてるから適当なのに真面目に見えるのかな」
「私ももう少し遊ばないと駄目かなとは思ってるけど、ある意味必死で遊んでる気もするんだよねー」
「ニートだしね」
「間違いないね。おっと、犯罪者の皆さーん、皆さんは完全に隷属されてます。ギルドまでキリキリ歩いてくださいねー」
どうでもいい相手だとこんな感じだし、やっぱり人の好き嫌いはあるよね。犯罪者さんたちに正直に罪を話すように言っておく。隷属してるから真偽判定官必要ないね。ちょっと取り調べ見たかったけど必要なさそう。
「なん、これは」
「は? ベティーちゃんは?」
「俺はコーヒーを飲んでたはずじゃ……」
「どういう状況だ?」
そういえばこの人たちいきなりクーラーに吸い込まれたんだね。それは戸惑うわ。
「コーヒーあるんだね。逆に紅茶とかなかったりして」
「発酵茶ならあるわよ」
「発酵茶って……間違ってないけど間違ってる……。コーヒーもそのまんまコーヒーじゃないのかも……」
犯罪者の皆さんがどんな状況でクーラーに捕まったか知らないし、インフォさんがどうして犯罪者と判断したのかも若干興味あるけどそれよりはコーヒーが気になる。
『現行犯はもちろん、会話内容や取引していた薬物等から判断して捕らえています。記憶データを検証済みですが内容は公開できません』
「犯罪になる薬物もあるの?」
「コーヒーも発酵茶も合法だけど、違法薬物はあるわ。ちょっとユーミが聞いたら気分の悪くなる薬とかあるわ」
「小角族の角?」
「そのものではなくて合成して効果を高めて副作用を抑えた小角秘薬って麻薬があるのよ。医者がヒーラーを待つときや、Aランク以上のヒーラー系冒険者なら緊急性があると判断したら使っていいことになってるんだけど」
「完全に非合法じゃない感じ?」
「個人的に使うのは非合法ね。麻酔として効果は高いし、小角族自身、角を売らないと食べられなかったからね。ユーミが湿原を開拓してるから数年したらそれも必要なくなると思うけど、一応小角族の財産だからね」
「まあ分からなくないけど」
気分がいいかは別問題だけど。奴隷と同じくらい気分は悪いけどね。でも亡くなったあとに家族に残せる財産と考えるとなかったらなかったで困るのか。普通の人間にはない感覚だね。死んだあとに臓器を売れる感じだろうか? やっぱりあんまり気分は良くないね。
そのあと犯罪者さんたちは冒険者ギルドに連れていった。潜伏していた賞金首とかいたのでまあまあお金になったよ。だいたいは犯罪奴隷になるみたいだね。一応真偽判定も街住みシティー小角族で、嘘が分かる嘘尽と言うスキルを持ってるスルメさんがしていた。何人かは複数罪状があると分かったので全部吐かせるまで時間がかかるので後日お金をもらうことになった。
その足でアリナリアさんに紹介してもらった奴隷市場に行く。アリナリアさんにはアリーと呼んでほしいと言われたので以後アリーと呼ぶ。あ、犯罪者を取り出す前にはアリーは帰ったよ。
奴隷市場はやっぱり汚れてたり臭ったりするね。血が腐ったような臭いもする。臭いや廃棄物や膿や病でクーラーで収納できるものは収納して分解しておく。生命に危機がない程度の栄養や薬剤も投与しておく。半径25メートルにしかしないけどね。
「半径25メートルの奇跡、ね」
「いや、歩いていけばみんな綺麗にできるけど、やらないし。奇跡とは違う」
「まあただ助ける必要はないと思うよ、私も」
助けられるんなら助けろというかもしれないけど助けられない人と差別する理由がない。代償もなしに全員助けるなんてしたら自分の時間がなくなる。その時間で私なら小角族を助けるよ。無差別についでに助けてるのはそれができる範囲だからだ。そもそも義務はない。この場合奴隷商に助ける義務がある。十分なお金を払うなら助けるだろう。そのお金で小角族に飯を食わせてお酒を飲ませてやる。まあ今は自分の用件を優先する。
「このテントね」
「小角族のテントに似てるのがなんか腹が立つ」
「どうどう」
今日は私イライラしっぱなしだな。テントに入ると小綺麗な感じの男が出迎えた。私を知ってる感じだ。そういえばスルメさんが「もう一般市民でもリートじゃみんな知ってるっつの」って言ってたっけ。つの語可愛いよね。
「これはこれは、ユーミ様にリンヤ様でよろしいでしょうか?」
「よろしいです」
「よろしくね」
「本日はこちらにご用向きで?」
「うん、いい子いるかなー」
「もちろん、こちら、ご案内致します」
んー、清潔な感じだ。商業ギルドが推すだけあるね。すぐにお茶が出てきた。発酵茶だね。お、香りがいいや。
「紅茶だね」
「発酵茶だね」
「東方では紅茶とも呼ばれておりますよ」
お、メイドさんが教えてくれたよ。ある程度自由にしてる感じだけどこの人も奴隷だ。扱いがよさそうなのは安心できる。
奴隷っていうと檻に入れられてるイメージがあるけど普通に暖房も使える部屋に入れられてるらしい。そもそもスキルで隷属してるから檻に詰める意味がないらしい。体壊されても困るしね。ファンタジーな世界の特有のやり方があるものだ。
「健康状態を最低限保つのは義務ですので」
「お金は払ってるのにその上で管理費もかかるとか商売にならないでしょ」
「利益率もそれなりに取っております」
つまりお高いよってことね。値切ると逆に奴隷が可哀想になりそう。
しばらく待つと男女あわせて十人ほどが並べられた。ここからどんな傾向の奴隷がいるかを見せてさらにその傾向の奴隷を連れてくるようだ。
没落貴族の娘なので礼儀はしっかりしてる、とか商人の息子なので銭勘定ができて字が読める、とか力が強い、水魔法が使える、土魔法が使えて農業の知識がある、とか、ん、わりと興味がわいてきてしまった。
「魔法で力仕事ができる人と農業の知識が深い人が欲しい。あと礼儀ができる人もいた方がいいかな」
「一応商人も入れておいた方がいいかもよ」
「取引はあるか。じゃあ商人も」
そんな感じで最終的に十五人雇った。買ったわけじゃないと言い張ってみる。
ちなみに隷属の首輪は魔力を少しだけ持ち主が抜いてから代わりに自分の魔力を入れると持ち主が変わるらしい。本人の魔力には反応しないのね。魔力を少し抜いただけでは解放されないのか。凄い強力だね。
お給料払ってお休みもあげて里帰りもさせてあげればいいよね。お祭りに参加したりお酒も飲ませてあげよう。生活環境も整えてアルバイトよりいい感じになると思う。支払いは宝石売って得た分で足りる。
最初に買うことを決めた時点で感謝されたのでこういうことで感謝されるのは嫌いだと言っておく。強めに。売れなかった人のことを考えたら感謝なんてできないと思うんだけどな。私だけだろうか。勝手に喜ぶのは構わないし、いずれは一緒に楽しんでもらわないとね。それはそれ。
ともかく、ユーミ帝国は十七人になったよ。彼らが新帝国民です。
無発酵茶→緑茶。
半発酵茶→烏龍茶。香りが美味しいな。
発酵茶→紅茶。お洒落やけど実は大航海時代に痛ませた結果やねんな。