二つの集落。
まずは翌日、ユーミ暦十七日。私とホタテさんはヒバシラ集落と話をつけに行くことにした。テレポートはとても便利だ。ちなみに昨晩、新カイバシラ集落では例によってお祭りになった。御使い様帰還祭りである。……ただ飲みたいだけだろあんたら!
まあお祭り酒好き民族なのだ。食料問題を片付けてやればあとはお祭りで仲を取り持ってやれば、元々温厚な民族なのだし、すぐにとは行かなくても明るい展望は見えるのではないだろうか。まずはブリ婆ちゃんにいくつか薬をもらい、山や森から切り出した資源で合成、大量の薬品を持っていく。ちなみに四人で釣った魚は新しい食料候補なのでハザマ湖漁協のような物を作らせて両方の集落に管理させてみることにした。食料問題を打開するための一手だ。もちろん管理自体は私やカイバシラ集落民でやる。火種を増やしたら間抜けすぎる。
実際にユゲさんもキリさんも湖で大量の食料が採れるとは思っていなかったようだ。貝のような物は簡単に採れたので純粋に水場としか思っていなかったようだ。
私たちが管理して潮干狩り祭りのようなこともやっても良さそうだ。
さて、ヒバシラである。まずは酋長のホムラさんの所に、ユゲさんに案内してもらう。これは私との交渉の窓口をユゲさんにする意味がある。
ホムラさんは珍しい赤毛赤目の小角族だった。
「ホタテ族長と御使い様、心より歓迎いたします」
「そうかしこまらないで良いですよー」
「御使い様は大変おおらかな御方である。仰る通りに」
「ははっ、あ、いや、はい!」
何度も繰り返すようだが、小角族は大人でも子供のような性格を残している。見た目は八歳から十歳で身長は平均120センチ。この辺りの魚より小さいのだからさもありなん、てところだろうか。
この子が喧嘩してるのね、と思ってしまったのは仕方ない。実際には死活問題を抱えているのだが。それを少しずつ解消してやらねばなるまい。
まず私は用意してあるブリ婆ちゃん謹製の欠損さえ治る薬を使ってヒバシラ集落の寝たきりの人たちを治していくことにした。飢えて体力が弱っている人にも栄養剤のようなポーションを与える。飲めないなら浄化分解して生理食塩水にポーション効果があるような物を作り、血液に直接点滴のように加えてやる。
なのでそこまで弱っている人は集会場の大テントに移させた。一度にやらないと手が回らない。うーん、点滴パックや針も作ってみようかなぁ。少しずつ点滴の液体を落とす仕組みは分かるんだけどね。素人が作るのは憚られる。
でも分かりやすい風土病は一瞬でクーラーを使って治すし、外科手術もメスもいれずに完璧にインフォさんがやってくれる。毒物なんかには元々小角族は強いのでだいたいはこれで治っていく。菌やウィルスも収納できるし、この上土木工事までできるんだからクーラーボックスが万能過ぎる。クーラーボックスってなんだっけ。
下水用に水路を地下に掘っていったり上水をハザマ湖から引いたりもした。食べ物は山で山ごと獲った動植物をとりあえず配る。魚はお祭りのときに出すつもりだ。
色々やっているうちにホムラさんの顔は私の信者のようになってきた。なにかやるたび、いうたびに目を潤ませている。
これくらいでヒバシラ集落は大丈夫かな。同じことをシモバシラ集落でも行う。
キリさんを案内人に立ててヒムロさんに会う。こちらは青髪青目のやはり珍しい小角族だ。他の小角族は日に焼けた茶髪や黒髪が多い。
「御使い様、歓迎いたします。我らをお導き下さい」
「そんなに堅くならなくても大丈夫だよー」
私がそういってホタテさんが正す、までが既にテンプレートと化している。そのあと病人の治療、治水、上下水の工事などを簡単にやっておく。
あとは二つの集落の人々を集めてお祭りと、二つの集落の酋長の会談を取り持つ。そして二つの集落から移民を募る。
さて、仕上げをしようか。
まずは二つの集落の会合場所を広げてお祭りできるように色々整えていく。中央にキャンプファイアーを設置して周りに屋台を立てていく。そこでカイバシラ集落の人たちに魚や肉を醤油だれや焼肉のたれで焼いてもらうのだが、人が集まってきた時点で私の声を私を支える重力エネルギーを収納して得た力で拡声する。
「この場で喧嘩する人は私のいうことが聞けないってことなのでほっぽりだしまーす。皆仲良くしていたらお腹一杯食べていいからねー。あと、特別に私のお酒も出すよー」
宣言が終わると、シモバシラもヒバシラもなく大きな歓声が上がり、一気にお祭りムードになった。
そこで二つの集落の酋長たちとユゲさん、キリさんを座らせる。配置としては私とホタテさんの横にユゲさんとキリさんを挟むように座らせて、その向こう、離れすぎない位置に二人の酋長、ホムラさんとヒムロさんを座らせる。まずはお酒を入れて口を滑らかにしてもらおう。日本酒をはじめ、何種類かお酒を出す。ブリ婆ちゃんやドロタさんたちもお酒の場で仲間外れにすると泣くので連れてきた。ホタテさんの占いではいいタイミングらしい。
はっきりいってクーラーの力とホタテさんがいたらわりと無敵な気がする。
「たくさん飲んで食べてねー! 全部私の持ち出しだからね! ちなみにこの大きな魚はハザマ湖で獲れました。私の指導でカイバシラ集落の人にとってもらい、各集落に平等に分配していく予定でーす」
二つの集落の人々の顔がわっ、と明るくなった。何人かはなぜカイバシラが間に入るのか分からないようで首を傾げているが、反対というわけでもなさそうだ。
元々小角族は温厚なのである。特にお酒の場は荒らさないらしい。お酒好きすぎだろ。ブリ婆ちゃんも錬金スキルでお酒を作っていたのでこの場で配らせてもらっている。ブリ婆ちゃんは流石に大人なのと錬金スキルで作るのは材料があればさほど難しくないらしく、快くお酒を出してくれた。材料は山二つ分あるので全く問題ない。ちなみに植林もしてるよ。谷の底は繋げて海までトンネルを引いて下水として、洪水対策してある。雨が貯まったら海に流れる。まあ植林した部分が崩れないように底は固めてるよ。
「それじゃあ皆、聞いて欲しい。私は小角湿原南端に皆さんの暮らせる村落を作っている。そこを小角族の首都としたい。なので移民を求めている。必要な働き手を奪うようなことはしないが、快く小角族の都を作ることに協力してくれる者は、是非に来てほしい。そこでは田畑も作り、敵から身を守る壁なども作っている。より暮らしやすい土地とするためには人が足りないから、是非にこぞって集まって欲しい」
うん、皆、お酒を飲みながらだけど聞いてるね。そんなに好きなのね。
「運が良ければ私の作ったお酒も飲めるぞ」
そこで一番の歓声が上がるのね。良く見ると海ドワーフらしき人も多いな。
「ヒバシラからはユゲ、シモバシラからはキリに代表として来てもらう。これは二つの集落の長い争いを収めるためでもある。腹を空かせたくない者、そのために争いたくない者は、是非に首都カイバシラに来てほしい。以上だ。あとは好きに飲み食いしてくれ!」
最後に大きな歓声が上がる。まあ二万人のうち七、八割集まっているらしいからね。……食べ物とお酒足りるかね? 10トンくらい欲しい? 獲ってこよう……。
いつも読んでくださって有り難う御座います。