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面白い御使い。

(side リンヤ)



 冒険者を始めて百年はとっくに過ぎたなぁ。早い段階でリート家と小角族に繋ぎを作ったのは我ながらいい才覚してると思う。あの頃は男爵が小角狩りに手を出して疲弊してたから私の一人勝ち、大儲け、あっという間のSランクでした。


 レジェンド? なれないけどね。Lランク任務なんてこのウェルテクス大陸にはここ百年はないから。百階層を超える最古級ダンジョンをクリアしたり魔神クラスと戦わないと駄目なのに、それを三つとかどうすんの。余所の大陸まで行ったらあるけど、わざわざ渡る必要がないわ。ちなみにレジェンドは五人ほどいる。生死不明が二人で残りは邪神と魔神と生き神だ。二人は封印されてて一人は引きこもりだけど。つまり誰も活動してない。


 私としては小角に顔見知りもできたし、ここらで行ったり来たりしていればお金には困らない。暇なので魔術したり弓したりするけど、飽きちゃうよね。なんか楽しいことはないかな。ないよね。


 最近、といってもここ数年で、王子様と知り合ったりリート家の当主が若いのに変わったり、そこそこ面白いことが起き始めた。こう言う時はホタテ酋長が良く言ってる、星の流れが良くなっているんだろう。何かいいことありそうだ。


 んで、ガチで星が降ってきた。小角の方角だし。私は少し準備をしてから向かうことにしたんだ。なんか楽しいことが起こってる。私の長年の勘が教えてくれるよ。


 どうせホタテさんやブリ婆ちゃんが先に接触してるだろうから急ぐ必要はない。なんだかんだいってあの人たち、二百五十才を超える小角族はヤバい戦士ばっかりだ。彼女らがなんともならないなら神のレベル。私が急いでも意味がない。


 そして十分準備をして星が落ちたポイントに来てみたら。……なんじゃこりゃ。


 途中では見たことない頑丈そうな堤防が暴れ龍と呼ばれる龍鱗川に作られていたし、数年前どころか一年前にもなかったような村が、しかも近代的な村ができてた。……ビンゴ。こいつは面白いことになってきた。


 案の定そこにホタテさんが住んでた。情報交換してその御使いが作った家の温泉を見せてもらいに行く。他の御使い様もだけど、御使い様って風呂好きだよね。温泉は確か東の方にもあった。


 この地球は大陸が十以上あるからね。他の大陸に行きたくなくても一つや二つは渡ってしまう。百年もあれば当然だ。その中で見た東の御使いの都を思い出す。温泉はたくさんあったな。温泉旅館はいい作りだった。思い出したら入りたくなってきたよ。


「暴れて破壊の限りを尽くしたり全てを盗んで逃げたり世界を滅ぼしたりしない人ならいいよ」


「そんな人間は連れてこないのだ」


 お、いいタイミングで御使い様が帰ってきたよ。アジも一緒か。ホタテさんと二人でなんか面白いことを言ってるので乗ってみる。


「エルフの冒険者、リンヤだよ。よろしくね。この家を破壊して全てを強奪して世界を滅ぼしに来た!」


「直ちに帰ってください」


 ぶははっ! ヤバい、楽しい子来ちゃった! 身長もエルフ並だし胸も、エルフ、並、だし、仲良くなれそうだ……。泣いてなんかいない。


 まあビックリするくらいあっという間に意気投合してしまった。気がつけば私が女皇帝ユーミの宰相になっていたよ。二人しかいないけど。


 なるほどね、この子も小角族の魅力に溺れたパターンだね。私と一緒だ。小角族を守るための帝国? そんなもん協力するわ。するしかないでしょ。


 仲良くするために防衛施設を作って回ったりする。いやー、発想も面白いっちゃ面白いけど、スキルが凄い。無敵のスキルとは聞いてるけどここまで開発向きとかもうね、優遇されるにも程があるわ。でも不思議とそこは許せるんだよなぁ。本人がのんびりした性格だからだろうか?


 暴力とかは平気らしいけど。なんというかアンバランスなのに突き抜けちゃって自然体なというか。そうだね、温厚な肉食獣って感じ。可愛いし、でも実は恐ろしい。友達としてならば頼もしい限りだ。


 そしてなんといってもハマったのは釣り! もちろん釣りはあるけどこんな釣りは聞いたことがない。釣りというのは餌を投げ込んでボヘーッとするもの、ではなかったのか。私はだから釣りなんて退屈だろうと手を出さなかったのに。楽しいわ! 早く教えてよね!


 初めての大物が水を割って飛沫を上げながらエラ洗い(魚が水面に飛び出して激しく頭を振り、針を外そうとする行動)する姿はただ美しかった。自然派冒険者のつもりだったけど私はまだまだ自然を知らなかったんだね。


 その後ユーミが卑怯にも大物装備で挑んだけど釣れなかった。一本もないことを坊主というらしい。魚っ気(毛)がないから坊主とか儲け(もう毛)がないから坊主とか色々説はあるそうだ。


 釣った魚をお刺身で食べた。懐かしい味だ。東の国の人々はたぶん寿命で死んだのだろうけど……。長生きもいいことばかりじゃないね。でも人間も特別じゃないんだと思える。それは気分が楽になる。


 できないからやらないというのでは何にもできないけどね。まずはやろう、楽しんで。


 そうして、このユーミ女皇帝をイストワールデビューさせるために連れていくことになった。またなんか秘密基地とか作ってたけど数分で作るのズルくない? アイデアさえ固まれば一分掛からないらしい。ずっこい。


 ユーミばっかりチートなのはズルいので私のスキルも見せた。ずばー。血にドン引きされた。あんた血は平気じゃん。まあ友達がいきなり血を流すのは違うか。うん、ユーミは友達だとは思ってくれてそうだ。言わないけどね。


 さて、リートに着いた。この街は豊かだし綺麗だからこの大陸全体が飢えてるのを忘れそうになる。山賊や盗賊なんかはそれなりにいるけど、大抵は流れ者だし、リートには仕事もあるので更正してる奴も居なくはないらしい。山賊なんか見つけたら殺してるけどね。こっちが殺されてやる義理がない。ユーミみたいに無敵じゃないし。


 まあユーミなら全部収納して大漁とか言って喜びそうだけど。ズルいよね。


 そんなズルいユーミを冒険者ギルドに連れてきた。にゃーにゃー言うユーミは可愛いぞ。御使い様を殴りに行こうとするけど。もうその人はいないらしいぞ。何で種族語文化がまだ生きてるのか謎だな。小角族本家は喋ってないし。あのだっつの、とかそうつのーとかいうのは可愛いけど、ホタテさんがいってたら殴るかも知れないな。あの人私から見てもお婆ちゃんだからね。


 ユーミの登録とクラスアップは真偽判定官のスルメさんがいてくれたのでめちゃくちゃスムーズだった。


 振り返ったらなぜかイストワールの第三王子のリッタが頬を赤く染めてユーミを見ていたが武士の情けで見なかったことにした。


 ユーミと見比べるとどっちが王子かヒロインか分からなくなるな。わりと真面目に。


 そんなユーミだが実際に普通に戦わせてみるとガンガン戦いが上手くなる。元々体を動かしてる人が道場に入ったらメキメキ強くなると聞くが、槍も魔法も一階を抜ける頃には実用レベルになっていた。後は肉体の持つポテンシャルを引き出してやればドラゴンでも巨人でも狩れそうだ。まだまだ魔法出力は心許ないが魔力は多いから幾らでも練習できるんだよね。体力がある人が武道を始めた方がやはり得なのは間違いないからな。


 この調子だとすぐに巨人ダンジョンさえ抜けてリート子爵領のエースとして有名になるだろう。最初からユーミの狙いはそこにあるようだ。


 私は計画を聞いているが、さて。王子がアクセスしてくるのと馬鹿が何も考えずにアクセスしてくるのと、どちらが早いかな。楽しみだ。


 ここでダンジョン制覇したら一旦小角族たちの所に戻るらしい。まあ時間を掛けた方が面白いことにはなりそうだな。


 ユーミ女皇帝の危ない遊び。これからが楽しみなのは私だけだろうか?






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