冒険者。
けっこう大事なお話かも。
釣りもできたし資材も入ったし、後はブリの婆ちゃんに武器を壊れないようにしてもらおう。私たちはユーミ帝国に帰ることにした。
「帝国?」
「一人だけどね~」
いいのだ。いずれ帝国になるのだ。今はお一人様帝国だけど。小角族は臣民じゃないしね。
「意味が分からない」
「そのうち侵略する」
「どこに?」
「海とか?」
「うむ、もう支配してるな」
特に侵略する必要はないけどね。忙しいの嫌だし。でも方便ってあると思うから一応帝国って言っておく。
「誰か支配する予定?」
「いやー、忙しいの面倒だし属国にするだけで」
「小角族は?」
「えー、近すぎるから支配したくない。忙しそう」
「なんとなくなにがしたいか分かってきた」
「なにもしたくない……」
「だから属国にして戦争させないんだな」
「そうともいう」
面倒臭いのでさっさと王様に負けを認めさせてあとは放置して私はニートするのだ。だからお一人様帝国だし属国は作ってもそれだけだ。軍事力は必要だろうし、この世界は魔物がいるからそれを奪うと死なせるだけになる。
軍隊作るなとか言ってたらドラゴン一匹暴れただけで死に絶える。ヤバい世界である。
「基本的に他人に借りを作ったら返す、相手に貸したら忘れる主義でさ」
「唐突に話が変わったな」
「いや、ようするに属国はこちらからは助けてもこちらには別になにかを貰いたくない感じ?」
「なるほど、性格の問題か。小角を助けるのとおんなじだな」
「そうそう、遊んでるだけだから借りとか思われたくないの。重たいから」
「うーん、ちょっと冷たい気もするな」
「いいんだよ、冷たい奴なんだ、私は」
「それでいいのか?」
「うん」
お一人様ニートでいたいんだ。別に仲間も欲しくないし友達もぶっちゃけいらない。でもそこに誰かにいて欲しいけど。わがままなんだな。お祭りの中で一人ポツンと佇んでるのが好きなんて、変かもしれないな。
「変だな。まあでも気楽……なのか?」
「そうだねー。多分どこまでもついていくとか言われたら逃げるね、間違いなく」
「うーん、分かるような分からないような」
まあ分からなくてもいいけど。私がしたいようにさせてもらうだけだ。その過程で小角族が救われたら良かったね、と思うけど、私がしてやったんだ、みたいな態度を取るのは私が気持ち悪い。対等じゃないと駄目なんだよね。崇められるとか凄い気持ち悪い。
神様だってそうだ。崇めてるのになにも返してくれない神様なんて信仰しません、とかいう人いっぱいいる。それは神様じゃなくて奴隷という。それが分かってない人多いんだよね。
例えば「お客様は神様だろ?」とかいって好き勝手する人に限ってそんな好き勝手する神様は信仰しないんだよね。まあ疫病神のたぐいだからお祓いするのが筋だろうね。日本の神様には祟り神が多いし、お祓いして封印しないとね。海外の神様もだいたい虐殺してるか。
なので私は崇められると虫酸が走る。好意を寄せるくらいならいいけどね。一緒に楽しもう。それだけなんだ、私は。
「それは友達じゃないのか?」
「友達かもしれないけど、わざわざ友達と思わなくてもいいんじゃないかな?」
「そういうものか?」
「別に友達だっていって肩を組んでもいいけど、私なら友達が裏切っても構わないと思うんだよ」
「なるほど、ちょっと分かった。いちいち友達宣言するのも縛ってるみたいで嫌だってことか」
「そうだねー。そうそう」
「……フリーダムだな!」
「フリーダムですとも!」
まあ結局自分でも他人でも柵になるのは面倒臭いだけで、心の中で友達と思うぶんには私もいいと思うし、実際アジさんやカツオノさんは友達だと思う。言わないけどね。いつでも私を裏切っていいんだよ。裏切らないんだろうけど。
「さて、相談に乗ってもらったし帰ろうか」
「相談してたのか」
「ユーミ帝国建国について?」
「もうそれ自分で言ってたらいいんじゃないか?」
「そうするけど」
まあ自分の計画とか心情?を知ってもらえて楽になることはあるからね。アジさんはこれからも私の計画は理解してくれそうだ。まあ理解したからどうってこともないのかもしれないけど。勝手に忠誠を誓ったり恩返ししたり助けてくれたりしてもいいけど、口にはしないだろう。気楽な関係だ。貸しも借りもない関係だね。それがお互い楽だと思うんだけどな~。
まあみんなに理解してもらえることでもないんだろう。普通じゃないのかもしれないね、やはり。まあ言ってても仕方ないので帰った。
帰ったらお客が来ていた。ホタテさんと……誰かな?
「温泉借りるのだ」
「えー、勝手に入っていいよ、別に」
「勝手に入ったらユーミグリグリされるのだ」
「するけど?」
「それは嫌なのだ! あと客が来てるので入れていいか?」
「暴れて破壊の限りを尽くしたり全てを盗んで逃げたり世界を滅ぼしたりしない人ならいいよ」
「そんな人間は連れてこないのだ」
来たら困るね。間違いない。そして彼女は現れた。
「エルフの冒険者、リンヤだよ。よろしくね。この家を破壊して全てを強奪して世界を滅ぼしに来た!」
「直ちに帰ってください」
「ただのソロのSランク冒険者なのだ。その力は小角族を狩り尽くす程度だから心配しなくていいのだ」
「めちゃくちゃ心配ですが?」
どうも面白い人みたいだね。ホタテさんも信頼しているようだ。というか初エルフだね! ちゃんと耳が尖ってて色白で貧乳だね! 銀髪に目も青い!
「胸を見たな! あんたもないじゃん!」
「事実は人の心を的確に抉るんだよ!」
胸の大きさはイーブンだ。文句はない。でも言わないでね! 傷付かないほどハート強くないからね!
ちなみに身長も同じくらいだ。私もエルフだったら目立たなそうだな。
彼女の服装は白っぽい茶色の革鎧に赤いスカートと短めの剣と大きめの弓を携えてるね。矢筒も腰の後ろに着けてるな。首の赤いチョーカーが可愛い。
「あ、温泉だっけ、どうせなら一緒に入ろ。お酒も出すよ」
「嬉しいのだー!」
「……俺は帰って皆に魚を配っておくな」
「あ、ありがとアジさん」
「うむ」
アジさんは働き者だな。でも少し砕けてきてる気がする。
「計画通りなのだ」
「あー、そっち」
「どっち?」
エルフさん、リンヤさんが首を傾げる。まあ知らなくてもいいことだけど。前に私にアジさんをつけた時にホタテさんが笑ってたのは私がアジさんと仲良くなるのを期待したんじゃなくて働き者のアジさんを遊ばせたかったからなんだろう。そういう計画だったわけだ。
まあ新参の私よりアジさんのことをホタテさんが気にするのは当たり前だった。
「なるほど。さすがは酋長だね」
「うん、それでリンヤさんはなんで小角湿原に来たの?」
「小角族を狩って角を奪うためさ!」
「倒す!」
「あ、嘘です、角をもらいに来てるのは本当だけどね」
「たまに直接来て砂糖なんかと引き換えに角を持っていくのだ。風土病が減りそうだからこれからはあんまり渡せなくなるがな」
あー、まあそうか。小角族が死ななくなると逆に狩りしに来るやつも増えそうだなぁ。まあ一族のために死んでくれ、とも言えないけど。寿命が長い種族だから余計に死ななくなるのかな。最終的に増えるのは増えるのか? 病気で死ぬ予定だった人は何十年かは死ななくなるのかも。防衛しなくちゃ。
「それでね、小角族との契約もあるから今後は防衛協力で私がここの戦力になることにしたんだ」
「へえー。まあただで角をもらってるわけないよね」
というか戦力を送ってくるってことは戦争間近ってことじゃないですか。やだなー。
まだ三十話ですねー。読んでくださって有り難う御座います!