火山帯。
ユーミ暦七日目だ。昨日はみんなで大騒ぎだったので、私たちの新しい村の朝はビックリするくらい静かだった。
……いや、ところどころに小角族が転がっている。若干ホラーだな。
飲みすぎだ。強いのをガンガン飲んでたからなぁ。見た目としては子供がそこらに野晒しでいろんな液体を撒き散らして大量に転がっている。怖すぎるな。
カツオノさんも英雄扱いでみんなの真ん中で飲んでたので広場の真ん中で何か白い液体を吐いてぐったりしている。大丈夫かあれ。死んでない?
「おはよう、ユーミ」
「おはようアジさん」
「今日は、山か」
「案内よろしくね」
「ああ。……ふああぁ……」
凄い大きい欠伸だな。アジさんも明け方までだいぶ騒いだらしい。普段寡黙な人が珍しくはしゃいでいた。はしゃぐとみんな子供にしかみえない。
今日は山で鉱物や建材になる土を集めるつもりだ。火山帯だからマグマに当たらないといいんだけど、日本だって火山列島なのに鉱山はたくさんあるからね。たぶんマグマにも温泉にも当たらないところがあるだろう。インフォメーションさんなら25メートルまでなら地下も調べられるんだし、範囲は直径で50メートル掘れるわけで。地崩れを起こさないように気を付ける必要はあるし、不必要に山を広げると北の国から小角狩り、とかもありうる。
小角族と暮らすようになった私からみると理不尽な侵略者でしかないが、家族の命がかかっていたら私も小角族を狩らないとはいい切れない。なら守る前に争いの種をなるべく作らないようにしないと駄目だろう。貧困に喘いでいる今のこの大陸では無理なのかもしれないが。
もしも小角族の角一本で家族を一生養えるとか、商売を始められるとか、貴族になれるとかいわれたら、飢えた人たちがそれを求めるのは止められないだろう。現代人の価値観としては認められないけど、ここは現代日本みたいな誰も飢えない社会ではない。元の世界だってまだ貧困に喘ぐ国はたくさんあった。そもそも日本の食糧自給率の低さを思えば、日本だってそうなる可能性はあるんだよね。
でも何万人もの人が小角族を狩ろうとすれば、小角族は全滅してしまう。
北の王国との境にはこの山が、東には龍鱗川と湿原があるから今も小角族は生き残っているんだ。……山を切るなら谷にする勢いでやらないと駄目だろう。そもそもそこまで掘らなくても資材は揃うはずだが、思いきってやってしまおう。
数万人の小角族を暮らせるようにしようとしたら、都が必要になるだろうけど……。カイバシラだって田畑の世話で何十人かは残ってるからなぁ。
五千人くらい暮らせるようにして、あとは状況次第かな。港もあった方が漁とかするのにはいいだろうし、防衛できるなら貿易してもいい。
今でも北の国、東の国それぞれに貿易している領地はあるらしいし。まあ一週間で見たことないけど、主に貿易してるのはホバシラ集落という隠れ里らしい。
大集落を見つけられないように細々と小さい隠れ里のホバシラだけでやってるようだ。物資なんかはそこから回ってくるぶんが多いらしいけど。布とかは多くは輸入なんだって。……生地にキノコ使うくらいだしなあ。絹くらい探してみよう。カイコガいるのかね? クモの魔物とか。
「じゃあテレポートするよー」
「遠いぞ」
「高いとこから見たことあるからたぶん大丈夫」
アジさんを後ろから抱っこして飛ぶ。私は幸せだが成人男性?のアジさんは恥ずかしかったりするんだろうか。小角族では子供になるようだけど。
「大丈夫」
「おお、照れてる照れてる」
「グリグリグリグリ……」
「あ痛たたたた……腕に小角グリグリは止めてぇー」
恥ずかしいようなのですぐにテレポートした。照れ方も可愛いとか言ったら次は小角グッサリが待っていただろう。恐ろしや。なぜかインフォメーションさんは小角グリグリだけは収納させてくれない。楽しいけど。例えば布団の感触とか勝手に収納されたら嫌だよね。そんな感じなんだと思う。
「ユーミは酒が強い」
「ん? そーかな?」
「ドワーフのドロタが飲み負けてた」
「あー、ドロタさんは私と勝負する前から飲んでたからねー」
「俺は二日酔い」
「え、ごめん、揺らしたら辛かった?」
「大丈夫」
うーん、アジさんもかなりお酒強いけどやはり今日は二日酔いらしい。ぬいぐるみみたいに振り回してしまったので余計に回ったみたいだね。私はお酒は残ってないね。かなり強い方だ。
さて、この辺りの山を谷に変えるとして植物とかは全部頂いておこう。山は幾つも連なってるので一つくらいなくなっても大丈夫だろう。たぶん。
「ユーミ」
「ん?」
「なにゆえ小角族を助ける」
「面白いから?」
「面白い?」
「私は自分の好きなことしかしないし、ぶっちゃけ小角族に遭遇するのは早すぎたかなと思ってるし、小角族が絶滅するならそれはそれで構わない」
「へえ。まあそれが普通か。なぜ早い?」
「いやー、一人でサバイバルしたかったからねー」
サバイバルで一番楽しいのは一人で何でもやることだ。それに一人なら死ねる。死ねると自由度が跳ね上がるからね。まあ本当に死ぬようなことはしないけど、毒のありそうな物を口に運ぶくらいはしただろう。サバイバルはそうじゃなきゃ楽しめない。
まあもう小角族と知り合ったので小角族と生きていくが、滅んでも構わないと思ってるのは事実だ。私がチートを持ってるからといって助ける理由もなければ、誰かが助けなければ滅びる種族なんて元々滅びる運命なんだ。現代社会みたいに開拓は進んでないからそうでもないかもしれないが、今だって絶滅している生き物はいるはずだ。
「だがそう思っているなら俺も楽だ。助けられてると思えば気が重い」
「それは分かる。感謝がないわけじゃないだろうけどそれなら逆に負担になりたくはないだろうし」
「うむ、負担じゃないならいい」
「ないない。好きなことしてるだけ」
「飲んで釣りして風呂に入るだけか」
「そんな感じ」
祭りとかは楽しいけどね。仲間ってそんな思いやりとかじゃなくて一緒にいたら楽しいって方が付き合いやすい。そこに思いがなければ、とか友情が、とか正直重たい。
そんなものなければ付き合えない相手は長く付き合えないと思う。実際小角族を守ろうと思うのも縁ができたのと余裕があるのと楽しめるからだ。一緒にいて気楽な相手がいい。
「気楽だな、うん」
「納得してくれるなら有り難いよ」
「無理に助けてもらうのはかえって悪い」
「うん、お互いそれで頼みます。困ったら聞くくらいするけどね」
「うむ」
アジさんとは性格があうような気がするな。この人もサバイバル向きなシビアな考え方をしている。明日をもしれない一族の自覚があるんだろうな。
まあ守るけど。最悪一人で逃げられるからね。スキルはおまけだよなぁ。
「じゃあ山を掘ってくるからね」
「山を掘るとか凄いな」
うむ、このスキルは反則なんである。私はさっそく四百メートルくらいの山を一個掘り始める。まずは山の頂上に登り、渦を巻くように歩きながら掘り進める。植物もなにも関係なく収納していく。このさい生態系は気にしない。アジさんは安全圏にいてもらって魔物だかなんだかも収納していく。鳥は勘がいいらしくて逃げてくな。まあいいけど。いくらか食べられるぶんは獲れたし、焼き鳥にしよう。
いつも読んでくださってありがとうございます。