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月。

 いやー、揚がったけどまだ安心できないので引っ張りあげる。暴れられたら川に落ちて流されそうだ。アジさん小さいしヤバいよね。頭から水をかぶったカツオノさんは綺麗にしておこう。


「ぐうおおおおー!」


「重い」


「もう少し、よっしゃあ!」


 ずしゃあ、と、魚をアジさんと引っ張ってたカツオノさんが転けた。でももう帰れないよお魚さん。まだ暴れたら川に戻りそうだけど。そのときはさすがにクーラー使うわ。


 インフォメーションさんの計測、サイズ6メートル超えてる。重さも2トン超えとか、トン超えとか生まれて初めて釣ったわ。流れに押させないと絶対あがらなかったよね、これ。


 鮫だね鮫。可食部位が五、六割としても1トン超えるからカイバシラの小角族皆がお腹一杯食べても余裕で余るよ。つか三人でよくあがったな! 小角族の体重じゃ全員で綱引きしても上がらなさそうなのに! 魔法凄いな! 私たち三人だと全員で体重百キロくらいかな? 二十倍か……。前世の地球なら船でもクレーンとか使わないと上がらないサイズだよね? まあ今の私はクレーンへし折れるけど。


 あ、ひょっとしたらカツオノさんの釣りしたい気持ちをへし折ったかも?


「す、すげえぇ~。オレも次はこんなの釣りてえぇ!!」


「お、逆に燃え上がった?」


「燃え上がった! すげえ!!」


「ワニみたいに大きい」


「これはみんな喜ぶぜ! 早く帰ろうぜ!」


 うん、川をもう少し整備して帰ろうか。土が足りなくなりそうだけど、丘を一つくらい削ってこようかな。いやー、大きいの釣れたらストレス吹っ飛ぶね。このために釣りしてるわ~。


「なんだよ仕事かよ。もう今日はよくねえか?」


「いや、せっかくだからね? 次にいつ来るか分からないからついでだよ」


 もっと釣りしたかったんだけどね。いやー、いい釣りした。まだ興奮してる。魚は収納したけどいつまでも眺めていたかった……。


 そのあと、めちゃくちゃ高速で整備して光速で帰った。


 うん、魚を出したらみんなもちろんお祭り騒ぎだったけど、エボシさんやアカさんはむしろカツオノさんの釣果を喜んでたよ。やっぱりなんかあったんだろう、三人とも泣いてるし。まあ聞かないのも情けだろう。


 あまりに大きいので小角の皆が横になって何人分か測ってるけど縦に五人ならんだね。小角族ちっさいね。体高も一人入りそうだよ? その魚の口に入って食われてみせてる人がいるし。歯は鋭くないけど重くない? 大丈夫?


 鯉の仲間かな。色は鮮やかな赤と青の虹色だ。こんな魚は見たことないよ。龍鱗暮空魚という名前らしいけど鑑定ができたってことは誰か釣ったことがあるはずだよね。凄いな。


 これだけ大きいとさすがにタンパクかもしれないなぁ。解体は皆でやってくれてる。食われたふりしてる人が口に入ったままだけど?


 うわー、はらわただけで凄い量だ。寄生虫とか凄そうだけど水の浄化魔法で清めて煮込んでから食べるらしい。氷室があるからそこに保存するんだって。まあ私も一人じゃ食べられないからね。一人で食べたら何年かかるんだろう。


 小角族って湿原の部族だけど氷の魔法が得意みたいだね。大物も保存して火を通したら長く食べられるから喜ばれている。流石にこのサイズを毎回釣りたいとは思わないけど。


 お祭りなのでお酒を出してくれとブリ婆ちゃん。飲みたいだけじゃない? まあ大酒飲みの小角族だから仕方ないね。ことあるごとに祭りしてそうな民族だよ。


「次はシーサーペントだな」


「ええー。しばらく大物は遠慮するわ」


「つまらないのだ」


 ホタテさんには既に次の魚?を求められているらしい。魚か? サーペントだから蛇だね。美味いの?


 まあ当分大物はいいや。今回のもイレギュラーだし。しかし6メートルの魚の解体ともなると包丁の長さが足りなくて大剣持ってきて切り始めたよ。ドワーフのドロタさんが新しい包丁を作る、とか言ってるけど当分こんなサイズ釣らないからね。さすがに引き込まれたらヤバかったわ。よく釣れたもんだよ。


 なんかアジさんかカツオノさんがスキル使ってたのかもしれないね。まあ私がスキル使うと余裕なんだけど、それを思うと私って本当にチートだよねえ。


 捌けた魚をお刺身で回してる。え、醤油? 出さないと駄目? できれば作ってもらいたいからいいけど。


 お醤油とワサビを大量に出した。一人で食べるならインフォメーションさんが出してくれない量だ。まあワサビを食糧としてそのまま食べたりしないけどね。ワサビみたいな味の野菜は湿原にあるらしい。


 焼いたり煮たりして宴が盛り上がっていく。教えたばかりの現地胡椒も使ってるね。うん、美味しいわ、普通に。柔らかいお肉みたいな感じだ。もう少し煮込んで締めても美味しいだろうね。みんな毎日こればかりは食べないだろうけど、何日くらいもつのかな。鱗とかと一緒に八割ほどは収納しておこう。少しずつ出すからね。


 明日は山に行って資材を足してこようかな~。


 いいかげんお腹もふくらんで、缶のカシスオレンジを飲みながら木に(もた)れて焚き火を眺めてぼんやりしてると、カツオノさんが来た。


「よおー、これでオレも晴れてニート卒業だわー!」


「まあ一家で食べるには大きすぎるよね、カツオノさんが釣ったの」


「エボシとアカのガキ共にも喜ばれちまってさー。今までニートニート馬鹿にされてたんだけど」


「子供のいる家で居候とか最悪だな!」


 私の前世の価値観でそう思ったが、小角族は家族で一緒に暮らすのが普通なようだ。考えてみればいつ洪水で家が流されるか分からない土地だからな。家をたくさん建てるより大家族で一つ建てる方が効率がいいんだろう。国が違えば人も変わるわけだ。


 環境がハードだからこそ一族の繋がりも深いんだろう。そんな風に考えているとカツオノさんが空を見上げて話しだした。見た目が子供なのに片手にビール持ってるのがなんか慣れないな。


 空には月が出ている。まだ四分ほど欠けているが地球で見る月より大きい。星はその輝きで隠れてしまってる。凄く明るいな。少し青い夜空は、異世界って感じがする。


「……オレのスキルってさ、強力なんだよな。名前が月に狩りと書いて月狩(がっかり)って言うんだ」


「がっかり?」


「そうなんだよ、がっかりなスキルでさ」


 この世界にも漢字がある? いや、なんかニュアンス違う気がする。駄洒落みたいな物だろうか。インフォさんの謎翻訳かも。


 なんでもカツオノさんのスキルは自分の周囲のあらゆる物質の硬度を無視して抉り取るえげつないスキルらしい。それでなぜがっかりかというと。


「範囲は絞れないし、仲間も敵もないんだよ、このスキルは。一人だと無敵だけど地面も抉れるし獲物は狩ったら消え去っちまう。狩りはできないし仲間も、傷つけた……。全くがっかりなスキルだぜ」


「ふうん……」


「まあデカいの狩ればいいんだけどな……。一人だと持ち帰れないし、仲間を呼んで帰ってみたら他の魔物に食われてるし」


「そりゃ辛いな」


 まあやりようはあるんだろうけど、もしかしたらそのスキルの強さに自分でも怖くなったのかもしれないな。


「戦いようってあるもんだと思ったよ。二百年もなにしてたのかなぁ」


「まあ私の釣り道具みたいなのはそう作れなかったんだろうけど」


「それもあるかもなぁ。でも単純にオレは心が弱かったんだ。なんにも上手くいかなくて、大事なもん傷付けて……。はあ、柄じゃねえ。忘れてくれ」


「分かったよ」


「おう、……月が綺麗だな」


「でっかい月だね」


「そうだな」


 いつも見てるのに、今までで一番でっかく見える。そう呟いたカツオノさんの顔は、晴れやかだった。






 読んでくださって有り難う御座います。釣ったことない魚を釣り上げさせるのが楽しいです。私も異世界で釣りしたいなー。死亡フラグです?




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