ニート。
今日は最後の更新です。
ユーミ暦六日。明日で一週間だ。身支度を整えて今日はなにをしようかと体操しながら考える。朝御飯は小角磯鯛の焼き魚とワカメのお味噌汁、浅漬けの瓜に白米だ。瓜はアカさんにもらった。できる主婦である。
そう言えば歯磨きとか私はしているが小角族は魔法で綺麗にしているようだ。水の加護は便利そうである。
湿原を見て回り、龍鱗川の堤防を少し作って洪水の時に水を逃がす放水路なんかも用意しようと思っている。水害対策はしておかないと夏以降にはかなり水害があるという。家とかの増築やトイレ等は必要に応じて増やすことにする。朝一番で四つくらいトイレを増やした。雨水タンクも必要だから面倒だな。これからは各家庭に設置していく。
さて、淡水の釣りに行こう。途中の湖でもいいし龍鱗川で釣ってもいい。
と、出かけようとしたところでアジさんを見つける。道案内を頼んでみたら引き受けてくれた。どうやら普段は便利屋のようにあちこちの仕事を手伝っているらしい。そこにカツオノさんも発見。無言で引きずっていくアジさん。どうやらアカさんにカツオノさんを私の手伝いにつけるよう頼まれたらしい。まあ私も遊んでるようなものだけどね。
「役に立つからカツオノとは違う」
「スキルのお陰だと思うけどね」
「オレの意見は~!!」
見た目はいじめっ子がいじめられっ子を引きずり回しているようだ。実際は働き者の子供がニートのおっさんを引きずっているのだが。
「働かなくてもいいから釣りしたらいいじゃない」
「釣りと仕事とどう違うんだよっ!」
「釣りは楽しいじゃないか!」
「分かんねえよ!」
それは釣りをしたことがないから言えるんだ。作業とは違うんだぞ。そもそも仕事なら漁をする。釣り理論によって楽しいのだ。魚にいかにして食わせるかという頭脳ゲームだぞ。人間と戦うゲームじゃないから喧嘩にもならないし。競うと争いになるけどね。それも釣ったら勝ちという平和な争いだ。
今日の仕掛けはダウンショットリグで、ワームじゃなくてミミズを使うことにしている。森の中を歩いているときにこっそり収納しておいたあれだ。
鯉とか釣れるかもしれないけどサケ科の魚とか釣れたら美味しいかな~と。粕汁とかちゃんちゃん焼きとか食べたいよね。ニジマスやイワナの仲間でもいいんだけど。オショロコマみたいなのとか。
まあピラルクーみたいなのや大型のナマズが釣れる可能性も高い。アマゾン川やナイル川ほどは広大ではないけど、それでもなかなかの大河のようなんだよね。最大で30キロも川幅があるので、これはもう大河といって間違いじゃない。
これから行くところも川幅6キロなので対岸は見えないそうだ。この川を越えてまで小角族を狩りにくるのだから根性があるというか曲がっているというか。それほど小角族の角は加工すると薬効が高いようである。
狩られるのを嫌がって死者の角を売ったりしているそうだ。身内が嫌がると売らないがかなり高値で売れるので狩られるよりは売った方がマシということで、死に逝く人は売るように言って亡くなるのだそうだ。寂しい話だけど実際に大怪我をしたり病に犯された人が何百人と助かるなら角を狩るくらいする人は多くなりそうだ。しかも飢える人が略奪に走る時代、他種族を殺した方がマシと考えるのも分からなくはない。もちろんそれは小角族が迷惑でないという話ではないのだが。
小角族サイドとしては角狩りなど割に合わないと思うくらいの徹底抗戦をしたいところだろう。私は小角族の守護者として遣わされたのかもしれないね。……私は好きなことをするだけだけど。動かないのは性に合わないからいろいろしてるけど命令されたら逃げると思う。そういう意味では私もニートなのだ。定職に就いてないしね。就く気もないし職業訓練もしていない。
「カツオノさんは角を売れば遊んで暮らせるよ」
「角削ったら小角族は死ぬの!」
「先っちょだけなら大丈夫だぞ」
「お前それ小角族の台詞じゃねえから!?」
カツオノさんの角を売るのはアジさんは賛成のようである。まあちょっと削っただけで死ぬなら小角グリグリなんてできないだろう。アカさんの小角グッサリは命懸けの技だったりするんだろうか。恐ろしい……。
「しかし龍鱗川ってとんでもなく遠くない?」
「ユーミの集落からなら百キロくらい。カイバシラと変わらない」
「走ろう。今日中に着かないから。いやもうテレポートするわ」
「お前できること多すぎだろ!」
「いいことじゃん。【セット:テレポートスキル】っと」
「おわっ、て、もう着いた!?」
テレポートだからね。小人な二人を抱っこして一気に飛んだ。ちなみにカイバシラの座標を調べたときに周辺の湖や川の座標は調べてある。釣り好きがそこを忘れるはずもなく。インフォメーションさんもそこは分かってくれているのである。
「いつもながら驚く」
「いや、全く驚いて見えねえから、アジ! つかでけえなこの川! 海かよ!」
「そう言えば日本には河がないんだっけ。対岸が見えない河は海外にはよくあるんだよなぁ」
「御使いの国?」
「そうそう、うちの国は狭いから川も細くて、そのくせ流れは速くて水害が多かったんだよ」
「大変だな。小角湿原も水害が多い」
「雨ばっかりだからな、これからのシーズンは特に!」
「早めに治水しないと駄目かな?」
「普通は一人で治水とかできねえから!!」
「できないからやらないというんじゃ進化はできないぞ!」
「進化とか普通一代じゃできねえからあ!!」
このカツオノさんって別に馬鹿じゃないんだよなあ。ただのニートだ。まあ釣りをするニートに進化させてやろう。ふはははは。
「じゃあ釣りながら河岸を整えていこうか。堤防から釣る感じ?」
「楽しそうだ」
「あーもー、釣りなんて漁師にさせとけよ……」
「一本釣りなら分かるけど普通の釣りは漁師がするのは効率が悪いよ?」
「真面目か!」
「釣りには真面目です!」
「威張るな!」
「ニートよりマシだ!」
私は釣りをするニートです。開発も好きです。でもニート。
「それニートっていうには無理ないかあ?!」
「ないね! 好きなことしかしないし休むときは好きに休むし!」
「立派なニート」
「立派なニートって言葉がおかしいからあ!!」
「文句の多いニートだな。釣るよー」
「ああもう、くそっ、さっさと釣れてこい! って来たあ!?」
「まあこの川も人がいないしすぐ釣れてくるよね。さっそく大物がかかったようである。今回は大河の釣りということでロッドは7フィート(210センチと少し)二本継ぎで、ラインは三号、リールは三号120メートル巻きのスピニングです。針はハリスにバス用の大きめの丸針を付けてるよ。川の水量が多いので流されにくいように重いオモリを使うヘビダン(ヘビーダウンショット)だ」
「ちょっと! 冷静に解説してんな! これどうすんだ! 引きずり込まれるう!?」
読んでくださり有り難う御座います。