カイバシラ。
今日は二話目です。
さて、食料となる魚もかなり釣れたのでカイバシラへ向かおう。なんか虹色の小角虹磯鯛とかいう魚も釣れた。ホタテさんが知っていたようできゃっきゃと喜んでいた。可愛い。なんか縁起の良い魚らしい。美味しいのかな?
派手な魚って白身の魚に多いけどタンパクで美味しいよね。煮付けとかもいいけど新鮮だし刺身にもしたい。これは向こうの集落に着いたら捌こう。
さて、いよいよ人のいる場所に行くわけだ。ドキドキするな。初めてのテレポートなので上手くいくか心配だ。ちなみにこのテレポートだと地下に潜ったりは障害物が多くて難しそう。まあインフォさんならできるかも知れないけど。扉とか有ったら無理っぽい。無理矢理収納する方法はあるけどね。壁も床も収納してテレポート。
「テレポートとか初めてなのだ」
「じっとしててねー。足をぶらぶらしないでね」
「抱っこされる経験はあんまりないから落ち着かないのだー」
「少しだから。少しの間だから」
ホタテさんは前に抱っこである。クーラーは後ろに回さないとね。これがないと今のとこはなにもできない。まあ体は強くなってるけどね。
あー、ホタテさんが可愛いのだー。ぶらんぶらん揺れてる。
「は、早く行くのだー!」
「はーい」
これ以上楽しんでいるとまたグリグリされそうである。早速インフォさんに頼んでテレポートしよう。
「【セット:テレポートスキル】、インフォさん、お願いします!」
『テレポートスキル、実行します。目的地、カイバシラ集落』
おっ、周りの景色が前に集まっていく。と、もう着いたようだ。一瞬だったな。
「ほ、本当にテレポートなのだ! テレポートスキルまで使うとは流石なのだ!」
「まあいろいろできるみたいだね」
クーラーボックスが。私にはスキルありません。なんか欲しい。この世界のスキルは一般的な物から複雑な物まで様々な物があるそうだ。例えばホタテさんの「占星」は星の流れから運命を読む力らしい。だけど運命は確定的な物ではないのだとか。そうでないと逆に見える意味がないよね。避けられない運命が見えるとか怖すぎる。
私が落ちてくるのははっきり見えたらしい。神様とでも繋がってるのかもしれないな。そういえばスキルは神様が作った魔法の複雑な物なんだっけ。インフォさんが夜にスキル説明とかしてくれるんだよね。
ぼんやりしていると私の腕から抜け出したホタテさんがててて、と可愛らしく走っていく。
ほー。テントだね。白い布のテントだけど天井に雨避けかワニ革みたいな物が張られている。そんな白いテントが幾つも並んでいる。テントの作りはそれぞれだけど、モンゴルのテント、ゲルみたいなのもある。集会所とかだろうか、一際大きい。
ホタテさんに着いていくと既に何人か住民が集まっている。
「巨人だ……」
「いや、巨人にしては細いぞ」
「人族にしては大きいぞ」
悪かったね。どうせデカイよ。ってか小角族が小さい。みんな120センチくらい。一番高い人でギリギリ140くらいだ。子供にしか見えない。
「皆の者、こちらは天神様の御使い、ユーミだ。我等をこれより導いてくださる」
「おおっ」
「御使いだから大きいのか?」
「どこかに行くの?」
うーん、子供の集会だ、これ。皆が口々に喋っている。あれ、一人お婆さんがいるな。身長は一際小さいけど。そのお婆さんとホタテさんがなんか揉めている。どうやら南の、うちの辺りに住むか住まないかで揉めているようだ。
「だから、御使いの恵みを受けるために南に移住した方がよいというのだ」
「だいたい御使いだという証拠があるのか!」
「で、あるか。ユーミ、切子を出してくれ」
「え? はい」
「すぐ南に移住じゃ!」
ずしゃっ、と小角の皆さんがコケた。変り身速いなお婆さん! 私が作ったクリスタル切子を見せたら一発だった。
「ブリのばあ様は何だかんだいっても新しい物が大好きなのだ。ユーミの家に行けばもっと大騒ぎするぞ」
「走れば一時か。先に行くぞ!」
「早すぎるわばあ様め!」
走り出そうとしたお婆さんをホタテさんが捕まえた。行動力ありすぎだろお婆さんなのに。
「とにかく、虹磯鯛が釣れたのだ。御使いの歓迎の祭りを今夜開き、移住は明日に行う」
「何故じゃ! 今日でよいではないか! 御使い様の家が逃げるのじゃ!」
「逃げんわ! 御使い殿の新しい酒を祭りで出してもらうのだ」
「皆の物、宴の準備じゃ!」
「変わり身がはやいわ!!」
どうやら子供の時期が長い小角族は年を取ってからも子供っぽさが残るようだ。つか婆ちゃんも可愛いな。うちの婆ちゃんも毒キノコにチャレンジして死ぬくらいハッチャケてたけど。……お年寄りは体を大切にね。
とりあえずインパクト出しとこうとテーブルを作り取りだし、その上にまな板を作って取りだし、更に小角虹磯鯛を両手で持ち上げるように取り出して、見せる。みんな子供のように万歳して驚いたり喜んで騒ぎだす。可愛いいぃ~! 神様もいいとこに落としてくれたものだ。
鯛をまな板に乗せて捌く。まずは包丁を作って取りだし、鱗をおろしていく。包丁は三徳包丁だけど、これも銃刀法に引っかかると思うから目的地以外には運んじゃ駄目なんだよね。包丁を買って帰るのはいいように、目的があって運ぶことだけは問題ないけど。正当な目的がある場合以外に6センチ以上の刃物を持ち歩くのは禁止らしいよ。
さて、鱗を落とすあいだもこの魚はびちびちと跳ねているので鱗まみれである。この鱗は売れるらしいので収納して取り出し、まとめて紙皿に乗せておく。乾かして売るらしい。北からは船が、東からは冒険者が来るそうだ。カイバシラ集落へは東からの冒険者が多いらしい。
人間に狩られた歴史があるわりにそんなに人間嫌いじゃないんだよね、この人たち。おおらかなのか警戒心が薄いのか分からないけど。
さて、鱗を収納して綺麗に血も収納しつつ、腸を除き頭を落とす。三枚に下ろしていく。……大きいからけっこう大変だけど綺麗に身を削げるのはいいかも。あばらを切り離し、一枚は皮を剥ぎ、骨とあばらはスープに使うので収納しておく。小角の女の子達にスープの準備してもらおう。何かネギみたいな野菜を持ってきた。育ててるらしい。畑も移さないと駄目だから大変そうだね。
主に水田を作ってるらしい。湿原だから埋め立てないと乾いた畑にできないそうだ。治水工事しないと駄目かね。堤防を幾つか設置して水路も走らせることで乾田を作れるようにしてみよう。このスキル大規模な工事には凄い便利。つかお米があるみたいだ。日本のお米とは違いそうだけど楽しみだね。
さて、大きな魚の身をさらに縦に割り、冊を作ったら刺身を作り、スキルで作った陶磁器のお皿を出して、そこに並べていく。ワサビとお醤油も準備。ホタテさんが代表して食べて見せている。ん、ブリさんが一番に飛びついた!
本当に珍しい物が好きなようだ。しかし一匹だとみんなにお刺身で回したら残らないな。他のやつはクーラーで捌いて炭火で塩焼きにしていくことにした。まな板を片付けてテーブルに大きくしたお皿を置き、刺身を並べておいて、缶のお酒も出していく。あ、またブリさんが飛びついた! そして髭の小人も飛びついた! ドワーフか?!
「この蓋はこう開けるのだ!」
ホタテさんが教えるとその瞬間にカシャカシャプシュと缶を開ける小人たち。凄い勢いで口をつけた。
「酒じゃー!」
「珍しい酒じゃー!」
「わっほーい!」
「あ、これ旨いのだ。桃の味なのだ」
「それも味見させるんじゃー!」
ヤバい、そう言えば小角族はお酒好きなんだっけ。ドワーフも。
一般的に西ヨーロッパの人や白人の人はお酒に強くて、逆に海苔とかを消化できないと聞いたことがある。下戸なのは東洋人に多い特徴なのだとか。あと牛乳が駄目なのも東洋人の特徴らしい。海外でおかしな巻き寿司が多いのには理由があったのね。
さて、お魚を焼いて宴を始めようか。