異文化。
三話だけ更新します。
「おおおおお、これほどの屋敷は小角族には無いのだ!」
「小角族はどんな家に住んでるの?」
「高さ2メートル程で幅は5メートル程のテントだな。煮炊きは外でやるのだ」
へえー。遊牧民なのかな? 私ならかなり窮屈だろうなぁ。高さ2メートルって……。入り口で絶対頭打つよね。私は日本の建物でもたまにあったけどね……。あ、長さとか重さの単位は翻訳されてるよ。
こんにちはユーミです。今日はユーミ暦三日。原住民族である小角族のホタテさんを異文化コミュニケーションにお誘いしております。家に誘ったら家の作りから驚かれたよ。塀を高く作ってて橋を堀にかけてあるんだけど、石橋を面白そうに見てたよ。一応丸いアーチ型にしてある。大きめの鉄扉が塀に取り付けてあるんだけどそれも町にしかないらしい。小角族はかなり野生的な生活を送っているようだ。ガラスとかにも一々驚いてるね。濁ったガラスとかステンドグラスはあるらしい。純度の高いガラスが難しいんだね。
こっそり彼女の衣服のデータを取って植物を素材にして服を作って渡して、お風呂に誘おう。あ、トイレの使い方も教えておいた方がいいよね。ちなみに着物の下は下半身に褌みたいな布しか着けてないようだ……。いや、胸は完全にぺったんこだけどね。
「ななななななななな、水が流れるトイレなど前代未聞なのだ! これなら疫病にもなるまい!」
「トイレが不潔なのは分かるんだ?」
中世から近世って地域によるかもだけど下水はあんまり発展してないよね。それでもやっぱり汚い認識はあったんだね。ハイヒールとかうん○避けって説が生まれるくらいだからなぁ……。夢が壊れるよね。実際は現代のハイヒールに続く物はお洒落のために生まれたらしいけどね。それくらい汚かったらしい。窓から汚物を投げて人にかかる風刺画みたいなの見たことあるなあ。さすがに病気になるわ。
まあコレラとかは現代でも国によっては流行ることあるしなあ……。流行病はこの世界のこの国だと物凄く広がりそうだ。寒い上に食べる物はなくって衛生的には最悪とか、それもうほとんど病気になって死ねってことだよね。流通も少ないだろうから村ごとに封鎖されたりしてそうだよ。ちなみにウィルスやガン細胞は収納できるらしい。医者の真似事までできるクーラーボックスの有能ぶりよ。なんとか解決していけたらなあ。全部自分でやる気ないけど。
食べ物は農地の問題もあるし、品種の問題もあるし、気候や栄養、魔物の問題もあるよね。現代日本だって食糧自給率なんてめちゃくちゃ低いんだし、この時代には貿易だって難しい。ってもこの世界がどうかは見ていかないと分からないけど、衛生や食糧事情は致命的なレベルなのが伺える。リアル中世とか絶対死ぬよね。私は無人島に渡って自給自足するわ。周りからうつる疫病にかかりにくい分その方が生きられると思う。人が多すぎるのも問題なんだよね。人口なんて昔は全世界でも十億いなかったんだよね。それでも食糧は足りてなかったんだから相当苦しいはずだ。農業は手を出さないと駄目なのかなぁ。
この世界には魔物がいるからそれを狩れるならある程度は飢えを凌げるはず。なんとかしてあげたいところだね。魔物なんてそうは倒せないだろうし。でも私ならスキルでかなり大量に狩れるだろう。せっかくのスキルなんだから駆使しないとね。
魚が食べられない人には魚を与えて飢えを凌いでる間に畑の作り方と魚の獲り方を教えよう。まあ上手くいく保証はないけど、何もしないよりはマシだ。
おっと、じゃあお風呂に誘おう。そのあとは魚とお酒でもてなしてみよう。この世界のいろいろな現状が分かりそうだ。ゆっくり話を聞かないとね。
せっかくのチート。スローライフな街作りも良くない?
「ほおおおおおおお、これが風呂か! 池のように広いではないか!」
「そっちは水風呂ね。こっちに来てまずは体を洗ってね」
「うむ! 凄いのだ! 二日でこれほどの物を作るとは! 流石は御使い! さすみつ!」
まあスキルがチートだからね。知識チートもあるけど。ホタテさんはさすみつさすみつ言ってるけど、インフォさんの翻訳が酷いんだと思う。あとホタテさんは前を隠しなさい! まあ膨らみとか一切無いけど。これで280才って無理ないか? 肌もツルッツルだよ羨ましい。わ、私もガールだから卵肌だけどね!
少なくとも玉子焼き肌ではないからね!
「おー、あわあわなのだー。苦い!」
「泡を食べたら病気になるよー」
なんか本当に小学生みたいだな。石鹸で彼女の体を洗っているとその泡ではしゃいでいる。シャンプーしてると目をぎゅっと閉じて口までぎゅっと閉じてて可愛い280才。見た目は子供、頭脳も子供かも。未開なだけかな。
未開なのは別に恥じゃないけど。それで生きられるのは素晴らしいことだと思うし。でも病気や飢えで苦しむようじゃ駄目だ。悲しいからね。
ザバーと流したら息を止めていたらしくふはふはと息を吐いている。うーん、お子様にしか見えないわ。
湯船に浸かるとキャイキャイ言いながら泳いでいく。「あっつい池なのだー!」とか言って喜んでる。あんまりはしゃぐと湯中りするよ~。
追い付いたので例の冷酒セットを取り出す。透明なクリスタル切子を二つ取り出して。
クリスタルグラスってガラスなんだよね。これは本物のクリスタル。なんとなくじゃなくクリスタル。ホタテさんは綺麗なクリスタル切子に目を丸くして驚いてるね。日本酒イケるかな? そもそも八才女児にお酒を勧める構図がヤバい。
「お酒は大丈夫?」
「我等は水の加護も受けておるからな、酒も大好きだし強いぞ。ドワーフとかも共に暮らしておるしな」
「ドワーフ!」
ドワーフの話を聞きながら冷酒を切子にお酌する。この切子はお猪口じゃないので小さなホタテさんは片手では持てないようだ。牛乳飲んでるみたいにこくこく飲っている。強いな。
「とても冷たいのだ! 美味い! これは神の酒なのだ! うちの者共にも飲ませてやりたいのだ!」
「一度遊びに行くよ」
「是非! 御使い殿なら大歓迎なのだ!」
「私はユーミでいいよ。御使い殿とかいわれるのは……堅いし」
なんか役職で呼ばれると仕事しないと駄目っぽくない? そもそも使いじゃないしね。まあ小角族の話を聞くと助けたいんだけど。
そう言えば冷たい物は水の魔法があるので普通に飲んでるらしい。元の世界では流通や保存、冷却などで問題があったので冷たい食べ物はなかなか食べられることもなかったが、魔法があるこの世界ならではだろう。暑くなると氷も食べるらしい。かき氷とかもあるとか。昔の御使い様が広めたようだ。
「つまみにヒラメの皮を干したのを焼いた奴」
干したと言ってもスキルで水抜きしただけだけどね。
「お、これもいいな。小角浜ヒラメなのだ」
「この魚ってたくさんいるの?」
「1メートルくらいのはうじゃりとおるのだ」
「うじゃり」
表現がイヤだけどたくさん釣れるなら釣ってからカイバシラ集落に行ってみよう。他の釣りもしておきたいし、貝とか海老とか昆布とか塩とか収納で蓄えていこう。半日で準備できるかな。四十秒では支度できないね。
お、温泉回……。