のだろり。
5話目です。もう寝ます。
やたら足の速い女の子だ。小さいのに5キロの距離を3分くらいで詰めてきてるらしい。……え、時速100キロ?!
常人なら5キロマラソンで30分くらいだっけ? 10倍の速さで走るには100倍のエネルギーが必要だよね。体重は半分くらいとして50倍?!
スーパー現地人?!
いや、落ち着け落ち着け、私もけっこうな人外の力になってるから。大丈夫だ。問題ない。木の槍もあるし。
『そんな装備で大丈夫ですか?』
「珍しくボケを有り難う。ただこのタイミングは不穏だけどね!」
『対象の表情に敵性感情は見受けられません。接近後なら情報から敵対的感情があればお知らせします』
「スルーしたね。でも有り難う。お願いね」
インフォメーションさんたまにネタを突っ込んでくるなぁ。まあ一人で寂しいからいいけどさ。おっと、もう目の前に来た。
小さくて可愛い女の子だ。和服というかとりあえず布を厚く縫い合わせて帯で纏めてるような服装だ。でも金で装飾された簪のような物も挿してるね。それと髪と目は日に焼けた黒髪のような茶色だ。髪は地は黒いように見える。目は赤みが強いかな。
そして何より特徴的なのは、某円錐型のチョコレートを少し細長くしたような角が、額にちょこんと生えてるところだ。親指の爪くらいの大きさで先が丸いから刺さったりはしなさそう。白いんだけど、うっすら青白く光ってるような?
「どうやらやはりこれは、天神様の御使い殿か。二日前に星が流れたのはやはり御使い殿だったのだな」
「喋り方がカタいなぁ。あ、初めまして」
「これが我の話し方なのだ。許せ御使い殿」
「あ、ごめん、気にしてないから。こちらこそごめんなさい」
どうやら友好的な子みたいだね。ただ気になること言ってるね。天神様って日本の天神様とは違うよね?
「天神様って?」
「主神様を星々に遣わす親神様なのだ。とても偉い神様だが人には滅多に関わらぬ。なので御使い殿はかなり珍しい。我も二百五十年前にババに聞いて以来見たことも聞いたこともないのだ」
うーん、二百五十年て。どう見ても八才くらいにしか見えないんだけどこの子。
「御使い殿は見た目通りの年ではないことが多いそうなのだ。我より長き月年を生きていることもありうると思ったのだが如何か」
「24才だよ。名前は……ユーミね」
「ユーミ殿。我はホタテ。齢は二百八十と少し。カイバシラ集落の酋長にして主神様に占星の御技を賜り、民を教え導く事を生業にしておる者なのだ」
カイバシラのホタテって……翻訳してる?
『現地語でカイバシラ、ホタテに当たる言葉を翻訳しています。直訳するとホタテは「太陽の恵みの貝」になりますが地球のホタテのような生物です。カイバシラには種族を支えると言う意味があります』
わざとネタっぽく翻訳してそうだなぁ。見た目日本人っぽいから違和感あんまりないけど。
『人族やエルフ等の名前の翻訳は現地語がよろしいでしょうか?』
「いや、お任せします」
「? どうしたのだユーミ殿」
「あ、こちらの話です」
「! もしや知恵ある御技?」
あ、バレた。今のは知恵ある御技インテリジェンススキルって繋がって聞こえたな。本人の口と音が合ってないな。違和感あるー。
うーん、クーラーボックスの威力からいえば多少の情報漏れは問題なさそうだし、少しくらいなら知ってる人がいた方がいいかも。
「やはり天神様の御使い殿なのだ。……その御技の力、秘密にした方がよいのだ」
「うん。まあうっかりバレてもかなり無敵なスキルだからいいんだけど、なるべく隠すよ」
「無敵なのか。如何様な御技か」
かなり複雑なスキルだけど、生物を含む無限の収納能力とか物をある程度好きに作り出すとかは彼女に伝えておいた。
「収納だけならあるし、召喚や対象を強制転送する技ならばあるのだが。素材に自在な加工をする技もあるのだ。しかし複合となると難しいな。しかも生かすも殺すもほぼ自在か。恐ろしいのだ……」
どうでもいいけど小さい女の子がのだのだ言ってるの可愛い。のだろり? 思わず撫でてしまいたくなる。人の頭を撫でるのは相手の魂を払うことになるからって凄い嫌われる国とかあるらしいから迂闊に人の頭は撫でない方がいいんだけど。あ、撫でちゃったよ。
「我は子供ではないのだ」
「いや、可愛いなって……」
「あんまり撫でられるとくすぐったいのだ。いつまで撫でるのだ?」
「撫でくり撫でくり……」
「しつこいのだー!」
「あ痛たたたた!!」
額の丸い小さい角でグリグリされた。スッゴい痛い。跡になってそうなくらい痛い。でもなんか、疲れが取れた? ってかダメージ収納できてないのなんで?
『ハイタッチ等コミュニケーションのダメージは親密さを増す効果があるため、生命に影響がない範囲では収納しません。意図的に収納は可能です』
……それはまあ親切設計ですね。インフォメーションさんが随分とファジーなんですけど。人間的なのはいいところか? ともあれ小角グリグリはなかなか厄介なスキルであるようだ。
「我等小角族の角には癒しの力があるのだ。小角グリグリは親愛の挨拶でもあるが子供の躾にも使われるのだ」
「子供扱いにならないの?」
「外交から夫婦喧嘩でも使うのだぞ。小角族は仲良しでないと角は触らせぬことが多いのだ。そもそもこの角に癒しの力があるゆえに我等は人族に狩られた歴史があるのだが」
「ええ、人間同士なのに狩り?!」
「人族同士でも奴隷狩りはあるな。今は百五十年周期で起こっておる長寒期の半ばゆえ、田畑では食う物が中々育たず戦も多いのだ。そこに癒しの力を持つ種族。よう狙われるのだ」
「けっこう食べ物あったけどなぁ」
「この辺りは人の手がまだ届いておらぬゆえなのだ。まあユーミ殿が開拓するならそれもよいのだ」
「……移住とかしちゃう?」
「それは、助かるのだが……小角も全部まとめれば数万はいるぞ」
「いやいきなり数万は無理だけどね!」
いきなりそんな話になるってことはかなり民が飢えてるんじゃないだろうか。助けたいけど数万はキツいよねえ。まあ材料さえあれば家も建て放題だし、少しずつの移住ならいいかな。
しかし戦争するほど食料が無いとか、中世から近世に近いのかな。戦争ばっかりしてたもんね、その辺りの時代は。食糧生産に手間暇を費やしてもそもそもの土地が痩せてるのかもなあ。
奴隷って現代人の感覚では絶対許せないけど古代だと仕事をもらえるフリーターみたいな感じだったとか聞いたことがあるな。お給料もらえてお酒やご飯ももらえる代わりに仕事を選べないとか。ちなみに里帰りさえできたらしい。休みがもらえないブラックのフリーターの方が奴隷かもね。
とにかく食べられない時代だと雇われて食べられるだけマシだったらしいよ。日本人はいかに満たされてるかって分かるよね。うーん、これは農地改革とかも手を出さないと駄目なのかなあ。そっち方面はあんまり詳しくないんだけど……。うちの家は自分の食い扶持は自分で狩って余ったら分けあう一族だし。どこの原住民だ私は。日本の原住民だけど。
とりあえずこのホタテさん、家まで100キロほどで人族の足で歩いて三日(厳密には二日と少し)はかかるらしいので今日は泊めてあげることにした。いろいろ驚かせたいよね!
ちなみに魔法を使って全力で走ると二十分らしい。魔法とか使うと時速300キロ超えるようだ。分かってたけど前世の地球じゃないね。
夜にまた載せるかも知れません。