三日目。
たしか四話目。
さて、晩御飯作るかな。そういえば手帳とかシャーペン作れたので日記を書くことにしたんだよね。こちらに来た日を「ユーミ暦」元年にしよう。あはは。ユーミ暦二日、温泉を掘って晩御飯はヒラメしゃぶしゃぶである。
タレは醤油と料理酒と胡麻油をフライパンで火にかけてアルコール飛ばしたらすりおろした胡麻を入れて、それにさっと出汁にくぐらせたヒラメの薄造りを入れて、食べる。うん、胡麻風味。刺身醤油にわさびとかも試してみるかな。ニンニクもいいし。
お酒はビールにしよ。冷たく冷えたのが出てくるとかこのクーラー天才か。ぷしゅっ。ごくごく。ぷはー。風呂上がりの一杯は最高だなー。
……我ながらオヤジ臭い。
ご飯とかは欲しかったなー。クーラーにご飯パックとか入れてたけど食料は自分で獲らないと駄目なシステムです。楽しいからいいんだけどね。釣りもできるし。ちょっと獲物が大きすぎるけど、まあ異世界っぽくていいかな。クーラーさんに任せっきりにするんじゃなくて自分で解体してみたいかも。まあ他の人と出会ったら試してみるのもいいかもね。そういえばヒラメの魔石はクーラーの中に出てた。クーラーに捌いてもらうとそうなるらしい。クーラーに捌いてもらう、とかパワーワードだな。
……いるよね、人。もしこの星にボッチとかならさすがに寂しいよなあ。ウサギでも寂しいくらいじゃ死なないけど私は死にたくなるかもなあ。何ていうの、たくさん人のいる暮らしに戻れるからこそサバイバルも独特の良さがあるんだよね。一人で夜空を見上げたりさ。世界を独り占めしてる感? 本当に一人だと寂しいだけだよなあ。神様とかこんな気分なんだろう。だから人のいる世界を作ったのかもね。
あ、昼間は暑いかも知れないけど天井にガラスを張って蓋を付けて、夜になったらそれを外して空を見上げられるようにしたらどうだろう。それもやってみようかな。ウィンチ付けて回したら開くようにしたりね。開ける方向と閉める方向でギアを回して扉を開けるようにするとか。それならウィンチよりゴムベルトやチェーンみたいな物の方がいいのかな。天井に横にゴムベルト付けた板を前後に動かせる仕組みを作って、板に小さい車輪を四つ付けてギアで連動する。ゴムベルトを回すとギアが回るようにして、そのゴムベルトと連動してこちらで輪になったロープかチェーンを手前に引いたらギアが手前に回り扉が手前に開き、逆に回したら閉まる、とか。雨とか入らないように工夫しないとね。ガラス張ればいいかな。水が貯まらないように。
増改築も自由だし、家ごと収納もできるんだからキャンプ用に完全独立型の家みたいなの作ってもいいかも。浄水システムとか考えないと駄目かもだけど、そもそも私だけなら幾らでも水を出したり排水を浄化できるんだよなあ。スキルを隠して何人かと暮らす……うーん、家を移動させたりいきなり建てたりしたらどっちにしても隠しきれないけどね。
このクーラーボックスのスキルはチート過ぎるとして、大規模収納程度のスキルがあるならそれとごまかせないだろうか。
『大規模収納、ストレージ等のスキルは一万人に一人ほど持っています。クーラーボックスは強力なオリジナルスキルですので隠す意味はあると思われます』
「まあ人を収納して削除できるスキルとかヤバすぎるよね。私なら逃げるわ」
大規模収納は家でも出し入れでき、ストレージは使う人の魔力で収納限界が変わるけど数だけで、質量や大きさは無視できるらしい。ただ家の中に入ってる物とかバッグの中に入ってる物とかもカウントするし液体や気体が一つのストレージに1リットルとか、一定量しか収納できないらしい。不便だね。
インフォさんでも話し相手いると嬉しいなぁ。あんまり融通利かないみたいだけど。
「インフォさんもお酒飲む?」
『飲食は必要ありません。チョコレートを作って削除してくださったらいただきます』
「チョコ食べんの?!」
エリ、知っているか。インフォさんはチョコしか食べない。
つい異世界の神様になりそうなメッセージを前世の友に送ってしまった。まあこのクーラーボックスは神様レベルのスキルだからなぁ。対抗できるスキルあるんだろうか? 魔力自体を単独では収納できないんだよね。魔法は収納できるんだけど。スキルは?
『物理効果スキルは当然収納できます。精神攻撃や概念効果スキルは情報を削除することで対応可能です。クーラーボックススキルは主神にも対抗できません。ただし主神がこのスキルを避ける方法は存在します』
「本当にどこまでもチートなんだなあ……」
神様がこのスキルを避ける方法は分かる。空間を25メートル盾にするように展開すればいいんだ。このスキル空間は収納できないらしいし。まあ空間は削ったりぶつけたりしてもブラックホールができるレベルじゃなきゃ物理干渉できないと思うけど。そんなスキルはないか、このクーラーみたいに回避法が用意されてそうだ。簡単に星が滅ぼせたらイラついたからって集団自殺を謀る人はいるだろうからね。
そんな人に神様がスキル渡したりしないか。私にしても、このスキルどう考えても私向けスローライフ用だもんなあ。世界を滅ぼしても私はなんも楽しくない。楽しみ方を知ってるからね。波を眺めたり風を感じたり土を踏んだり火を熾したり、そういう自然のシンプルな現象を楽しめるなら楽しみなんて無限にあるんだ。
ちょっと酔ったかな。寝よう。
そして、ユーミ暦三日が来るのである。
ユーミ暦三日は歴史的な日となった。ユーミ暦とか言ってたら女皇帝になりそうだね。スローライフ女皇帝だけど。住民は現在一人です。ボッチ女皇帝。
いや、それはいいんだけどね。朝御飯は適当にヒラメのスープとカットした酸っぱい果物と芋で済ませて、外回りに何か作ろうと見て回っていたとき。
『知的生命体反応、5キロ先』
「5キロ?」
あ、そういえば収納できるのが25メートルだから無理に思うけど光とかなら地平線まで見れるからね。つまり地平線からやってきた光を25メートル以内で捉えて報告とかならしてもらえるんだよね。
こう言う25メートルより外に効果を出せる使い方が幾つかあって、その辺りこのスキル複雑で細かいと思う。例えば前に考えた光速テレポートならクーラーボックスも一緒に飛ぶから視認可能範囲、もしくはインフォさんが知ってる座標なら何処までも飛べるんだよね。
これ以上ないくらいチートだよね。微妙に弱点があるのが面白い。その弱点をプログラミングで潰せるのも面白い。
おっと、その生物に接触してみようかな。ダメージ収納設定はずっと変えてないからどんな相手でも私を殺すのは難しいと思うし、真っ直ぐ会いにいってみよう。インフォさん、もしものときは光速で逃がしてね。
『このクーラーボックススキルは無敵です。ご安心下さい』
「頼もしいなぁ。まあインフォさんが対応してくれるならどうとでもなるのか。敵を収納したりできるし」
対真空には空気バリアって方法が使える。【設定】空気を自分から1メートル通常圧力で取り出し。1メートルより外に発散する空気を収納。
これで無理矢理空気を物理的に消滅させるスキルでもかなり対抗できる。その間に敵のスキル範囲から逃れればいい。そして、低温に対抗する熱量は温泉や燃える炭を収納してあるのでかなり対抗できるし、時間さえあれば熱量を無限に確保する手段もある。物質を空中固定すれば熱量を無限に増やせるからね。それを他に移すことはできないけど、その物質を取り出して熱量を加え続けて、その熱量によって暖まった周りの空気を均等に適温で体の表面に配置すればいい。裏技だね。
これも相手のスキルが私の射程より長いならテレポートで逃げたり敵にぶつかっていって相手を収納してしまえばいい。射程25メートル以内ならそもそもお話にならないしね。
まあ敵性生物とも限らないよね。……自分の身体能力とかもっと確認しておけば良かった。……念のために木の槍を作ろう。取り出し。イメージが貧相だからただの先が尖った棒になっちゃったけど2メートルくらいあるから大丈夫だろう。相手がワニとかなら生きたまま収納して、人間ならこの槍もどきで十分だろう。ちなみに鉄より硬い木も普通に前世からあるんだよね。クーラーボックスさんなので当然素材を爆発しないように圧縮して硬い木材を作るくらいはしてもらえる。カチンカチンやぞ。かなり重いはずだけど軽々振れるな。強いぞ私。
やがて歩いてきたのは、身長が120センチくらいの女の子のようだった。……第一星人発見。