13
「エーリーちゃーん。あっそびっましょー」
エリちゃん城の前にいたエイゾル教徒らしき門番に止められたので正門からではなく壁を伝ってベランダ……バルコニー? からエリちゃん城に入った。
「ミコト! 来てくれたのね、嬉しいわ!」
「ひさしぶりー」
いぇーいとハイタッチを交わす。
エリちゃんは王女様だけど、気さくで親しみやすい。こんな良い子でかわいい王女様を怪物認定するとかエイゾル教はやっぱりロクでもないな。
「手紙もらってからすぐ来たんだ。ちょっとメルーベに捨てておきたいものがあったし」
かくかくしかじか。
メルーベを出てから今までをかいつまんで話す。
「毎日が楽しそうでなによりですわ。お母様もお元気そうで。その捨ててきた司教はどうなりましたの?」
「さあ? 死んでなきゃ神殿にいると思うよ」
エリちゃんはちょっとだけ考え込んで、それからお茶を片付けさせた。
「私、欲に塗れたエイゾル教徒は大嫌いですけれど、エイゾル神が嫌いな訳ではないのです」
「へー、そうなんだ」
「神の教えを自分のいいように解釈して周囲に押し付ける俗物が許せないのです」
「ふーん」
「ですから殴るのは教徒だけにして、神殿を壊すのは最小限にしたいのですれど、よろしくて?」
「うん、いいよ。神殿の見た目はきれいだもんねえ」
「ええ。十数年をかけて国民の血税を搾り取った末の建造物ですから。見た目だけは美しいのですわ」
ウフフフフ、とエリちゃんはそれはもうかわいらしく、うつくしく、王女様らしく笑った。
「ありがとう、ミコト」
「どういたしまして。いつもエリちゃんには美味しいお菓子もらってたし、これくらいどうってことないよ。おかあさんもまた食べたい、って言うくらい美味しかった」
「料理長に言っておきますわ」
エリちゃんはドレスから動き易い平服に着替えて、髪形もまとめてお団子にした。
「エリちゃんの得物ってなに?」
「恥ずかしながら武具の類は触ったことがありませんの」
「徒手空拳かー」
拾ったまましまいっぱなしになっていた籠手を取り出してエリちゃんに合わせていく。これでもない、これでもない。これは大きすぎ。これは小さすぎ。これはしょぼすぎ。これはごてごてしすぎ。
あー、ちゃんとこまめに整理整頓しておけばよかった。
「籠手もたくさんの種類がありますのね」
「そうみたい。あ、これなんかいいと思う。耐久が一番高いよ」
「耐久より素早さ重視のほうが良いと思うのですけれど。攻撃など当たらなければ良いのですから」
「それは実戦に慣れてからにしよう。一対多数の実戦は初めてでしょ? 囲まれるとけっこうテンパるし、ケガするとさらにテンパって魔術ぶっぱとかしちゃうから」
「そうなのですね、では助言通りにいたしますわ。神殿を壊したくはありませんもの」
籠手の調子を確認するために軽く手合わせをしてからわたしたちは神殿に向かった。
「奇襲にする? 不意打ちにする? それとも正面突破?」
エリちゃんは拳を手のひらに打ち合わせてにっこり笑った。
「正面突破いたしましょう」