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魔王インヘリテンス  作者: Moscow mule
プロローグ
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プロローグ 【魔王の死】

 モスコミュールと申します。

 全部で9万字くらいの作品になると思います。

 初日なので、3章くらいまでは同時公開します。

 


 

 魔王城ヴェルヘルミナ。


 レガドニア大陸を二分する深淵の谷より東部の地のことを、人間たちは『大魔境』と呼ぶ。

 魔王城ヴェルヘルミナはその中心部にそびえ立つ魔族のシンボルだ。


 薄紫の外壁は近くで見るとその頂上が見えないほど高く、かろうじて出入り口である城門だけは真下からでもその全貌が確認できる。

 門の扉は地獄亀の甲羅で作られており、たとえ龍の吐息であってもこれを破ることはできないだろう。


 そんな外壁に守られる本殿は、外壁の高さをゆうに凌ぐ巨城である。外壁と同じく薄紫に統一された城は、夜になると禍々しい魔力と瘴気を放ち、下級の魔物は近寄ることすらままならない。


 そんな巨城ヴェルヘルミナの中でも、魔王とその腹心しか立ち入ることのできない上層部のある一室で、一人の男が石机にむかって座っていた。


 ゆらゆらと怪しく照らすランプの灯が、彼の頬を照らしている。

 人目を惹く端正な顔立ちに、短く切りそろえられた灰色の髪。

 黒で統一された装束に包まれた体は、細身ではあるが、鍛えこまれていることがよく分かる。

 そして、金色に光る鋭い眼と、ピンと尖った両耳は、彼が人ならざる者――魔人であることを物語っていた。


 彼の名前は《ガゼル・ワーグナー》。


 この大魔境に住む者に、彼の名を知らぬ者はいない。

 ガゼルは比較的若い魔人だが、ここ数百年、魔王の右腕としてその実力を示してきた。

 ある時はその力で、ある時はその頭脳で魔王を助け、魔王からの信頼も厚い。

 現在の魔王軍が、かつてないほどその領土を増やしているのは、彼の存在が大きな役割を示してきたことは言うまでもないだろう。

 そんなガゼルであったが、つい数刻前にあった報告によって、頭を悩ませることになった。




「・・・・・ガゼル様、大変です! 魔王陛下がお亡くなりになりました!」


 執務に明け暮れていたガゼルは、当初この報告を信じることが出来なかった。

 今代の魔王、《ヴォルザード・サイアー・ハドリアヌス》は全世界から恐れられる歴代でも屈指の大魔王だ。

 極大魔法を無効化し、どんな伝説の剣でも傷一つ付けられず、指先一つで百万の軍勢を滅ぼすことが出来る、全魔族の頂点に立つにふさわしい最強の力を有する魔王だ。

 そんなヴォルザードが死ぬなど、普通に考えたらあり得ない。


 しかし、ガゼルは現実を受け入れるしかなかった。

 副官に案内されて入った魔王の居室。

 そこには、安らかな顔で横たわる魔王ヴォルザードの姿があったのだ。





「・・・・ふう」


 ガゼルは今後の展望について考える。

 ヴォルザードの遺体は信用のできる部下に管理を任せ、死については城内戒厳令をしいた。

 問題は山積みだ。

 魔王の死因は「窒息死」。

 好物の地獄団子を喉に詰まらせるという、大魔王としてはなんとも間抜けな死。


「ありえないこともないか・・・」


 ヴォルザードは覇気あふれる人物にも拘らず、意外なところで抜けている人物だった。

 下手に外傷で殺されるという理由よりはまだ納得できるとはいえる。


 なんといっても、大魔王ヴォルザードを戦闘で殺すほどの力を持つ者は、おそらく勇者だけだろう。

 現在、その存在が確認されている勇者は3人。

 いずれも魔王城からはるか遠くの前線において確認されており、この魔王城まで誰にも気づかれずに到達するというのはおかしな話だ。


 さらに問題なのはその死の影響についてだ。

 魔王軍の領土が、過去最大範図となったのはまさしく魔王ヴォルザードのカリスマ性に寄ることは明らかだ。

 そんな中、ヴォルザードの死という知らせが広まったら、恐らく大魔境全土は大混乱になるだろう。

 各部族のまとまりは欠け、今まで大人しくしていた有力魔族達が反旗を翻すかもしれない。


 ―――その隙を、人間たちが見逃すはずがない。


 勇者率いる連合軍が一斉に大魔境になだれ込み、最悪の場合、魔族が滅亡してしまうこともあり得る。それだけは何としても避けなければならないが・・・。


「あら、こんなところにいたのですか? 皆さんガゼル様を探していますよ?」


 不意に部屋の入口のほうから声が聞こえた。スッとそのまま部屋の中に入ってくるのはガゼルの副官を務める――《ミサ》だ。


 その昔、赤龍に襲われていたところをガゼルに助けられ、それ以来、彼に絶対なる信頼・好意を抱く女性だ。

 魔人族ではあるがまだ若く、整った顔立ちと、美しい赤髪、しなやかな身体つきは、ひそかに魔王城内で人気を集めている。


「ふん、幹部連中は流石に気付いたか」


 ミサの報告に、ガゼルはさもありなんという顔で答える。


「この分だと一般兵に気付かれるのも時間の問題だな」


 もとから戒厳令をしいた程度で隠し通せるとは思っていなかった。

 なにせ魔王という強大な魔力を持つ者が死んだのだ。

 もともと魔力に精通している部族などは気づいて当然だろう。


「それで、どうされますか?」


 すました表情でミサが訊ねる。


「どうするもこうするも、事実を公表できるわけないだろう。正式に後継者を選ぶまで、多少の混乱は仕方あるまい。《急な遠征に行った》とでも伝えておいてくれ」


 ガゼルはやれやれ、と呟き、意を決したように言った。


「あと・・・洋紙と筆を持ってきてくれ、紫色のものだ」


「・・・ではやはり?」


「ああ、奴等を呼び寄せる。《全魔冥宴》だ。一刻も早く次代の魔王を決めて、混乱を収拾する」


「かしこまりました」


 表情を変えずに一礼して部屋を去るミサ。

 ガゼルに抱いている好意を出すことなく、冷静沈着な副官として振る舞う彼女は、ガゼルにとっては有用な人材だ。


 そんなミサを横目にガゼルは再び思いにふける。


 ――これは、もう潮時かもしれないな。


 世話になったヴォルザード亡き今、ガゼルがこの魔王軍にいるべき理由はない。


 なにせガゼルの目的は、魔王の地位でも、四天魔将の地位でもない。


 ただ――、


 ――『妹を取り戻す』。


 思えばガゼルがここまで上り詰めたのはそのためであった・・・。



 完結させることのみを目指した作品です。

 それほど内容に自信はありません←。


 全7章+エピローグを予定しております。


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