結局、損だったのか何なのか
田中君に「回転寿司行こう!」と誘われたのは金曜日の事だった。
正直、寿司は余り好きではないんだが田中君の熱意に根負けしたので、渋々だが行く事に決めた。
メンバーを訊くと、僕の他にはミステリ研の佐藤君と演劇部の近藤さんとの事で、どういう基準で選ばれたかサッパリだったが、それでも厭でも日時は刻一刻と近付いていた。
そして、約束の当日。
回転寿司屋の前で待ち合わせをしているのだが、どうやら一番乗りは僕だった様でまるで楽しみで仕方ないみたいに思われそうで少々気恥ずかしかった。
やがて、田中君も到着したが開口一番が「やっぱり佐藤君は遅れるみたいだね」といったものだった。よくよく訊くと、佐藤君の遅刻癖は今に始まった事ではないので待ち合わせ時間を一時間早く告知したらしい。それでも遅刻してくるから佐藤君も大概だが、それを知って誘う田中君もどうかと感じてしまった。
「まぁ、近藤さんもまだみたいだしもう少し待とうか」
そう言う田中君が何で主導権握ってるんだよと突っ込みたかったがあえて我慢する。
暫くしてようやく佐藤君が到着した。が、そのいで立ちは金田一耕助を訪仏させる和装だった。流石はミステリ研だけあって金田一を意識してきたかと一瞬感心したが、いや待てこやつは遅刻してきたんだぞ、となると感心もしていられない。
「佐藤君、遅いよ。一体何をしてたのさ」
「いや、申し訳ない。出掛けに草履にするかブーツにするか悩んで気が付いたら、三十分経ってしまっていた」
「そういう理由かぁ…それなら仕方ないか」
という田中君に「何でやねん!」と突っ込みたくなったが、これが佐藤君の遅刻癖の要因なんだろうなと思うと妙に納得してしまった。
「それにしても、近藤さん遅いね。何かトラブルでもあったのかな?」
僕の一言に、田中君も佐藤君も「うーむ」と首を捻る。それに反応したかの如く、突如田中君のスマホがけたたましく鳴った。
すわ何事だ! と皆が驚いたが、田中君が表示画面を見ると「あ、近藤さんからだ」と、ケロリと言ってのけそのまま通話を始めた。
「うん、うん。成程ね、了解。近藤さんがくる迄は食べてると思うから大丈夫だよ。うん、待ってる。じゃぁね」
何事もなく通話を終えた田中君は「近藤さん遅きなるらしいから、先三人で食べてよっか」とこれ又ケロリと言ってのけた。それは流石に看過出来なかったので、
「一体、近藤さんに何があったのさ?」
と、思わず喰って掛かってしまった。佐藤君も同じ様で「理由は聞かせて貰わんとな」と食い気味に田中君に近付いた。
「判った判った、言うよ。彼女は『着替え直したいから、三人で楽しんで』と申し出てきたんだ」
…は? 着替え直したい?
「どんな理由だ、それは?」
僕よりも先に佐藤君が突っ込みを入れた。それに対して田中君は大きくため息を吐くと、
「子供が手放してしまった風船を取ろうとして川に落ちたらしい。びしゃびしゃの状態じゃ、僕等だけじゃなく店にも迷惑が掛かるから着替え直したいんだそうだ」
それでは流石に誰も文句は言えない。ならば、田中君の要望通り近藤さんがくる迄店で待機しているべきだろうとなり、近藤さんには申し訳ないが先に寿司を食べる事にした。
後日、田中君に会ってあの時の面子はどういうものだったか訊いた。
何て事はなかった、佐藤君も近藤さんも部員集めに奔走していたらしく、田中君にも頼み込み帰宅部の僕に白羽の矢が立ったという訳だ。
それだったら話は早い。
僕は丁重に断った。
今回の鍵:回転寿司、草履、川




