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三ツノ鍵  作者: 島田祥介
7/8

ぼたんと妻

 銀婚式の旅行に、神奈川にでも行きたいと妻が言い出した。

 てっきり定番の箱根辺りでも行きたいのかと思えばそうでもないらしく、何となく神奈川という単語が浮かんだだけでこれだという場所がある訳ではないそうだ。

 それだから、何処かいいスポットを探してほしいと催促されてしまい、仕方なしにパソコンを立ち上げて画面とにらめっこする羽目になってしまった。

「これで若ければ、みなとみらいとかで誤魔化せられるんだがなぁ…」

『神奈川 観光地』や『神奈川 定番スポット』と入力し、あれでもないこれでもないと頭を悩ませる内に、どう検索してヒットしたのか覚えてないが何故か検索結果に猪鍋が出てきた。

「ぼたん鍋かぁ…そういや、学生時代に食べた以来だな」

 懐かしさも相まって、思わず猪鍋の検索結果を次々と眺める。

 それも旨そうだな、久方振りに鍋をつつくのも悪くはないが妻が好むかが鍵だよな…とあれこれ考えている中、ふと「何故、猪はぼたんと呼ばれる様になったのか」が頭から離れなくなってしまい、神奈川の事なぞすっかり忘れて由来を検索してしまう。

 どうやら、猪がぼたん肉と呼ばれるのは京都の東本願寺に由縁するらしい。

 東本願寺には、獅子と牡丹の花がセットで描かれている唐獅子牡丹図という絵があり、牡丹に唐獅子という成句もあるくらいの代物だ。

 そこから獅子と猪をかけてぼたんという隠語に繋がった、というのが一般的な解釈らしい。

 他にも、江戸時代には鯨肉の食事は問題なかった事から山鯨という隠語もあったと知って、私はますます猪鍋に魅了されていった。

 色々調べてみれば、厚木方面、特に七沢であったりに猪料理を振る舞う場所が結構あるではないか。これなら、温泉にゆっくり浸かりながらぼたん鍋をつつくのも悪くないな。


「なぁ、母さん。神奈川旅行なんだけど」

「あら、本気で調べてくれたの?」

 自分で言っておいてこれだよ…と思いつつ、あえて定番を外しゆっくりとしたい、よかったら一緒に鍋をつつきながらどうだろうと提案を出した。

「貴方の事だから箱根辺りで片付けると思ったけど、案外面白い考えね」

「鍋も普通のなんかじゃなくて、ぼたん鍋でもつつくのも面白いだろ?」

 案の定、妻の顔が歪む。

「猪肉って臭みが強くて好きじゃないのよね。そういう余計なものはいらないから、もっと普通の旅行を考えて頂戴」

 たった一言で、今迄の検索があっという間に空振りに終わる。

 仕方ない、一から調べなおすか…と、溜息交じりにキーボードを叩くと、妻がお茶を入れてくれた。

「文句ばかりで腹立たしいかもしれないけど、もう何年も二人で出かけられてないから期待してるからね」

 まさか、この歳で今でいう所のツンデレというものを体感するとは思えず、私のキーボードを打ち付ける指に力が入る事になった。

 

 恐らく、私の顔こそぼたん色になっているに違いない。

今回の鍵:空、猪、神奈川

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