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染めい美しの

 

 高校生活最後の3学期、寒さが緩和されてきたこの頃、俺、四糸乃椿月よしのつばき卒業が確定し、卒業後の就職先も決まっている俺は、ただぼんやりと窓枠に飾れた空を眺めていた。クラスメイトのほとんどが大学へ進学する。幼馴染の染井咲楽そめいさくらも進学することとなっている。


「そんなに凄い学校じゃないよ、平均点取れてたら余裕で入れる」

「その平均点とやらが取れないのでな」

 苦笑しながらそう答える。

 まぁ、キャンパスライフとやらに興味が無いわけではなく、経験できるのであれば是非ともしたいところなのだが、今、俺は高校生にして1人暮らし、しかも咲楽の親のアパートを格安で借りている。だからと言って学生である俺の懐は氷河期で、毎月ちょっとずつ滞納金が積もっていった。

貴大たかひろさんにもこれ以上迷惑かけれねぇしな、やっぱり就職するしかねぇんだわ。」

「まぁ私としては食材持ってくだけで美味しいごはんが食べれるから良いんだけどね」

「そんなに食ってよく腹に貯まんねぇよな」

「私は上に貯まる体質なのよ」

 いや揺らしながらに言われてもだな、けど。

「もうすぐ卒業かぁ」

「なに、ダブる気?」

「そんなつもりじゃねぇよ」

  まぁ、咲楽がいなければそんな事態になっていたかもしれないのだからこいつには感謝しきれない恩がある。

  高校1年の春も上旬、俺は不良に絡まれて、他校の生徒と喧嘩沙汰となり、高校を停学になった。まぁこれで退学にならなかっただけマシだと思った方が良いのだろう。

  停学で空いた勉強を教えてくれたのが咲楽だった。


 下校時間となり、リュックサックに教科書やらを詰め、足早に教室から退出する。学生玄関に咲楽が待っていた。

「遅かったじゃない」

「待ってくれなんて言ってないが」

 まぁ待ってることは知っていたのだが。

 いつもと同じ帰路を、いつもと同じ二人で辿る。端から見ればカップルに見えるのだろう。

 家につくまでの間に、咲楽と色んな話をした。大学の話、就職の話、クラスメイトの話なんかも。

「最近また告られたんだけどさぁ」

「そうよかったな」

「それがサイコパストーカーでさ」

「そう」サイコパストーカー?聞いたことないがトチ狂ったストーカーということか。

「目があう度、キモい笑い顔で手ぇ降ってくんのよ」

「それって、あいつか?」

 電柱の影からコンニチワしたそいつは、学校一のイケメン、黒野百合夜くろのゆりや

「付き合えば?」

「嫌」

 すると、電柱からぬっと黒野がこちらに近付いてきた。

「奇遇だねぇ染井さん」

「待ち伏せしてただけでしょうが、気持ち悪い」

【咲楽が助けてしそうにこちらを見ている】

「まぁまぁ黒野よ、そのへんにしてねぇと咲楽の姉貴が激おこるからやめとけ」

「不良くんは黙っててくれ、それとも何か、僕を殴って次こそ退学になるかい?」

 なにひとり盛り上がってんだろう。

「僕はキミを許さない」

 そう言って、黒野はキメ顔を決めた後、電柱の糞(茶色いあの娘)を踏み潰し、靴を擦りながら帰ってった。







 19:00四糸乃家

 プレミアムプディングで貴大さんと大喧嘩した咲楽は約2週間、俺んちに居候している。まぁ家事は全て俺に劣るので、家では勉強を教えてもらっている。

「なんであんた勉強できないのに料理とかは私よりできるの?」

 特にケーキ美味しいと言う咲楽に

「クリぼっちなめんな」

「...なんかごめん」

「なれてるからいい」

「まぁ今年は二人で、ね」

 頬が熱くなった気がした俺であった。

 まぁ本当に紅くなるのは明日の早朝7:50






 咲楽と登校する道中に例のストーカー野郎と出会でくわした。登校中だと言うのに、黒野は制服ではなく黒いパーカーに身を包んでいた。すると黒野は、両手に何かを携え、こちらに迫ってきた。僅か30cm、日光に反射する刃の部分を視認する前に、腹部に突き刺さていた。

 刺された、ナイフを、腹に。痛てぇ、マジ痛てぇ、動いたらまた痛くなりそう。だが目の前の黒野(クズ野郎)に咲楽が連れ去られようとしていた。

「待てよ...」

「!」

 驚いたように目を見開く黒野。

「しつこいなぁ」

「しつこいのはてめぇだろ」

 ここで問題になったら、俺は完全に卒業できねぇ、けど、今はそんなことどうでもいい。咲楽を助け出す。今はそれが最優先目的(一番大事)だ。

 黒野が右手を振りかざす。まぁ殴る殴る。いつもなら耐えるか避けるかできるが、今は腹部を負傷しているため、その体力がない。

「君をこうしてぶん殴ってやりたかったんですよ」

 また殴られる。そして






 ヒーローっているだろ。あの人達って大抵



 蹴りか。






 3歩ほど後ろへ距離を伸ばし、そして。






 目が覚めるとカーテンに閉ざされたベッドに横たわっていた。

 右脚に違和感がある。起き上がろうとすると腹部に激痛が走った。

「まだ治りきってねぇのか」

 すると右脚の違和感が消えた。

「椿?」

 目に写ったのは目尻に涙をためた咲楽の姿だった。

「無事だったのか」

「あんたは無事じゃないでしょ」

「お前のために無茶したんだから、お前が無事ならどうだって良い」

 咲楽に手を伸ばし、頭の後ろに回す。

 すると咲楽が小声で。

「バカ...」

「聞こえてんぞ」






 警察の捜査により曖昧だった記憶がはっきりした。あのとき何があったのかも全部思い出した。



 黒野に刺され殴られ、満身創痍の俺は、最後の力を振り絞り、黒野に飛び蹴りをかました。黒野の手から振りほどかれた咲楽の体を抱きしめ...ここからの記憶はない。住宅街だったために、近隣住民の目撃情報、通報により、黒野は逮捕された。






 ケータイの電子音が1LDKの部屋に鳴り響く午前6:45。目を開けると、幼馴染である染井咲楽の胸が眼前にあった。

「それじゃ起き上がれないだろ」

「あぁ、ごめん」

 ぬ、っと巨大なそれが移動した。

「今何時かわかってる?」

「6:47」

「もう少し寝かせて」

「起きないと冷蔵庫にあった椿月のケーキ食べちゃうわよ」

「わーった起きる」

「早くご飯作ってよ、お腹空いた」

 と、咲楽に叩き起こされ、半ば強引に朝飯二人分を作らされた俺であった。








 毎日通った桜並木が、今日は一段と綺麗に見えた。桜の花弁一枚一枚に光が指し、幻想的な風景が広がっている。正門をくぐり抜け、体育館へと向かう。人口密度がパンパンとなっている体育館は、校長の挨拶と、パイプ椅子のギシギシという音で満たされていた。



 ステージ上の校長の口から、俺の名が告げられた。






 ボストンバッグの中には卒業証書が追加されただけなのだが、心なしか、ずっと重いような気がした。咲楽と合流し、校門をくぐる。さっき見たはずの光景なのだけれど、今は違う。



 蒼に少しの白を含んだ空、そして鮮やかに咲き誇る桜からこぼれ落ちた桜色に視界が染まり、そして滲んだ。咲楽の手を取り、あるきだす。俺たちはこれからどんな色に染まっていくのだろうか。その話はまた、四糸乃椿月のモラトリアムが終わったあとにでも、話すことにしよう。

椿月のモラトリアムというより、僕のモラトリアムですが。最近は諸事情あって、パソコンを叩く時間が少なく投稿頻度を下げてしまいました。まぁ、そんな早い方ではないですが、できるだけ早めたいと思います。






来月から本気だす

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