異世界トリップしたら人間じゃなかった。
とにかく女の子をいじめたかっただけの話です。
トリップということに、一体どんな想像をもちますか?
知識を持ってることによる俺スゲェ?不思議な力を与えられて最強?それとも女の子ならばイケメンとの熱い夜?
『人として』とのトリップだったならば、それも可能かもね。
《ここは…どこなんだ》
ある日、目が覚める…ゴミ捨て場っぽい場所で私は倒れていた。
ゴミのような人生を送って来たからついにゴミになってしまったのかとパニックになりつつ、ゆっくりと体を立ち上がらせ、建物の影に隠れながら町の様子を伺うと…
《なんだコレ?》
そこには中世ヨーロッパ風の建物が並んでいた。
しかも猫耳を生やした女性や、ライオンの顔をした男性とか爬虫類の二足歩行などといったとんでもない生物たちが闊歩していたのだ。
《コレ…なに》
もう一度疑問を提示した。
一通り考えて一つの結論を出す。
異世界トリップ。
確か姪っこがかなりハマッていたジャンルだと思う。
しかしながらあの物語は頭が軽くて判断力なんかないバカな高校生がトリップするものだ。私は現在31歳…そんな歳じゃない。
どうしたもんかと頭を抱えていると…。
「可愛い!!野良の人もどきか?」
急に後ろから抱き上がられた。
《ギャァア!!》
酷く驚いて抵抗するが全然ビクともしない。
「おやめくだされ、何か病気をもっておるかも…」
「小さいな~!こんな可愛い人もどきがいるなんてな~…」
そういって頬擦りされ…ってギャァァア!!犬ぅぅうう!!
コイツ犬だ!
シベリアンハスキーの顔に複数の傷跡、体は酷く作り上げられて筋肉がムキムキになって…気持ち悪!!私は犬が嫌いなんだ!!
「この人もどきは…髪は金ですが、顔立ちからして東洋でしょう。頭のテッペンが黒なので前の飼い主に無理矢理金色に染められたと思われます…」
「なんとも可哀想な話だ…よしよし、これからは俺が飼い主だからな~!ウリウリ~」
だから触るな!!つーかなんだよ人もどきって!!
《私は人だ!!人なんだ!!》
と…言った辺りで気づいた。
私…言葉を発音出来てない。
この男性の喋る言語はとても複雑な発音の為に発声することができない。音の字幕というか…理解は出来るのだが、発音出来ないのだ。
全くもって違うが、一番それっぽくいうなら英語は聞き取れても発音出来ないみたいな?いや、全くもって違うがそんな感じだ。
「ぁあ!!こんな小さな人もどきは初めてだ!小さくて可愛いな!!ウリウリ~」
《さわるな!ふれるな!》
必死でバタバタと足を動かし、手で奴の顔を引っ掻く。
「ッむ」
バボギュリ…。
私の腕が90度別の方向へと向いてしまった。
《ぎ、ぎゃぁぁああ!!》
「何をするんだアレック!!」
腕を抱えて私の骨を折った奴を睨み付けると、鳥の姿をした犬の従者らしき者が答えた。
「ギルド様、人もどきを甘やかしてはなりませぬ。彼等は知能が低いゆえに自身を人間と思い、付け上がりまする」
「それはそれで可愛いからいいだろ。この子は愛玩ペットであって食用でも軍用でもない。あ~可愛い」
痛い痛い臭い臭い犬なんか嫌いだ嫌いだ!!デカイ!こいつ5mあるぞふざけんな痛い痛いぁつくて腕がガキグジュゆって…
「っあ…ッヒュ」
世界が暗転した。
目が覚めたら元通りの日常に……なるわけもなかった。
《っう…ぐぅ》
目が覚めると一般的な女性が10人寝ても問題がなさそうな天井付きベッドの上にいた。
ふと、折れた右腕を見れば綺麗さっぱり骨が繋がっていた。
《どういうこと?》
私が疑問を持っていると、ベッドの向こうから声が聞こえた。
「ところで、この子は一体いくつなんだ?」
耳を澄ませると、先ほどの犬の声だ。
「そうですね……この体格にこの容姿だと……まだ3歳くらいでは?」
…は?いや、30歳ですけど?
「なに!?それではすぐに死んでしまうではないか!!」
犬は悲壮な声を上げて私に抱きつぎ…っていやぁぁあ!!
《触るな!!ふれるな!!お前なんか嫌いだボケェ!!》
「なんだ、起きていたのか。可愛いな~!あぁ、人もどきの寿命は5歳だから、すぐに死んでしまうなんて…」
《テメェに殺されそうになってんよ!!》
そう叫んでゲシゲシと犬野郎を本気で殴るが彼は気にも止めない。寧ろ『うりうり可愛いでちゅね~』と頭を撫でてくる。
「ん?ジャレているのか?うりうり、可愛い奴め!ちゅっちゅ!」
《ぎゃぁぁああ!何なんだコイツ!?なんなんだ!?キモい!私は犬が大嫌いなんだよ!!》
顔面に向かって強めの蹴りを入れるが犬は全然痛がらない…ってか、私が蹴っているのは顔面だぞ!?岩を殴って
ザシュ
《…へ?》
一瞬、何をされたのかが分からなかった。
しかしながら、先ほどまでそこにあった腕がなんか…変な所に飛ばされていることと…私の右腕がないこと。
なにより、後から出てきた熱によって…ようやく自分の状況が理解出来た。
私、腕を切られた。
《ぐぎゃぁぁああ!!》
叫び声をあげる。声量限界を超えて喉から血が出たが知るもんか。腕が痛い痛いなんか冷たくて熱いし、つーか腕がないし。
「アレックス!!何をするんだ!?可哀想じゃないか!」
「ギルド、人もどきは二足歩行をしてはいけないんですよ?まずは腕を切断することから…」
すっげぇ恐ろしいこと言い出してんぞ。
つーかテメェかよ鳥男!!焼鳥にすっぞ!!
「ったく、可愛いポチになんてことをするだ。コイツはこのままでもいいんだよ…あー可哀想に」
そういいながら犬は私の切断した腕を生やし…は?なんだコレ?
《は?あ?》
ポカーンとしていると、また犬はスリスリと頬擦りをした。
「大丈夫だからな~!可愛いポチ!傷は全部癒せるからな~!」
愛しそうにいう犬の言葉に私は犬嫌いも忘れてされるがままになる位には……酷くゾッとした。
《嘘だろ…おい》
人権がなく、しかも怪我をしても治せるので傷つけることに躊躇がない環境。
そう、私のこれからの人生の全てはこの気色の悪い犬男の愛情しだいということに酷くゾッとしたのだ。
《絶対に逃げてやる!》
私はすぐにそう誓った。
『セミの寿命は一週間』
因みにコレって本当は寿命を調べる為に監視されすぎたセミがストレスによって一週間で死ぬって意味らしいぞ。
「ウリウリ~!今日も可愛いな!可愛いな!愛するポチよ~」
頬擦りを受けながら多分、この世界の人もどきの寿命が短いのも同じ原理なのだろうと思った。
今日も私は必死で犬に蹴りを加えるが、犬は対して気にせずに私を抱き締めながらベロベロと舐める。死ね犬。
《イヤだぁ~!イヤ…クボォ》
ゴキキュリと、発泡スチロールが割れる音と共に脇腹が壊れた。描写を可愛らしく言うなら、助骨が折れて突き破って内蔵がパー!
《ッグ…ぁ…ぁ…カカ…》
「少し強く抱き締めすぎたな。すまない」
なんて笑いながら犬は私に治癒魔法をかけて壊れた脇腹を直しやがった。
《クソが!!》
私は今日、何度めか分からない暴言を吐いた。
まずは必死で本を読むことにした。
身ぶり手振りで本が欲しいと訴えてみる。
「君には分からないと思うが…」
と言いつつも犬は微笑みながら本の部屋を案内してくれた。
「それにしても本を読むなんて…ポチは人間みたいだな~」
《舐めるなバカ犬!》
なんて吠えても犬はニコニコと笑うだけだ。
「可愛いな~!」
あぁ…コレってアレだ。
猫とか犬が人間要のトイレを使ったり、人間ぶって行動してるのを微笑ましく見ている奴等と同じ視線なんだ。
《…ッチィ!》
諦めて本を読む。
幸いにも、発音が出来ないということだけで理解は出来るらしく本を読むこと自体に支障はなかった。
そして、読んでみて分かったがどうやらここでは、障害のある人のことを『人もどき』と呼ばれているらしい。
人もどき……
目が見えない、足がない、知能が足りない、魔力がない……それはこの世界では『人間』とは認められずに『人に近い動物』として扱われているのだ。早い話が障害児だ。
当然、私のこの体躯に魔力がなく…発音が出ないので知能を示すことも出来ず、しかも反抗してばかりなので知能障害まで患っていると判断されている。
《可笑しな世界…》
逆にここでは強さ、知能、魔力が『人』の定義であり……それさえあるならば、狼の顔をしていようが虎の体をしていようが『人』なのである。
この世界はある意味では究極の平等なのだ。
《薄気味が悪い……》
☆☆
俺の名前はギルド。
狼型系のウォルフ国出身であり、ここの王都で公爵をしている。
そんな俺の現在のマイブームは人もどきを可愛がることだ。
細かくいえば、俺は食用の人もどきしか興味がないし知能も力もない癖に生きようとする人もどきは嫌いだったのだが、とてつもなく可愛い人もどきを見つけたのだ。
さて、そんな可愛い俺の人もどきのを紹介しよう。
名前はポチ。街中でさ迷っていた、恐らくは捨てられた雌の人もどきである。
黒髪に黒目の少女で年は3歳くらいだろう。最近流行ってる悪趣味な毛染めをされたのか一部を金で染められてしまっている。
あまりの愛くるしさに一目惚れをして家に持って帰ったが…すこぶる反抗してくるのだ。
《ぐぎゃぁぁああ!!ぎーぎゃがきご!!》
そう吠えながら俺によく殴ったり蹴ったりする。力が全くないので寧ろ可愛くて仕方がないので別にいいが…少し寂しい。
「大丈夫だぞ…俺は優しい」
ちゃんと教えながらいうが…やはり知能の低い人もどきでは言葉が通じず、今日もポチは俺を蹴っている。
初めて出会った時のにしていた毛染めや変な服を着せられていたのを見ると、前の主人に虐待を受けていたのが分かるので俺のことも怖いのだろう。
《ぐぎゃぁぁああ!ガガ!!》
「ほら、暴れるな」
俺は優しく抱き締め、安心させる為にポチの顔を舐めてやる。…知能のないポチには理解できないのが悲しい。
それでもいつかはポチに伝わるだろう…いや、酷くバカだからな~…分からないかも。まぁ、可愛いからいいや。
あぁ、そうそう。そういえば最近ポチが本を読みたがるんだよ。多分、意味もなにも分からないんだろうけど人間っぽくて面白いんだ。
「可愛いな~ポチ」
もう何回も写真を撮っているが、可愛らしい人擬きが本を読む真似で遊ぶというのは本当に癒されるので全然飽きない。
飽きないが…少し寂しい。
「構えよ~ポチ~」
ほっぺたをつついてみるが、ポチは鬱陶しそうにするだけでかまってくれない。
はぁ、仕方がない。
「目を見えなくするか」
牙で目を抉って食べようかと思ったが、それをしてしまったら虐待になるので爪で軽く眼球に切れ込みを入れるだけにした。
《ウギャァア!ぐぎゃぁぁああ!》
大袈裟に痛がって転げているのを見て、そんなにかと首を傾げる。
「ん?なんでだ?ポチは耳も鼻も筋肉すら弱いだろ?今さら眼が見えなくなっても同じだろ。大丈夫、ちゃんと俺が世話をしてやる」
《ぎゃぎゃぎゃぎゃ》
「ん~?そんなに嫌か?」
知能のないポチには目が見えなくても大丈夫だということが分からないらしい。
それは可哀想なのでまた直してあげた。
《ゲチャゲチャトャチャ》
「うんうん、嬉しそうでいいな。けど、構ってくれないならまた目を使えなくするからな」
なんて諭せば、偶然にも次の日から少しだけ構ってくれるようになった。
本当に可愛い。
少しして、俺は人もどきと散歩することが日課になった。
外に出たいと窓をカリカリするポチの可愛さに負けてしまったのだ。
そして…それが悪かったのだろう。
「ポチは何処に行った?」
ポチが消えてしまった。
少し買い物をするために、リードを柱に取り付けていたのだが戻って来たときには居なかった。
仕方がないと、彼女の匂いを辿りながら俺は探した。
何とかして見つけたが…ポチは猿に誘拐されていたらしい。
取り合えず殺そうと思って猿に近づけば、猿は慌てたように手を振った。
「こ、この女が誘ってきたんだ!私を助けてって!!だから俺は…お、俺は助けようと…」
猿型がとてつもなくアホなことをいっている。
いくらなんでも人もどきが喋れるなんて嘘をつくか?ふざけんな。
そもそもポチが逃げようとする訳がないだろ。
アレだけ可愛がっているのだから。
「本当なんだ!コイツは人もどきなんかじゃねぇぞ!人もどきのフリをした人げ」
「黙れ」
バシュッと猿型の顔を潰してやった。
頭蓋骨は割れ、中身が出てしまっている。あーあ、俺の手が汚れたじゃないか。
なんて思ってると…。
《ッヒィ》
引きつるような悲鳴が聞こえた。
振り返れば、ポチがガタガタと震えながら俺を見ている。
《…ぁ…ぁぁ》
「……」
この様子を見てふと…俺は一つの結論を導きだした。
もしかして…本当はコイツ、知能があるんじゃないか?
一瞬、そんな考えが浮かんだ。
ならば、法律に伴って食用に回さなければならないが…さてどうしようかと思っていると…。
《く、くぅーん。くぅ~!》
ポチが酷く甘い声を出してすりよってきた。ん?天使か?
「ポチ…俺になついてくれるのか?」
《キュルルゥ~》
答えるようにポチはまたすりよってくる。
目をウルウルにし、可愛い声を出す様は…本当に可愛らしい。
「ぁあ!!なんて可愛いんだ!!ようやく俺の気持ちが通じたんだな!!」
可愛い!!なんて愛くるしいんだ!
折れてしまいそうな細い細い腕に手で握りつぶせる程に小さすぎる頭。こんなにも小さくて弱い存在が俺を求めている。
こんななついてくれる可愛い生物が逃亡なんて考える筈がないんだ。俺の管理不足が悪いからだったのだ、これからは気をつけよう。
「さあ、我が家に帰ろうか。いいね?」
《クゥン》
ポチはコクりと頭を下げ、甘い声で頷いた。
その日から、人もどきは俺になついて甘えてくる様になった。
本当に俺のペットは可愛い。
猿と会話出来たのは、種別が一緒だからです。あと、女は何回か逃亡しようとして足を切断されると思います。