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前編 現神の森で

 二人がジェイドタウンに来てから少し経ったある日。


 アヤメとミーミルは現神の森周辺をウロウロしていた。


 実は現神触と戦いのさ中、落とし物をしたのだ。

 それはコカワに貰った結線石であり、簡単にメイドに相談できる便利なモノであった。


 もう一度作って貰えばいいだけなのだが作るには、また帝都に帰らねばならない。

 さすがにそれだけの為に、また部隊を引き連れて戻る気にはならなかった。


「あった?」

「ないねぇ」


 ミーミルが答える。


「そっちは?」

「ありません」「ありませんね」


 トトラクとカナビスが答える。



 現神の森周辺は非常に危険である。

 ミーミルとアヤメならばどうとでもなるのだが、それでも最低限の護衛はつけておきたい。

 そんなオルデミアの言葉で、トトラクとカナビスが護衛についていた。

 

 誰が行くのか大分モメたが、結局はクロ隊の精鋭である二人になった。


 なおモメるのは当然である。

 何故なら剣皇と閃皇とダブルデートのようなものだからだ。

 少なくともトトラクとカナビスにとってはそうだった。


 まあ二人の興味がアヤメ一人に集中している点を考えると、ダブルデートではないかもしれない。


「アヤメ様、疲れていませんか?」


 さっきからずっと歩きっぱなしだ。

 子供の身体には負担だろう。

 そう思ったカナビスはアヤメの身体を気遣う。


「大丈夫!」


 アヤメはそう言ってニコっと笑みを浮かべた。


「あーかわいい」

「尊い」


 トトラクとカナビスは小声で呟いた。




 ――それから一時間が経った。


 結線石は相変わらず見つからない。

 いくらアヤメとミーミルが超越者でも、地面に落ちている物を探すのは、とても地道な作業にならざるを得なかった。

 物探しには、神すら倒す膂力も役に立たない。

 せいぜい移動速度が速くなる程度だ。

 だが急ぎすぎると見落とす可能性もある。

 こればかりは普通の人と同じくらい時間がかかってしまう。


「面倒くっさ」


 ミーミルは剣で雑草を刈り取りながら愚痴をこぼす。


「この草、魔人閃空断で吹っ飛ばした方がいいんじゃね?」

「それじゃ石も吹っ飛ぶでしょ」

「んーあー」

 

 ミーミルは草に八つ当たりし始めた。


「ちゃんと探してね。落としたのミーミルだから」

「現神触がいきなり殴って来たのが悪い。落としたの、あの吹っ飛んだ時のはずだしな」


 ミーミルはそう言うと、草むらのなかにぴょんと、飛び込んだ。


「チャージ……回転切り!」


 剣を構えて一回転。

 草が一気に刈り取られた。


「どうだ、ハートとルピーは出たか?」

「鶏にズタボロにされるといいよ」


 異世界ネタにトトラクとカナビスは首を傾げる事しかできなかった。


「いやー、よく考えたらツボはともかく、草切って何で金が出て来るんだろうな。ていうか矢とか爆弾も出て来るし、あの世界の草むらはどうなってんだ?」

「……雑草の処理手数料?」

「なるほど。アヤメ頭いいな!」

「草刈りしてお駄賃って流れ、いちいち描写してたら面倒だしね。あれだよ、民家の中にトイレが無いのは省略されてるだけで実際は……」


 そこまで言った何かに気づいたようにアヤメがぴたり、と足を止める。


「ん? どうした?」


 アヤメの様子にミーミルも足を止めた。

 もしかしたら、何か危険を察知しているのでは? と思ったミーミルは剣を構える。


 だが辺りに何も感じない。


 ミーミルの種族であるナウシュカ族は、アヤメより遥かに五感が優れている。

 その五感でも、周囲に何か危険を感じ取る事はできなかった。

 

「敵ですか?」

「ジェノサイド……ではないですよね?」


 ミーミルの様子にトトラクとカナビスも緊張を滲ませる。

 そもそも遭遇する事が少ないジェノサイドではあるが、一度ある事は二度、三度とある。

 


「ええと」


 アヤメは恥ずかしそうにしながら、二人に言った。


「お手洗い行きたいです」






「じゃああっちでしてくるから……」

「いってら」


 ミーミルにそう言い残しアヤメは近くにあった茂みに入る。

 アヤメの身長だと完全にすっぽり隠れてしまう。


「覗いたら駄目だからね」

「覗く意味あるか?」


 茂みから聞こえる声につっこむミーミル。

 ミーミルに幼女趣味は全く無かった。

 理想は完全に自分の身体に詰まっている。


 ミーミルはあくびをしながら、カナビスとトトラクに目をやる。


 カナビスは地面を掘っていた。

 トトラクは適当な枝を拾って、先端に布の切れ端を巻き付けている。


「それ、何してるの?」

「作ったフラグを立てる穴を掘っています」

「何の目印?」


 二人は無言になった。

 急に無言になるのは怖い。


「何の目印なの?」


 もう一度だけミーミルは聞いてみる。


「そうですね――神の恵みが残る地を記録しようと思いまして」

「ふーん?」


 現神触が出現した目印を残そうとしているのだろうか。

 確かにあんなモノと普通に人間が遭遇すれば命は無い。

 だがすでに現神触は滅んでいる。

 ここに目印をつける意味などあるのだろうか?


「目印が分かり辛くはないか?」

「いや、一時的なものだ。明日にも回収しに来る」

「土嚢が必要だな」

「土嚢なんかに入れられるか。ちゃんとしたケースに密閉管理する」

「そうだな。後はスコップを揃えよう。明日は忙しいぞ」


 何の話をしているのかミーミルはさっぱりだった。


 

「おーい、まだか?」


 ミーミルは茂みに話しかける。


「……もうちょい……もう蔦が邪魔で」

「蔦?」

 

 ミーミルの方からは蔦は見えなかった。

 茂みの中に蔦が生えているのだろうか。


「ちょっ……なにこれ……えっ……蔦が勝手に」

「?」


「き……き、きやあああああああ!!」


 アヤメの悲鳴が現神の森に響いた。


  



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