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額装少女  作者: Little Curly
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第4話 夏季休業中部活動

 美術部に来るのは八月に入ってからははじめてだ。

 次第に出席率が悪くなるのが見て取れる。


「……うーん」


 静物デッサンの成果を眺めて自然と唸っていた。

 やっぱり、俺って、上手くないな。十人並みだ。

 美術の授業でちょっと上手くても、美術部に放り込んだら凡人だ。


「はぁ……」


 元々、上手いから美術部に入ったわけじゃない。絵を描くのが好きだからだ。

 とくに今日みたいな静物デッサンは心が休まる。

 頭が空っぽになる。集中していられると、気持ちいい。


「あー、飽きた」


 不意に言って、画材を投げ出す。

 クラスメイトの伊藤春花だ。

 長くもないのに一つ結びにした髪はあちこちに後れ毛を垂らしている。


「デッサン退屈。やだ。文化祭の制作する」


「は? って、画板放り投げるなよ。一年が見てるぞっ」


「もうみんなとっくに呆れてるから平気だよ、部長君」


 そう言うと鼻歌交じりに準備室へ向かう。

 製作中の油絵を取りに行くらしい。


 伊藤は俺とは真逆のタイプで、向上心もあるし独創的な絵をかくいかにもな芸術肌をしている。

 勿論気分屋な性格も含めた皮肉だが、悪い奴ではないので嫌いではない。


「不真面目だな。真似しちゃだめだぞ」


「いや、真似したくないです……」


 一年生の列からどこからともなく声が上がる。


「ほら、伊藤。一年の人望を失ってるぞ。

 午後からは個人制作だろ。せめて午前中はやっとこうよ」


「デッサンつまんないんだもんー。あと、人望係は部長に任す」


 なんだ人望係って。


「そう言うなよ。基礎なんだから」


「って言ってもさー。絵なんだし自由に描けばいいじゃん。

 そっくりにするのは写真撮ればいいじゃん」


 一年生の列の数人が頷いた。飽きが来ているんだな。


「そっくりに描くの、楽しいじゃん。

 実物にどれだけ近づけるかって、それを手で描くから良いんじゃん」


「香村はマゾっ気があるな」


「ねえよ!」


 準備室から画布を抱えて出てくるなりこの一言だ。


「んー。いいじゃん。あとでやるもん。午後にやるっ」


 どうせ、午後も制作にあてるんだろうな。

 ほんとにマイペースな奴。


 でも、伊藤のデッサンって、実はちゃんとしてる。

 それでもあいつは写実画より抽象画のほうが好きらしい。


 俺は好きだけどな。デッサン。

 ものの形の、光と影を写し取る作業。

 ただ、ひたすら、形をとる。正確に。

 現実に似せて、どれだけ歪みなく、再現できるか。

 細かく完成度を上げていくのが楽しい。



 午後になって程なく、顧問の松尾先生がやって来た。


「おはよう。やってるか?」


「あ、先生。おはよー」


「おはようございます」


 一人だけ教室後方の作業スペースで画材を広げる生徒を見受け、先生は苦笑した。


「伊藤はデッサンは?」


「終わったー」


「ああ、そう。なら、まあいいか」


 伊藤のマイペースには先生も黙認している。

 伊藤はやっぱり午後もデッサンそっちのけだ。

 夏休み明けて一ヵ月後の文化祭に向けて全力投球のつもりらしい。


 何かと放り出して文化祭の制作をしたがるのも、彼女が去年からずっと百号のキャンバスに絵を描いているからだ。

 約一六〇センチ×一三〇センチのキャンバスは描いても描いても終わりがなさそうな、途方もない道のりに思える。


 思い切った挑戦だ。


 俺はまだ、文化祭の制作を決めていない。

 だから引き続きデッサンをしている。


 先生が一年を一通り指導して、二年の列へやって来る。


「香村、相変わらず丁寧だな。いいよ。その調子」


「ありがとうございます」


「んー。でも、あれだねえ。

 やっぱりなんか、単調だね。まあ、デッサンはそれで良いんだけど」


 無造作に放られてた伊藤のデッサンを見る。

 伊藤の絵は確かに、俺よりのびのびしてる。

 どこがそうかは分からないけど、なんとなく、活き活きと感じるのだ。


「まあ、再現度は香村のがいいね。伊藤の奴は、あんまり良く見て描いてないな」


 うーん。それって、つまり再現度以外は伊藤のほうがいいのかな。


「文化祭は、何描く? 伊藤みたいに抽象絵画やる?」


「いや、まだ、何も。でも、油でやります」


 油彩画の練習がしたかった。

 油絵の具は未織の肖像画のために、使い馴れておきたい画材だ。


「なるほど。いいかもね」


 先生が伊藤のほうへ向う。

 伊藤は作業用のシャツを絵の具まみれにして、大きな画布に抽象画を描いている。


 ダイナミックだなぁ。

 自己表現、って感じだ。


 先生も楽しそうに伊藤の絵を見ている。

 そうして改めてクロッキー帳に目を向けると、俺の絵って平凡だ。


 特徴もないし、個性も弱い。

 未織は本当に、俺の絵でいいのかな。


 今のままの技量で、描き上げたくないな。

 描いたら、別れなくちゃいけないんだ。


 どうせなら、出来る限りの良い絵を描きたい。


 ――その前に未織が考えを変えてくれるのが一番なんだけど。


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