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額装少女  作者: Little Curly
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15/18

第15話 願いごと


 せっかく冬休みに突入したのに、

 未織が親の実家に帰ってしまって退屈な年末だった。


 それもやっと終わる。

 それが、新年を迎えるよりもおめでたい。


*


 神社はぼちぼちの客入り。

 こんなに人が入ってるなんて、新鮮だ。

 未織、見つけられるかな……。

 あ、いた。


「未織」


「……あ。かなた」


 人ごみ、というほどでもない。人の群れの向こうに、振袖姿が見える。


「かなた、久しぶり。あけましておめでとう。今年もよろしくね」


「あけましておめでとう。こちらこそ、よろしく。

 髪アップにすると大人っぽいね。可愛い。なんか、ちょっと見ない間に痩せた?」


「……ワガママ言って、着せてもらっちゃった。似合うかな……?」


「似合う! すごい似合う。可愛いよ、未織。もっと色んな服、着せてみたくなる」


「そこまで言われると、なんか、恥ずかしい……」


「本当のこと言ってるだけだよ。可愛い」


「う……。言い過ぎです」


「まだ言い足りないけど。このへんで許してやろう、しかたない」


「なんか悪っぽい……」


「あー、俺も正装してくればよかったかなぁ。制服しかないけど詰襟だし」


「びっくりしたよ! でもなんか嬉しい。てか、うん、嬉しい」


「ほんと? よかった。わたしも嬉しい」


 久しぶりに会った嬉しさの勢いで喋りつくして、お互いに一息つく。

 そうしてじわじわと、未織と久しぶりに会えた喜びが体を熱くした。


「お参り、行く?」


「うん」


 どちらともなく、今年初めて手を繋ぐ。

 未織の手はちょっと冷たい。ずっと外に居たからかな。

 小さな歩幅に合わせて、のんびり歩く。


「年末は、お父さんの実家、だっけ? どうだった?」


「うん。おじいちゃんもおばあちゃんも、元気で安心した。

 のんびり過ごしてたよ。かなたは?」


「部活も終わっちゃってからは、家でぼんやり。

 未織がいないと、やる気でない。

 将棋盤の前で岩みたいに親父が固まってるからさ、丁度いいと思ってデッサンさせてもらってたんだけど、あんまり楽しくなかった」


「お父さんは、嬉しかったんじゃない?」


「いや、どうかな?」


「お母さんは、描かないの?」


「母さんは、俺が描くと文句ばっかりだから。あんまり描きたくない」


「文句?」


「このシワを消して顔を小さくしろ、とか。目を大きくしろ、髪の量を増やせとか」


「お母さんも、乙女なんだねえ」


「それはちょっと、解釈が好意的過ぎるような……」


 歩いているうちに本殿が見えてきた。

 出店もいくつか出ていて、夏祭りを思い出す。


「あ、行列してるんだ。すごい。人、いっぱいだね」


「ほんとだ。でも、長く待たなそうだね。

 やっぱり、人気の神社とかとは違うな。混み方まで地味っていうか」


「ゆっくりできて、丁度良いよ」


「ま、それもそうだね」


 待っているうちに順番が来た。

 お賽銭を投げて、鐘を鳴らす。

 二礼二拍手一礼……だっけ?

 横目で盗み見た感じだと、未織はそつなくこなしてるなぁ。

 真剣に目を閉じて、何をお願いしてるんだろう。


「……そろそろ、行く?」


「あ、ごめん。夢中になっちゃった」


 後ろに並んでいる人へ譲る。

 引き返す道には、もうほとんど行列はない。


「お参りをしたあとって、40分くらい、神社にいると良いんだって」


「そうなんだ。じゃあ、しばらくぶらぶらしようか」


 十分もあれば一回りできそうな、小さな神社だ。

 手を繋いでゆっくり歩く。


「……どんなお願いしたの?」


「うん。家族が元気でいられてありがとう、って。

 これからも元気でいられますように。

 かなたも、健康で、幸せになりますように、って」


「健康のことばっか?」


 なんだかおばあちゃんみたいな気遣いに笑ってしまう。未織らしいな。


「あと……、かなたが、絵を、完成させますように」


 ちょっとだけ、試すみたいな眼差しを感じた。

 もう、わかってる。

 未織の考えは、俺とは違う。

 未織は、俺を好きなことと、俺と別れることを、両立できるんだ。


「なんだか、無欲だね」


「そうかなぁ? 彼方は?」


「俺は、一個、わがままなやつ。

 未織といつまでもずーっと、一緒にいられますように」


「うん……」


 未織の気持ちがちょっと沈んだのが分かる。

 でも、試されたお返しだと、今だけはちょっと意地悪にそう思う。


「あ、おみくじ、引く?」


「うん」


 あえて反応を待たない。

 もう、分かったから。


 未織は俺のことを好きでいてくれる。

 だけど、約束は譲らない。


 なら、俺だって譲らない。

 もし一度別れたって、また、告白からやり直す。


 何度だって、そうしてやるんだ。





 ベンチで腰を落ち着けて、配られていた甘酒を手に一休みする。

 参拝客が、ちらちら未織を見てる気がした。

 振袖姿が綺麗だから、人目を引いてるのかも。


「……去年は、どんな一年だった?」


「うん、……幸せだった。かなたと、恋人になれた。

 楽しいこと、いっぱいだったよ。かなたは?」


「うん、俺も。あと、やっぱ、絵、上手くなったと思う。

 人生で一番いっぱい描いてたし。振り返ってみたら、楽しい一年だったな。

 今年も、そうなるといいな」


「うん……」


 未織は困ったように笑う。

 別れが近いことを、予感しているから。

 どんなにじっくり描いたって、もうすぐ、絵は描き終わる。


「ああ、でも、クリスマスだけは悔しかった。

 今年のクリスマスは一緒に過ごしたいな」


 だから、わざと、約束の上書きを試みる。


「それに、こたつで新年を迎えるのもいいな。

 一緒に、除夜の鐘も鳴らしに行こうよ。……約束」


「……うん」


 差し出す小指に触れる。


 最初に触れたときと同じ感触に、あの夏の日を思い出した。


 これは、きっと、果たされない約束だ。

 嘘になる約束だ。


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