お引越ししよう
結局俺が魔法を使えるようになったのは、もうすぐ2歳になろうという頃だった。
起きてる時間の大半を魔法にあてたのにこれくらいかかるのだから、本当に難易度が高い。
あの日、母の魔力によって魔法を感じられるようになった俺だが、その先が長かった。ちょっと魔力があるのがわかるなー程度では魔法を使うには程遠いかったのだ。
結局のところ、あの日の後も俺がやったのはひたすら自分の魔力を感じることだ。体のすみずみまで意識を張り巡らせ、魔力の流れを把握することに尽きる。
それでもいままで全く分からなかった魔力というものの存在を捉えることが出来たのは大きかった。やればやるほど分かるようになっていくのは楽しかった。
やっていくうちに分かったのは、魔法には2種類あるということだった。
この前本を読んだように、一つは火だとか水だとかいうのを出す魔力だろう。もう一つはそれを制御する力魔法と呼ばれるやつだろう。この二つは完全に別物の魔力といって差し支えが無いように思える。
似てはいるが、別物だ。すくなくとも俺にはそう感じられる。
この二つを完璧に区別しながら自分の魔力を把握するというのはなかなか難しかった。そして、感じた上である程度操作できなくてはならない。
流れる魔力をせき止めたり、逆に速く流したり。体から漏れ出た魔力を操作して、□や○の形にしてみたり。魔力の感知と操作はキホンのキ、というのは本の受け売りだ。とにかくこれができないと話にならない。
といってもこれもすっごく地味で難しい作業なんだけど。
結局、ひたすら精神統一といったような訓練はその後も半年以上続き、本格的に魔法に手を出したのはその後の事だ。
俺が最初に手を出したのは土魔法だ。なんでかっていうと危険が少ないのに加えて、応用が利くからだ。
初っ端から火なんて出してみろ。力魔法で制御ができず、床にでも火が落ちたら家が燃える。それは避けたかった。
土魔法なら、小石をつくるだけだ。力魔法はあまり関係ない。
なんというか、火や水や土といった属性魔法は、生み出したり、融合したりする魔法だ。何もないところに魔力で火や水や土を生み出す。
一方、その生み出された魔法を操作するのが力魔法。操作できなきゃ生み出された土は下に落ちるだけ。
力魔法が使えなきゃ意味がない。作り出した炎を操り、狙ったところに当てられるようにするのが力魔法ということだ。
ところで、力魔法は自分の魔力にしか干渉できない。落ちている小石をそのまま力魔法で飛ばしたりはできない。
とばしたいのであれば、まず魔力を小石に通し、干渉できるまで自分の魔力と小石を融合させてからとばさなくてはならない。
一から小石をつくるよりは簡単だが、それなりの段階は踏まなくてはならないのである。
さて、どうして土魔法にしたかの話の続きだけど、土魔法は応用が利く。
たとえば、土魔法で石の武器を作ったとしよう。それは自分の魔力で出来ているのだから、力魔法で操作することが出来る。つまり自分の魔法で作った武器を携帯しておけば、戦う際に「生み出す」という工程がなくなり、すぐさま魔法で攻撃できる。
そんな理由で、この世界では土魔法を使う人が一番多い。
ながくなったが、ここまでがこの世界の魔法というものだ。
さて、土魔法で小石を生み出すのに必要なのはイメージだ。
今まで散々やってきた訓練の通りに、まずは自分の魔力を意識する。次に指先に魔力を集める。その魔力を小石に変えるイメージ。小石の色や形、固さに加えて味なんかも意識する。小石を握ったときの感触は?小石の重さはどのくらいだ?とにかく詳細にイメージしつつ、指先の魔力に集中する。
すると・・・指先に想像していたよりもかなり小さいが、小石が生まれてきた。
砂の粒といってもいいくらいの小さな小石だが、出るには出た。この時の俺の喜び方といったら凄かったな。だって今までずっと地味な作業ばっかりで本当につらかったんだ。
これでようやく魔法っぽいことが出来ると、俺は浮かれた。
初めて小石を出せた後、1時間くらいで手の拳程度の石は生み出せるようになった。しかし、それを力魔法で操作するのは出来なかった。生み出した石を力魔法で窓の外にでも処分する予定だった俺は、すごく困った。
だって部屋の中には大量の小石が散乱していたからな。
部屋に戻ってきたアリスは俺の作った小石を見て、青ざめた顔をしていた。少し目を離したすきに部屋中に意思が散乱していたのだ、そりゃあ驚きもするだろう。ごめんね、母さん。
その後、母さんに色々聞かれたが、とりあえず「まほー」と言ってみた。
このくらいの子供ってどのくらいしゃべれるんだろうな?その頃は適当に単語だけちょいちょい話すくらいにしていたが不自然だっただろうか。本当ならこの頃には、滑舌はよくないにしても普通に会話できたが、やめておいた。初めて単語を話した時も、「早い!!」と大喜びしてたからな…とりあえず反応をみつつだましだまし子供を演じるしかない。
それにしても、部屋の惨状を見た時のしかめっ面はすごかったな。次からは気を付けようと思った。
次の日から、まず小さな石を一つ作り、それを操作する練習をひたすらした。
これは、イメージというよりは、今までの魔力操作の延長だった。力の魔力を石に伝える感じ。今まで魔力を○とか□の形に変える練習とかをしていたが、こんどは糸の形にして小石と繋げてみる。石とつながった魔力を上にあげると、そのまま石まで上に上がった。
魔力を感じることが出来ない人間には、いきなり意思が浮いたように見えるだろう
最初はとにかくこの作業を効率的に行えるように頑張るのみだった。できるだけ素早く、できるだけ正確に。
これがスラスラできるようになったら、浮かせるだけでなく左右に動かしたりゆっくり回転させたりしていった。
そして小石を目標に向かって魔力でとばせるようになったのが、2歳になる直前だった。
これが初級魔法のストーンショットという奴だ。
ショットと言っても俺のはまだ小学低学年が投げるくらいの威力しかないが。それでも嬉しかった。
威力が低かろうとも、初級魔法と呼ばれる魔法を使えるようになったのだ。
これで今日から魔法使いの一員だ俺は!!その日は興奮してよく寝れなかった。
その数日後、突然俺たちは広い家から出て、街から馬車で1時間程度の小さな村に引っ越した。馬ならもう少し速いだろう。
最初は何事かと思った。そこそこにぎやかな街から急に小さな村に引っ越すわけだから、それ相応の理由があるに違いないと思ったが特に理由は分からなかった。
アリスとロバートの会話から、屋敷は売り払うわけでもないこともわかったし、ますますわからない。
子供を自然の中で育てたいとか、そういうことだろうか。
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その光景を見た時、私は信じられなかった。
部屋の中に散らばる大量の石ころ。外から持ってきたものではないだろう。
アルが・・・
おそらくアルが魔法で作ったものだ。ついに魔法を使えるようになってしまった。もう少し先だろうとロバートは言っていたのだが…
「これは、アルがやったの?どこから持ってきたの?」
興奮した私は思わずアルに尋ねると、「まほー」という答えが返ってきた。
私は頭を抱えた。
アルは成長が早い方だ。話すのは単語くらいだが、こちらの質問の意図をちゃんと理解している。
アルはおそらく、理解して魔法を使っている。
どうしよう…ロバートに相談しないと…
「とりあえず、アルは街から出そう。とりあえず近場の村でもいいからまずは引っ越そう。」
私の話を聞いたロバートはこう言った。
前々から話していたことではあったので、素直に受け入れることができた。
これから成長するにつれて、外に出る機会も多くなる。家にいてばかりよりも、外に連れ出してあげるのも大事だ。そんな中でいきなり小さな子供が魔法なんて使ったらあまりにも目立ちすぎる。
小さいころから目を付けられて、軍に勧誘なんてされたら嫌だ。
あくまで、息子の生き方は息子に決めさせてあげたい。息子が戦いの道を選ぶならそれでもいい。だけど、周りから軍に行くのが当然だというような期待に晒したくない。そんな中にいたら、きっとその道に進まざるを得ないだろう。そんなのは、自由とは言えない。そんなのは、選んだとは言えない。
とりあえず、もうすこし目立たないところへ行くしかない。