魔法を感じてみよう
つかまり立ちを覚えた俺はまず真っ先にあの魔術の本を読み始めた。
この世界には、魔力と闘気というものがあるらしい。
魔力は言ってみれば魔法のもとだ。
魔力を利用して様々な魔法を起こす。
魔法には 火・水・土・風・雷・氷の6種類と、それらを操作する『力魔法』というのがある。
例えば土魔法で巨大な石を作ったとしよう。それを相手に向かって飛ばすのが力魔法だ。
他にも雷魔法を使うとき、その雷の進む方向にある程度の指向性を持たせるのもこの力魔法だ。
力魔法が上手く使えないと雷を作り出した瞬間に自分が感電する。
この力魔法は魔法を使う上で最も重要なものになるかもしれない。
といっても、この力魔法は、魔法の制御 としての意味合いが強い。
本によっては力魔法という言葉は全く出てこず、魔力操作という言葉を使ったりもする。
つまり基本はやはり火・水・土・風・雷・氷の6種類と考えていいだろう。
ちなみに闘気ついてはそれほど難しいことはない。体の動きや強度を向上させるのが闘気だ。
これらは難しい操作はあまり必要なく、体を鍛えたり経験を積むことで勝手に身についてくるものなのだそう。
さて前置きはこれくらいにして、本を見ながらさっそく魔法の訓練を始めてみよう。
まずは・・・メ○みたいな小さい炎やヒャ○みたいな氷を出す練習…とはならない。
魔法の基本は魔力を扱う事らしい。
だけど扱うといっても魔力なんてどうやったって扱えばいいんだ?
そもそも言葉ではわかっても魔力そのものが理解不能だ。
そう。魔法の第一ステップは魔力を感じられるようになること。
言葉ではなく、体で魔力を覚えることだ。
本によると、魔力は体の中を循環している。
体の中を駆け巡る魔力を感じ、その魔力を外に出し、コントロールしなくては魔法は使えない。
魔力を感じることが出来なければなにもできないのだ。
訓練の基本は自らの身体に集中して、魔力の流れを掴むことだ。
その根幹は瞑想にあった。
頭から雑念を取り払い、ひたすら己に意識を向ける。
この作業を延々続けるという地味な作業が魔法の近道だという。
といっても、この作業をしたからと言って皆が魔法を使えるようになるわけではない。
使えないものはどんなに頑張っても、一生使えない。
魔法は入口の壁がとてつもなく高い分野らしい。
体の中を循環というと、真っ先に思い浮かぶのは血だよな。
ただ、この血を流れを意識して感じることができるか、というとそれはかなり難しいことに思える。
しかも魔力は血と違って質量もなければ体積もないのだ。
入門編からかなりの難易度だが、とにかくやってみるしかない。
わざわざ異世界から来たんだ。
魔法の一つくらい使いたいし、使えるようになると信じたい。
なんたって俺は勇者を導く存在になるわけだからな。
だがこれがいつまでたっても成果が出ない。
難しいとか以前の問題ではないだろうか。魔力なんて完全に未知のものである。
今まで感じることが出来なかった何かを、いきなり感じることなんて出来るのか。
そもそも俺は魔法に適性はあるのだろうか。
これっぽっちの才能もないのではなかろうか。
2週間ひたすら取組み、弱音も出始めたころ、その瞬間は訪れた。
いつものように身体に意識を向けていると、部屋に入ってきた母さんが近くにきて、俺を抱き上げようとした。
その時だ。母さんが俺に触れようとしたその時。
死ぬ。
そう思った。
実の母から放たれる見えない圧力に押しつぶされそうになった。
体の小さな赤ん坊の体なんてペシャンコになりそうだった。
いままで感じたことのなかった大きな何かが母さんの中を渦巻いている。
ヤ バ い。
直感でこの人はヤバいと思った。
赤ちゃんらしく俺はおしっこを漏らした。
俺が初めて感じた魔力は、自分のものではなく母親のものであった。
どうやら俺の母親はとんでもない魔力をもっているらしい。
比較対象がないので何とも言えないが、生存本能が警鐘を鳴らすくらいだ。相当のものだろう。
訓練によって魔力に対して少しずつ敏感になってきていたところに巨大な魔力を持つ母が現れ、一気に知覚できるようになったというところだろうか。
母の魔力を感じた以後、自分の魔力もわかるようになった。
とりあえず夢の魔法に一歩進んだみたいだ。