転生してみよう。
気が付くと、俺は何もない真っ白な部屋に立っていた。
「気が付きましたか?」
という後方からの声に振り返ると、見たこともない美人がそこにいた。
金色に輝く髪と目を持ち、真っ白な衣に身を包むその姿には神々しさすら感じる。
なんというか、綺麗すぎる。
絵画みたいな、非現実な美しさだ。
言葉を発せないまま見つめていると、彼女は言う。
「突然ですが、あなたに伝えなくてはいけないことがあります。残念ですが…あなたは死にました。」
そこで俺はさっきまでの事を思い出す。
あぁ、あれは夢じゃなかったのか。
自分の死が信じられないと思う一方で、何故だか死んだことを受け入れている自分がいた。
「ここは死後の世界というやつなんですか?」
自然と出た疑問だ。
死ぬときには三途の川が見えると言うが、ここはあまりにも殺風景だ。
「いいえ。説明は難しいのですが、生と死の境にある場所、といったところです。
なるほど、わからん。
いぶかしげに見る俺に彼女は説明を続ける。
「自己紹介がまだでしたね。私の名前はアルディナ。もうひとつの世界、あなたから見れば異世界、ということになる世界で女神をやっているものです。」
女神という響きには胡散臭い者を感じるが、不思議と納得がいった。
神と名乗るに相応しい威厳が、近寄りがたさが彼女にはある。
「単刀直入に言います。新しい命が欲しくはありませんか。新しい世界で生きてみませんか。」
その言葉を聞いた瞬間、俺の心が高鳴った。
誰もが一度は夢見ることだろう。異世界に転生。
子供の頃はよく布団でいろいろな世界を思い描いたものだ。
「そ、その新しい世界とはいったいどんな世界なんでしょう?」
「あなたの世界とは真逆の方向に発展した世界です。化学ではなく魔法が発展した国です。」
おう・・・マジか。
もしかしたらとは思ったけど、まさか本当にファンタジー世界につれてってくれるとは…
「ただ、転生にあたって一つ条件というか、あなたにやってほしいことがあるのです。それは…」
少しの間を開けて彼女は言う。
「勇者を育て、彼とともに、世界を救ってください。」
俺は耳を疑った。
この女神様は、イジメから自分1人救えなかったニートに向かって世界を救えと言うのだ。
その後の話を簡単にまとめるとこうだ。
その異世界には数百年に一度魔王が現れる。
魔王が現れると、その対抗として勇者が現れ、魔王と闘う運命にある。
今までは毎回、勇者側が勝利してきたらしいが次の戦いはこのままでは勝てないそうだ。
魔王が歴代最強であるのに加えて、勇者があまり強くないようだ。
そこで違う世界から助っ人を頼み、魔王に勝てるように勇者を育てて欲しい。
そして共に戦ってほしい。
そういうことである。
なんというか、信じられない話ではあるが、とりあえずの疑問として
「どうして俺なんですか?」
「転生には二つ条件があってですね、一つは転生に耐えうる魂であること。二つ目は魔力に適合する精神を持っていることです。この条件が正直なところ…かなり厳しくて、今のところ貴方しかいません。ですから、この話、貴方には是非うけてほしいのですが…」
少し申し訳なさそうな顔で彼女は言う。そりゃそうだ。
転生した先に待ってるのは魔王との殺し合いなのだ。
ただ俺は迷わなかった。それはそうだ。
戦いは怖いが、転生しなくてはこのまま死ぬだけなんだから。
「いいですよ。倒せるかはわかりませんが、出来る限り努力はします。」
こうして俺の転生は始まった。