山にて・・・
「村の娘たちが、オーク共に攫われたのは、この辺です。
草の倒れ具合や、木の枝の折れ具合から、
あちら方向へ向かったと思われます。」
確かに、俺の気配察知にも、
村人が示した方向へ、3キロほど先に複数の生命反応がある。
「分かった。
後は俺一人で行くから、アンタは村に帰っていてくれ。」
「私も、連れて行ってはいただけませんか?
攫われた娘の中に、私の娘も居るのです。」
「気持ちは良く分かるが、オークたちの正確な数が分からない以上、
余計なリスクは減らしておいたほうが良いんだ、
アンタが捕まって、盾にでもされたら、お手上げだからな。」
「・・・分かりました。
娘たちを、よろしく、お願いします。」
「おお!任せておけ!」
俺は村人と別れると、風兎の靴に魔力を纏って、
木々の間を、オークどもの巣と思われる方向へと、
風のように走り抜けた。
暫く走ると、それらしい物が見え始めたので、
少し手前で止まって様子を窺うことにする。
オークは身長が2メートルほどの、2足歩行のブタで、
腰にボロボロの布を巻きつけて、棍棒を掴んで歩いている。
丸太を組んだ上に、枝葉の屋根を乗せただけの、
簡単な作りの家らしき物が並んだ奥に、
一軒だけ、丸太を組み合わせた壁と屋根付きの、
小屋が建っている。
おそらく、あそこに、この群れのリーダーが居るんだろう。
オークどもは、見える範囲で32匹居て、
村の若者たちは、15人程居て木の蔓で縛られて、
転がされている。
娘たちは5人居て、
全員、リーダーの小屋の中に居るようなので、
まず、リーダーが味見してから部下に与えられるのだろう。
胸糞悪いことに、
オーク共は暇つぶしに、
若者たちを、石を投げて中てるゲームの的にしたり、
棍棒で手や足を潰して、痛がる若者たちを見て楽しんでいる。
「全員、死刑で決定だな。」
俺は、風兎の靴と、ミスリルソードに魔力を纏って走り始めた。
棍棒で人間の手を潰して楽しんでいたオークは、
もう片方の手も潰してやろうと棍棒を振り下ろした、
しかし、人間が悲鳴を上げないことに気付いて、
人間を見ると、潰したはずの手が何ともない状態でおり、
少し先に、棍棒を握った腕が転がっているのが目に入った。
見覚えがある腕に、恐る恐る自分の腕を見ると、
激痛とともに、切り口から血が噴き出した。
「ブキ~~~ッ!!」
ライはミスリルソードを鞘に納めると、
痛みに叫ぶオークの懐に入り込んで、
魔力を纏った拳で頭を吹き飛ばした。
ライに気付いたオークどもが、
棍棒を持って向かってきたが、
風兎の靴で高速移動しているライは、
つぎつぎと、オークの頭を粉砕していく、
ライのスピードに付いていけないオークには、
ライが瞬間移動しているように見えたであろう。
一方的な戦闘が終わった後には、
頭の無いオークの死体が転がっているだけだった。
これだけの騒ぎなのに、
オークのリーダーが出て来ないのには理由がある、
ライが、あらかじめリーダーの小屋の周りに、
風魔法を使ってシールドを張っておいたからだ、
かなりの戦闘音だったが、
小屋の中には届いていないのである。
「娘たちを助けてくるから、もう少し我慢してくれ。」
若者たちの拘束を解きながら話かけた、
若者の中には、かなりの怪我を負っている者もいたが、
娘たちの救出を優先させてもらった。
魔力で気配を消して、ソッと小屋の扉を開けて入ると、
他のオークよりも一回り大きなオークが、
少女の覆いかぶさって、盛んに腰を動かしていた、
少女は正気を保っていられなかった様で、
虚ろな視線は何処を見ているか分からず、
開いたままの口から涎が流れている。
他の娘たちは、縛られて小屋の隅に座らされて震えていた。
俺は、助けが間に合わなかったことを、
心の中で娘に詫びながら、
静かに近づいて、オークリーダーの首を掴んで持ち上げた。
「ブヒッ!?」
掴んだ首がミシミシと音を発てている、
俺は、小屋の壁に向かってリーダーを投げつけると、
ドカンと大きな音を発てて小屋がグラグラと揺れた。
俺は、座ったような体勢で壁際に、へたり込んでいる、
リーダーの股間に、だらしなく垂れ下がっているモノに、
雷球を叩き込んで粉砕した。
「ブキ~~~ッ!!」
リーダーは痛みで、狂ったように転げ回っていたが、
足に魔力を纏った俺にヤクザキックをかまされると、
壁を突き破って、10メートルほど先の立木に、
ぶち当たって止まった。
ピクピク痙攣しているから死んではいないはずだ、
ヤツには、まだ仕事が残っているから、
ここで死んでもらっては困る。