旅にて・・・
「それで、ルクアさま、
ラメール国には、また龍籠で行くの?」
「いいえ、リーナさん、
今回は緊急を要する案件ではないので、馬車で陸路を行きます。」
「陸路というと、
フェルナリア皇国を横断して行かなければなりませんわね。」
「フローラは、何か嫌そうだな。」
「ええ、あまり好きな国ではありませんわ、
世界を旅していた時に、何度か訪れた事があるのですが、
あの国の人族は、亜人を軽んじているので気持ちよくありませんわ。」
「へえ、まだ、そんな国があるんだ。」
「ええ、300年前の勇者イチローの教えがあるので、
表立った差別はありませんが、
フェルナリア皇国の人族の殆どが信者である聖教会の教えは、
人族は神に似せて作られたから、他の種族は従うべきだというものですから。」
「それは、気に食わない教えね。」
「そうだな。」
「ラメール国まで馬車で行くと、どの位掛かるんだ?」
「そうですわね・・・
アルビナ王国から出るまで2週間、
フェルナリア皇国を横断するのに1か月、
ラメール国に入ってから1週間というところですわ。」
「約2か月も掛かるのか、結構な大旅行だな。」
「アタイも、こんな長い旅行は初めてだな。」
「それで、ルクアさま、出発はいつ頃になるんですか?」
「私は、みなさんの準備が整い次第、いつでも良いですよ。」
「では、旅の準備をするから、3日後の朝で良いかな?」
「うん、アタイは良いよ。」
「私も、それで良いですわ。」
「では、ルクアさま3日後の朝で、お願いします。」
「ええ、分かりました。」
それから俺たちは、旅に必要な物を道具屋で購入したり、
保存食や、宿の主人に色々な料理を大量に作って貰い、
アイテムボックスに詰め込んだり、
ルクアさまと相談して馬車の手配などをして行った。
3日後の朝、4人は馬車に乗り込んでタナーカの街を後にした。
今回も、ライは御者と一緒に馬車の御者台へ座っている、
女性陣は馬車の中だが、フローラとリーナは時々、
ライと交代する手筈となっている。
御者を務めるのは、
タナーカの街に暮らすヨシェアという22歳の若者で、
『馬の骨亭』の主人に紹介して貰ったので、確かな人物だろう。
特別な出来事もなく10日程過ぎた頃に、
ちょっとした問題が起きた。
その日も、ライが御者台に座っていたのだが、
ある程度、慣れてきたヨシェアと会話していた時の事だ。
「この道は、結構、馬車が多いんだな。」
「そうですね、フェルナリア皇国へのメイン道路ですから、
利用する馬車も必然的に多くなってしまいます。」
「そうなのか・・・
うん?先の方で馬車が繋がって止まってるみたいだぞ。」
「そうですね、何か問題でも起きたのかな?」
馬車が停まったので、リーナが顔を出した。
「馬車が停まったみたいだけど、どうしたの?」
「この道の先の方で、何かあったみたいだから、
俺が、ひとっ走り行って見て来るから、
その間、馬車の方は頼むぞ。」
「アイヨ、任せて!」
俺は風兎の靴に魔力を纏って走り始める、
繋がった馬車から外に出て、前方を見てる人たちも、
ライの余りの速さに目を丸くしている、
300メートル程走ると、野菜を積んだ荷車が横倒しになってるのが、
見えて来た。
運の悪い事に、荷車の後に続いている馬車は貴族が利用する高級なもので、
馬車の警護に付いているらしい騎馬兵が、
おろおろしている荷車の持ち主らしい老人を怒鳴っている。
「さっさと、その野菜と馬車を退かさんか!
こちらの馬車に乗られている方を、
アルビナ王国の鉄壁と讃えられるブユーデン伯爵様と知っての狼藉か!」
「後ろから来る馬車に、誰が乗ってるかなんて分かるかっての。」
ライは、狼狽えている老人を見かねて、
騎馬兵に、わざと聞こえる大きさの声で言った。
「今の言葉を申したのは、お前か!」
案の定、騎馬兵は矛先をライに向けてきた。
「ああ、俺だよ、そんな風に怒鳴ってるよりも、
荷車を起こすのを手伝ってやった方が、早く通れると思うんだけど。」
「冒険者風情が余計な口をだすな!
何故に我々が、そのような事を手伝わねばならぬのだ。」
「こんな、じいちゃんだけで起こせる訳ないだろ。」
「それ程言うなら、お前が手伝えば良いだろう。」
騎馬兵たちはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
「それもそうだな。」
ライは、横転している荷車に近づくと、
「よいしょ。」と言って起こした。
「何!あの荷車を一人で起こすとは、どんな膂力をして居るのだ!
お前は一体、何者だ?」
「俺は、見ての通り、ただの冒険者さ。」
ライは、荷車から落ちた野菜を、老人と荷車に戻しながら言った。
「まだ、動かんのか?」
その時、ブユーデン伯爵とやらが馬車から顔を出した。
「はい、伯爵さま、この者たちが進路を妨害しておりまして、
今暫く、お待ち下さい。」
「何言ってんだ、
あんたらが手伝えば、もっと早く片付いただろ、
貴族っていうのは、困ってる国民が居たら助けるもんだと思うけどな。」
「その方!伯爵さまに失礼であろうが!」
「俺は、当たり前な事を言っただけだがな。」




