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そんな気がした

作者: ありか

離れないで、と僕は言った。

いったい何に対して、誰に対してはなった言葉なのかは分からない。

分からない、という言葉には語弊がある。

知っているのに、知っていないことにしているだけなのだ。

都合のよい生き方をしてきた僕にとって、都合の悪いことなど1つもない。

そう、君が離れていくという事実さえも、きっと虚偽を含んでいるとどこかで勘違いしているのかもしれない。

君は、ずっとそばにいてくれる。

そんな他愛のない嘘を僕は信じることができる。

それば、僕が僕であるから。


きっと僕は自分を特別な存在だと思っている。

それは僕が唯我論を信仰しているからだけではないのかもしれない。

それは自と他の相違に気付いた幼子のように。

それは何かを悟ってしまった思春期の心の揺れのように。

思春期、と僕はその魅惑の響きを反芻した。

思春期と呼ばれるものは僕にいくつもの変化をもたらした。

心の揺れは電流計の針の振れのように顕著ではない。

しかし、揺れていることをにわかに察することは出来る。

その揺れが僕を散々苦しめてきたものだから厄介なのだ。

思春期、僕はまた呟く。

きっと人を好きになることが思春期の変化の1つなのだろう。

世界に新しい色を見つけることができる時期。

それが「未熟」であることを当時の僕は知らない。

そして今の僕を見た未来の僕が「未熟者」だと罵ることも今の僕は知らない。


僕は特別な存在である。

それは、僕を殺すことが出来るからである。

何を偉そうに、と言われてしまうかもしれない。

でも、意外と世界はシンプルなのである。

僕は僕が嫌いだ。

僕が僕のことを好きなのであれば、そもそもこんな文章を綴ってはいない。

僕の好きな僕は、もっと幸せなはずなのだ。

幸せ、と引っかかった言葉に振り替える。

「幸せってなんですか」

確か、僕にこんなことを聞いてきた女の子がいた。

僕はきっと、曖昧な答えを示した。

今でも僕はそれが世界の真理だと思い込んでいる。

中学生の僕が、人並みにも「幸せ」を定義した気でいる。

それでいい。

それがきっと幸せなのだから。

そして定義された幸せから今の僕はかけ離れている。

だから僕は僕が嫌いだ。

それゆえに、僕は特別なのである。

僕だけが信じている幸せを、求めたがる僕という存在がおかしいのだ。


離れないで、と僕は言葉を闇に放り投げる。

もう、1人にしないで。

それは避けられない事実。

不幸せなしに、幸せは存在できない。

幸せなんて、結局は比較でしかない。

そう考えてしまうと、僕は幸せに依存して生きていくことがばからしく思える。

僕の中だけで、幸せと不幸せがうずまいている。

それに一喜一憂することはきっと、時間の無駄だ。

世界はシンプルだ、僕はこの言葉が好きだ。

その理由は至ってシンプルである。

だって、世界はシンプルだから。

だから迷ったときは、きっとシンプルな正解がそばにある。


離れないで、と僕はもがく。

「離れないよ」と君は言う。

そんな気がした。


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