表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【もしかして】逆ハ―なんてチョロいと思ってたら、なんか変なのがいた話【調教フラグ】

作者: カホク


夏目総一郎という人は平凡ながらも優しく、いつも冷静で、砂漠でみつけたオアシスのような人だ。


昔からなにかとその整った容貌でトラブルに巻き込まれる萩原健史にとっては、特にそう感じられて、出会ったその日からこの方、もう心酔しているといってもいい入れ込みようだった。環境が環境だったというのもあるかもしれない。


なんといっても、萩原が入学した学校は、美形が多くそのうえ金持ちが多いという、イマドキなにそれ?ギャルゲ―なの、乙ゲ―なの?的な学園で、さらにいうと美形は何でも許されるような風潮があった。萩原としても最初は悪い気がしなかったのだが、度がすぎると正直気持ちが悪い。なんせちょっと廊下を歩いただけで、きゃーきゃー言われるのだ。昔堅気の祖父と優しく厳しい祖母に育てられた萩原にとって、それは異様だった。所詮顔など皮一枚である。高校生の分際で、惚れた腫れたはともかく、寝とった寝とられた、果てはファンクラブがどーの、制裁がどーの、と聞くとげんなりする。


その点、夏目はいかにも恋愛に興味ありませんといった感じで(いや、真意は聞いたことはないのだけれど)萩原はほっと息をつく思いだったのだ。ここにいれば大丈夫。自分は救われる。

夏目の微笑にはそんな力がこもっているように感じられた。勝手な思い込みだとわかっていても。


そんな彼らの前にある日、転校生が現れた。転校生は学園の人気者をあっという間にメロメロにし、学園中の注目の的となった。


いい意味でも、悪い意味でも人気者。

萩原も人並みの野次馬根性はもっていたから、当然転校生のことは気になった。おっとりと弁当を広げようとする夏目の手をひいて、わざわざ食堂にくるぐらいには気になった。後から考えれば、どうしてそんなことをしたのだ自分、と頭をかかえるはめになったのだが。


最初にまずいことになった、と思ったのは転校生と目があった時だ。

腰まで届く黒髪を、流している彼女の後姿は確かに美しかった。ころころと表情をかえる大きな目も魅力的だ。小さな背丈も庇護欲をそそるだろう。鈴の音を鳴らすような声は、いつまでも聞いていたいと思わせる。……だが、アレは駄目だ。あの女の目は、ハンターである。愛の狩人である。


ぶるりと悪寒を感じて獲物の気分を味わった萩原が、慌てて踵をかえそうとすると、何故か進行方向に転校生がいた。

なんてことだ!ついさっきまで生徒会の人気者達といちゃいちゃしてたではないか!?


「きゃっ!すいません、ぼんやりしてて。お怪我はありませんか?え、私?私は大丈夫です、ありがとうございます。先輩って優しいんですね。私、一年A組の神川姫乃っていいます。先輩のお名前は伺っていいですか?あ、よかったら一緒にご飯たべましょう!」


ザ・マシンガントーク。


まるでノベルゲームを早送りしたような話術にも驚いたが、見た目からは想像もつかない押しの強さにも驚いた。

驚きのあまりそのままつい名前を答えてしまった。

ヤバい、と思ってももう遅い。食堂中の生徒の視線が集まる中、にこにこ笑顔で押しに押されあっという間に萩原と転校生は「友達」になってしまった。



なぜ、こんなことに。



野次馬根性をだしたことがそんなに罪だったのだろうか。モブになりたいならモブらしく隅っこ生活に甘んじてろということだろうか。

がっくりとうつむいた萩原の視線の先に、ふと芋の煮っ転がしをつつく夏目の姿が目に入った。


そういえば転校生ショックでうっかり忘れていたが、ここには夏目も連れてきてしまったのだった。

せめて夏目だけでも、と必死で萩原は目で訴えた。



お前だけでも逃げてくれ、俺は俺でなんとかするから、っと。



萩原の熱視線(ある意味)に気付いたのか、それとも単に煮っ転がしを食べ終えただけか、夏目は顔をあげるときょとんとした顔をした後ほほ笑んだ。


「どうしたの、萩原?もうおなかいっぱい?」

「え…っと、あなたは?」


萩原の奮闘むなしく夏目の一言で、転校生に存在を気付かせてしまった。

もはや灰になるばかりの風情を匂わせる萩原のよこで、二人の会話は何故か盛り上がる。


「僕は最初からいたよ。それで君は?」

「私は神川姫乃っていいます。先月一年A組に転入してきたの。貴方は?先輩とは仲いいの?先輩と一緒にいたとこみたことないけど、クラスメート?」

「僕は夏目だよ。よろしくね、姫乃ちゃん」

「うふふ、ごめんなさい、夏目君。私の名前はお友達にしか呼ばせないって決めてるから。それで私の質問に答えてくれる?先輩との仲は?いいの?悪いの?てゆーか、今先輩は私とご飯食べてるから遠慮してくれないかなぁ。えへへ、ごめんね?」

「うん、わかったよ。こちらこそ馴れ馴れしく悪かったね。じゃぁこれから君のこと雌豚って呼ばせてもらうね!」

「うん!わかったなら――・・・え?」


うっかり流しかけた一言に、ぴたっと転校生のマシンガントークがとまった。かろうじて生きていた萩原も空耳?と首をかしげた。弁当をつつみおえた夏目はいつもと同じく穏やかな微笑を浮かべている――気がする。目がわらってないのは気のせいだと思いたい。


「萩原と僕は友達で同学年だよ。あ、なんなら僕のことも敬意をこめて先輩って呼んでもいいよ?」


もしくは、夏目様とか、総一郎様とかでも許してあげる、と穏やかな微笑のまま夏目が付け加える。


様ってナニ?とまたもや転校生が首をかしげた。生徒会がいうならわかる。他のファンクラブがいるような美形でも。でもこの目の前にいる平凡な少年はそのようなことをいうのだろうか?


席をたった夏目は晴れやかに満面の笑みを浮かべた。何故か底知れぬモノを感じさせる笑顔に、転校生がびくりと震えて距離を取る。

そのような笑顔も浮かべられたのか、と現実逃避を始めた意識の中で萩原は思った。


「じゃぁ僕と萩原はもういくね。ばいばい。」

「う、うん!じゃぁねっ」


難しいことには蓋をしたのか、今回は見送ることにしたのか。ラブハンター・姫乃は夏目同じく晴れやかな笑顔を浮かべた。

一人、腕をひきずられるようにして連れて行かれることになった萩原は嫌な予感が胸をもたげていた。


萩原のオアシス、夏目総一郎にはとんだ毒蛇がひそんでいたのではないか?っと。



ここから壮大な隠れドS夏目君vs肉食系女子姫乃ちゃんの戦いが始まるっ…!とかいってみる。書いてみたけど姫乃ちゃんがどうやったら落ちるかわかんない。姫乃ちゃんが落ちる前に萩原の胃に穴が空きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ