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聡之介さんと私:後編

「あ、聡之介さん。ちょっとここ立ち寄ってもいいですか?」

 私たちは【篠宮酒店】の前を通りかかっていた。店先には雪さんがいて、私に目をとめたあと聡之介さんをみて“まああ”と目をきらきらさせた。

 ああ、ここでも籐子さんと同じ説明をしたほうがよさそうだ。

「いらっしゃい、千春ちゃん」

「こんにちは雪さん。あれは私の元上司で友人の兄です」

「あら、それだけなの?」

「それだけです。ところで、紅茶とコーヒーを注文したいのですが・・・」

 店内を楽しそうに眺めている聡之介さんを無視して、私は雪さんにほしい商品を注文することにした。

「今日はこれからどこか行くの?」

「はい。喫茶トムトムでお茶でも飲もうかと」

「あら~、そうなの。そうなのね~」

 打ち合わせは短時間で済ませよう・・・私は心のなかで決めた。


 喫茶トムトムは、ランチタイム後なだけにさほど混雑していない。私たちは奥の席に座ると、本日のおすすめケーキセットをオーダーした。

 ここのパティシェの孝子ちゃんが作るケーキは美味しい。でも彼女が入れるお茶を飲めるのはただ一人だけらしい。

「ねえ、まめはる。この店ってバイトは男子だけなの?」

「そうみたいですよ」

「へえ・・・うちの店、男性カットモデルのバイト募集してるんだよね~」

「ここでスカウトしないでくださいね。皆素直で真面目そうな男の子ばかりなんですから。聡之介さんの影響なんか受けたら気の毒です」

 “のんきな2代目若旦那の仮面をつけた底知れないヤツ”なんて一人でいい、一人で。

「それはひどいなあ」

 口調こそ拗ねた感じだけど、この人は会話を楽しんでいる。本当に腹を立てたらますますにこやかになって敬語になるからすぐわかる。


「はい、ケーキセット2つお待たせ~」

 持ってきてくれたのが紬さん・・・皆、見たことない人に興味津々なのね・・・。

 私が籐子さんと雪さんにした説明をしようとしたところ、なぜか先に聡之介さんが口を開いた。

「初めまして。川端 聡之介です。私は彼女の親友の兄であり職場の元上司です。今日は仕事の打ち合わせも兼ねて、独立した彼女の様子見にきまして」

「まあ、そうなんですか」

「ええ」

 聡之介さんがにっこり笑って自己紹介すると、紬さんはなるほどね~と言い戻って行った。

 あっけにとられている私を見て、聡之介さんが一言。

「私が自己紹介したほうが早く終わるだろ?さて仕事の打合せをしようか。豆畑、来月の予定なんだけど・・・」

 聡之介さんの切り替えの速さには感心する。そして、このビジネスライクな聡之介さんが嫌いじゃない自分もどうかと思う。

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