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聡之介さんと私:前編

長くなってしまったので、前後編に分けます。


 今日は【とうてつ】の籐子さんが髪のセットをするために来店している。

 年齢不詳な美人さんぶりの秘訣が美容業界にいる私としては知りたいところ。その籐子さんがさっきから鏡越しに、私とテーブルでパソコンを開いている男性を見てはうふふと楽しそうだ。

 絶対、籐子さんは誤解している。ここはきちんと間柄を説明したほうがよさそうだ。

「籐子さん、あれは私の元上司です」

「元上司が、元部下の様子をわざわざ見に来るものかしら」

「あれは私の友人の兄ですから。友人に頼まれたものかもしれません」

「お友達のお兄さん・・・そうなの~」

 なんか籐子さんがますます興味津々なのは気のせいだよね・・・・。ま、私はきちんと説明したからいいか。細かいことまで気にするのは仕事のときだけで充分だ。

「はいできました。いかがですか?」

「ばっちりだわ。いつもありがとう、千春ちゃん」

 籐子さんが満足した様子で店を出ると、それまで黙っていた聡之介さんが口を開いた。


「まめはる、“あれ”扱いはひどくないか?私は元上司で、きみの親友の兄なのに」

「それより、今日は桃実が来る予定でしたよね」

 今日は桃実がサイトのメンテと打ち合わせをするついでに、喫茶店トムトムのブログを見たらしく行きたいって言ってて楽しみにしていたはずなのに。なんで聡之介さんが来ることになったんだろう。

「私も一度まめはるの店が見たくてね。桃実にはかなりぶうぶう言われたけど、そこはね」

 聡之介さんがにっこりと笑う・・・はたから見るとのんきな笑顔。桃実・・・何か弱みでも握られたのかな。

「別に桃実の弱みなんか握ってないよ。ただ、あいつの仕事をちょっと増やしただけ。ところで次のお客様は何時に来店予定なのかな」

 それにしても聡之介さんは相変わらず私の思考を見抜く。そんなに顔に出てるのか、私。接客業なのに、まずいじゃん。

「先ほどのお客様が最後です。桃実と打合せをする予定でしたから」

「そうなの?じゃあ、そろそろ来月の仕事予定を知らせる予定だったから、ここで打ち合わせしようか」

「それもいいですけど、外に行きませんか。お茶とケーキの美味しいお店がありますよ」

「うん、それもいいね。でも、まめはるのいれたお茶が飲みたかったな」

「あー、はいはい。相変わらず口がうまいですね~。何もでませんよ」

「うーん、まめはるには通じないか」

 聡之介さんって・・・付き合い長いけど、謎。ま、それは実妹の桃実も一緒みたいで“聡之介って、ときどき謎なんだよ”って言ってる。身内にわからないものが他人にわかるわけがない。


 外に出てドアにしっかり鍵をかけると、私たちはのんびりと駅方面に歩き始めた。

「この通りはいろんなお店があるようだね」

 聡之介さんはレジ脇に置いてある商店街マップを持ってきたようだった。

「中華料理にジャズバー・・・・へえ、雑貨屋に民宿もあるんだ。まめはるの店の正面はお茶屋さんなんだね」

「仕事が忙しくて、お茶屋さん、中華料理屋さんと雑貨屋さん方面には行けてないんですよね。帰ってくる頃には商店街も静かなときがありますから。あ、でもジャズバーには時々行ってます。洋酒の品揃えが素敵なんですよ。桃実も間違いなく気に入るから、今日連れて行こうと思ってたのに」

「まめはると桃実は酒飲みだからね」

「聡之介さんは1滴飲んだら寝てますよね。前は知らない女の人が既成事実があると迫ってきていましたけど、最近は大丈夫ですか?」

「・・・あのねえ。最近はノンアルコールビールやカクテルがあるから助かってる」

「それはよかったです。そういう女が来るたびに恋人のフリをさせられる私の身になってくださいね。そのせいで彼氏と別れたこともあるんですから」

「うん、あれは悪いことしたよ」

 でも、そのあとも結構私は“恋人のフリ”をさせられている。この人、本当に悪いことをしたと思っているんだろうか。

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