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親友と私

「“美容室まめはる”・・・千春のあだ名そのままじゃん」

 店の名前を見た川端 桃実ももみが笑う。桃実は私の親友で、元職場のオーナーの娘。店の事務と経理部門で働いている。

「それはハルコさんのあだ名よ。豆畑ハルコで“マメハル”」

「祖母と孫であだ名が一緒・・・面白い~」

「桃実。あんたは何しにきたの」

「泊りがけで引越し&独立祝い、ついでに髪の手入れとネイルをしてもらおうと思ってさ。私がお客第一号なんて縁起いいわよ~。へー、インテリアもいい感じで出来上がってるじゃない。そういえばマメちゃんは?」

 マメちゃん、というのは私の飼い猫であるマメキチ(メス)のことだ。

「マメキチは実家に預けることにした。ここより実家のほうが静かで気に入ったみたいでさ~。うちの親にも懐いてるしね」

「そっか残念。ところで店の採算は大丈夫?心配だなあ・・・あ!だから聡之介は千春とあんな契約を結んだのか」

 なぜか合点がいった様子の桃実を横目でみつつ、私はこっそりため息をついた。

 聡之介さとのすけ、とは桃実のお兄さんで、確か私たちの6歳上の35歳。元職場のヘアメイク部門の経営を任されていて、見た目はメガネのおっとりさんだけど、つかみどころのない性格で人脈が広く怒らせると怖い。

 聡之介さんを怒らせていつのまにか職場からいなくなった先輩やら同期やら後輩が何人かいたなあ・・・。ああ恐ろしい、関わりあいたくないっ!!と思っているにも関わらず、桃実と親友同士なのが災いして、何かと顔を合わせることが多い人だ。


 私が準備を始める隣で、桃実はのんびりした調子で話し続ける。

「私も契約書みたけど、かなり千春に気を遣った内容だったよね」

「確かに。それは聡之介さんに感謝してる。おかげで桃実のサポートも受けられるし。ありがとね」

 聡之介さんが私に示した契約内容は、元職場のヘアメイク部門が私のヘアメイクアーティストとしての仕事をマネジメントしてくれること。開催する勉強会などの参加許可、化粧品などの割引購入、ヘアメイクと美容室の仕事が同じ日になった場合はわたしの希望したように美容室のほうを優先させてかまわない、というものだった。

 思わずなにか裏があるんじゃないかと契約書を丹念に読んで、両親にも確認してもらったくらいだ。だけど内容に不備は特になく、私は契約することにしたのだった。

 すると、今度は予約システムについての提案もされて、それが理にかなっていたものだったから反対する理由も特になく。いつの間にかシステムは桃実が管理することも決まっていた。

「なんか、自己都合で辞めた人間なのに、そこまでしてもらっていいのかな」

「うちだって千春をよそに取られることもなく確保できたのがメリットだから気にすることない。聡之介は、それだけ千春をいい人材って評価してるのよ」

 桃実に言われてなるほどと納得する。聡之介さんは仕事に対してはシビアな人だしね。


「で、カットはそろえるだけ?」

 桃実の髪はあご下から毛先にゆるりとウェーブをかけた、つや感たっぷりのロングヘア。仕事中は後ろでまとめているんだけど、本人いわく「手入れは楽なのに、おろすと印象が変わって狩りに有利」なんだそうだ。

 普通にデートでいいじゃん、と言うと「狩り」という言葉のほうが私には合っているという桃実・・・そういや学生時代からハンターだった。

「ん~、そうね。それからトリートメントとネイルしたい」

「かしこまりました。ネイルはここから色を選んで。パーツはどうする?」

「いらない。聡之介がそのへんはうるさくて。それに私不器用だからさ~、自分で補修できないし」

「・・・・このネイル自分でやったでしょ、雑だなあ。社内のサロンに行ってやってもらいなよ。研修生の練習相手になってさ」

「えー、練習相手になるのは千春のときだけで充分」

 確かに下積み時代は桃実が私の練習相手になってくれた。2人して髪が金髪だったりしたこともあって、それを見た聡之介さんが絶句していたっけ。

「確かに桃実のおかげで私は一人前になったようなものだわ。まったく桃実様のおかげです」

「ふふん、わかってるじゃないの」

 私がおどけて言うと、親友はふんわりと笑った。



 そして、この店をじーっと女の子が見ていたことに私たちは気づいてもいなかった。


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