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I CAN‘T GET STARTED

聡之介サイド。

商店街にやってきた話になります。

「あ、まめはる?今駅に到着したからそっちに行くよ。え、迎えに来る?大丈夫だよ。それより、お昼が私の都合でだめになって悪かったね。お詫びにケーキでも買っていくよ。じゃあ」

 電話を切った僕は、まめはるの慌てた様子にちょっと笑ってしまう。駅を出ると、すぐ目の前に駅前広場。その向こう側に広がるのが「希望が丘駅前商店街」だ。

 さて、ケーキを買っていくとは言ったものの、どこで購入したらいいか・・・以前に「美容室まめはる」でもらった商店街の案内図をざっと見ると、各店の紹介が簡単に掲載されていた。

 まめはるとケーキセットを食べた喫茶店も掲載されていて、ケーキとパンのテイクアウトができると書いてあったので、そこで購入していくことにした。


  「喫茶トムトム」に入ると「いらっしゃいませ」と店員さんが明るい声で挨拶をしてくれる。そういえば、「“普通に賢くてさわやかで感じのいい男の子”っていそうでいないんですよねー。川端部長、いい人いません?」と理想のメンズのヘアカットモデルがいないと美容室の店長がぼやいてたな。

 ここの店員さんは「賢くて感じのいいさわやかな男の子」ばかりで、紹介すれば店長が喜ぶだろうけど、まめはるからきつく止められてるからなあ。悪いけど、店長よりもまめはるに怒られるほうが僕は怖い。

「川端さん、いらっしゃいませ」

「こんにちは」

 前にきたときに対応してくた女性が声をかけてくれたので、僕はケーキのテイクアウトをお願いした。どれにしようか迷っていると、今月のおすすめだという桃のケーキを勧められる。

 確かに桃をまるごと1個使い、種の部分にクリームを入れて下のスポンジで桃を支えているというそのケーキはインパクトもあって美味しそうなのでこれを2つ頼んだ。

 会計をしていると、なぜか奥から若い女性やコックコートを着た男性二人(顔立ちが似てるから親子だろうか)がこっちをちらちらと見ている。いったいなんだろう?

 疑問に思いつつ、トムトムを出て「篠宮酒店」に通りかかると、やはり先日まめはると話していた女性が店頭にいて、僕をみてパッと顔を輝かせた。

「まあ、こんにちは。まめはるに用事ですか?」

「はい。仕事の打ち合わせがありまして」

「そうなんですか」

 挨拶を交わしていると、なんだか店の奥から声が聞こえる。

「ちょっとくらい挨拶してもいいじゃねえか」

「親父の“ちょっとくらいの挨拶”は、いつもちょっとじゃないだろ」

「醸!お前、親父に対してなんつー口のきき方をするんだ」

 挨拶って、僕にかな?応対してくれてる女性のほうを思わずちらっと見る。

「気にしないでくださいね。ちょっとした親子喧嘩で、いつものことですから♪」

「・・・そうなんですか。それではこれで失礼します」

 店から離れた直後に“色男がいっちまったじゃねえか、醸!”という声が聞こえてきたけど・・・・色男って、僕のことだろうか?うーん、悪いけど男の人にそう言われてもうれしくないなあ。


「美容室まめはる」の前で電話をすると鍵を開ける音がして、まめはるが中に入れてくれる。

「こんにちは、聡之介さん」

「元気そうでよかった。あ、そうだこれトムトムさんでケーキ買ったんだ」

「わあ、ありがとうございます。ちょっと冷蔵庫に入れてきますね」

 そういうと1階にある小さい冷蔵庫にケーキをしまった。

「1階にも冷蔵庫があるんだ」

「もう暑くなってきましたから、お客様用の冷たいお茶を入れてるんです。聡之介さん、冷たいお茶で大丈夫ですか?」

「ありがとう」

 まめはるは自分の分も一緒にお茶を持ってきて、僕の向かいに座り打ち合わせの書類を広げた。

「夏のイベント用に、ヘアセットと浴衣の着付けを“夏の着付けセット”として販売しようと思ってるんです」

 そう言ってまめはるが見せたのは、値段と内容をプリントアウトしたもの。着付け+ヘアセット3900円程度で着付けまたはヘアセットの単品は各2000円。

「悪くない値段設定だね。その線で進めていいと思う」

「基本は予約優先で、ヘアアクセサリー、浴衣などはお客様持参で。あとは1000円プラスで、ネイルかメイクを承ろうと思います。問題は、いつも1日3組なんですけど、今回はどうしようかなと」

「着付けセットの予約をするお客様だけが来店するとは限らないだろう?私なら1日3組は崩さないよ」

「・・・そっか、それを失念してました。周囲が夏祭りモードなもので、ついつい私も浮かれてしまったようです。やっぱり聡之介さんに相談してよかったです」

「お役に立てたならよかったよ。じゃあ今度はヘアメイクの打ち合わせをついでにいいかな。雑誌の撮影と、ドラマのメイクの仕事がきてるよ」

「はい、分かりました」


 細かい打合せを終えて、まめはるがケーキと紅茶を出してくれる。桃のケーキをみて「美味しそう~」と喜んでいる彼女を見ていたら、ずっと聞いてみたかったことが口に出た。

「あのさ、私が言うのもなんだけど、まめはるは両立してて疲れない?」

「確かに大変ですけど、私は美容室でお客様と向き合うのも、ヘアメイクの仕事であちこち行くのも好きなので大丈夫です」

 そう言って、まめはるは笑う。

 まめはるは僕に弱音を吐かない。彼女が弱音を吐くとしたら僕の妹で親友の桃実だけだろう。僕はそれが少しばかり面白くない。

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