まめはると夏のイベント
毎年、夏がくると前の職場ではヘアセットと浴衣の着付けを「夏の着付けセット」などと称して販売し1000円追加で浴衣にぴったりのネイルかメイクもできたため、お客様から好評を得ていた。 今年はうちの店でも浴衣の着付けを承ることにしたけど、まだ具体的には決めていない。
今日は、以前に髪を切った中原様が毛先をそろえに来店している。以前よりは緊張しなくなったようで、ガチガチだった雰囲気が少しだけ柔らかくなっていた。
「あのう、“まめはる”では浴衣の着付けっていうのはしてくれるのでしょうか。花火大会とか夏祭りとか、あるから・・・」
「中原様は浴衣を着ていく予定があるんですか?」
「え?あ、それは・・・その・・・」
そういうと、中原様は少し顔を赤らめた。その可愛らしさが微笑ましいと同時に、自分にもこんなときがあったよなあと、しみじみしてしまう。
自分が中1の頃、こんな顔を赤らめるような要素があっただろうか・・・いや、ないな。部活優先で、花火大会も部活終わった後に、皆でジャージで行ったっけ。初恋らしきものは経験していたはずなんだけど、覚えてない。
でも中学生の頃って明るくて、分かりやすい可愛らしさの子が人気あったりするけど、もし中原様に彼氏がいるんだとしたら、その子は相当見る目があるわね。
「まだ細かいところまでは考えていませんが、そういうプランを考えてはいますよ。お値段は2000円から4000円くらいになると思います。決定したら店のドア近くのボードに書き込んでおきますね」
「ほんと?じゃあ、ちゃんとチェックします。でも4000円は大きいなあ・・・」
ご両親に聞いてから予約するか決める、といい中原様は店を出て行った。
次のお客様が来るまで時間がある。うーん、夏の浴衣着付けを承るのは決めたけど一日どれくらいのお客様に対応できるだろう・・・。
着付けだけなら桃実に応援が頼める。彼女は着付けの資格を持っていて、本人曰く不器用だがこれだけは自信があるらしい。浴衣シーズンのときは店舗で応援に入ったこともあった。星の空を進呈するか黒猫さんでおごるといえば喜んで来るだろうし。でもセットは私しか出来ないし・・・どうしようかな。
とりあえずメールで相談してみようとパソコンを開くと、ちょうど聡之介さんからメールが来ていた。開いて私は頭を抱えたくなった。
『豆畑へ:そろそろ夏のイベント向けプランあたりを考えているんだろう?相談に乗ってやるから、今度のまめはるの定休日に打合せをしませんか。ついでに一緒にお昼を食べよう。 川端』
時期的にあっちの店もイベント向けにプランを考えるから、うちのことを思い出したんだろうな~。それにしてもなんていうタイミング。でも確かに考えたプランを冷静な第三者に聞いてもらいたいというのも頭にあって、聡之介さんはぴったりの人なんだよね。
私は意を決して、中原様に話した内容をメールすると、店の掃除を始めた。
最後のお客様が出て行き、店の掃除を終えてパソコンを開くと聡之介さんからメールが来ていた。
『値段設定は悪くない。細かい打ち合わせは今度の定休日だね。楽しみにしているから、具体的に考えておくように』
わかりました、と返事をしてふと気づく。
聡之介さんが来る、ということは・・・・あああ商店街の皆さんの生暖かい視線再びか。
なんで商店街に来るんだろう。私をあっちによびつけたっていいはずなのに。