序
雨がしとしとと降り始め、昼過ぎだというのに辺りが暗く染まっていく。
今月になって何回降っただろう。街を歩く人々はもう雨は慣れたのか、皆、傘をさして平然としている。
その街の店と店の間にある路地を入り、その奥の路地裏で二人の少年が傘もささずに立ち止まっていた。
その場に来て、もう十分程の時間が経つのにも関わらず、二人は沈黙のままお互いに違う方向を向いていた。その静けさが、大降りになった雨の音をさらに大きく響かせる。
「もう、俺には関わるな……」
沈黙の中、視線も合わさずに急に声をかけられた上に、この雨の音のせいで目の前の少年が何を言っているのか、聞こえなかった。
何故か聞いてはならないような感覚に苛まれ、聞き返すことができないまま、ただ茫然と少年をみていると、彼は首だけを動かしてこちらを見て、
「もう、俺には関わるなと言っている」
彼が何を言っているのかは分かった。しかし、何故そんなことを言うのかまでは、理解できなかった。
彼と自分は幼いときから十七年間一緒に育ってきて、幼馴染みというよりは、兄弟に近い存在だった。そして、唯一無二の存在だった。決して、仲が良いというだけの付き合いではなかったはずだった。
お互いに今までなんどもケンカをした。男同士のためか、殴り合いにまで発展してしまったこともある。彼の、自分の感情を表に出さないことが原因で、何度も迷惑かけられたことだって忘れてはいない。
自分と正反対な性格だからこそ、釣り合うのだと、信じてきたたった一人の親友が、今、口にしたことは、少年にとって深く傷ついた一言だった。
もう一度聞き返すことも、反論することもできないまま、少年は、立ち去ろうとする親友を、それでも必死にくい止めた。
「お前とは、もう関わりたくないんだ、望……」
眉根を寄せてこんなにも苦悶の表情を見せる彼の姿など、今まで見たこともなかっただけに、望と呼ばれた少年は、一瞬焦りを覚える。
理由を聞きたかった。しかし、信じられない言葉で震える身体に、声を出したいのに出ない、渇いた喉が望の意識とは反して邪魔をする。
そんな望の心情を知ってか知らずか、少年が身体ごと彼の方に向き直り、
「俺は、お前に……」