入学式は普通に終了
俺は今日の入学式のために、シアとルナに服を着せられている。
今日のために誂えたらしいが、シアとルナそしてアルまで服装がきっちりカッチリしている。
「なあシア、ルナ、俺は貴族なの伏せて学園に行くのに、メイドや執事連れて行くものなのか?」
シアでもルナでもなくアルがその質問に答えた。
「ここの学費はとても高いのです。金持ちや貴族しか来ませんので、メイドや執事が居ても何ら問題になりません。例え身分を隠していたとしてもです。」
「そうか、ならいいんだ。それにしてもこの服はなんだ?見えていないとはいえ黒々としすぎじゃないか。」
俺は今、服を着せられている。
何故か黒いシャツに多分赤いベスト、黒いズボンにこの日ように誂えたマスクも黒い。
そして歩いても地面から3センチくらい浮くようになってる黒マント、俺の成長まで計算に入ってるのかまだ8歳だから日々成長してるというのに。
襟元に真っ白なファー、このセンスはなんなんだ。
「黒だけじゃなく赤に白もありますよ。それにマスクに合わせますと黒が似合うと思いましたので実際似合ってらっしゃいますし、問題ございません。」
やっぱりベストは赤なのか、予想通りだな。
「問題ないなら仕方ないな。」
どっちにしろ今更服変えろ、とか言っても無理だろうし。
「じゃあ行くぞ。」
「はい」
「行きましょう。」
「はい」
何となく三人が返事したが何故シアだけ行きましょうだったのかよくわからない。
俺は視線を浴びながら入学式場に向かった。
まあ怪しすぎるからしょうがないだろう。
会場についても視線は止まなかった。
だが視線は集まるものの、式が始まり。
その視線もまばらになり新入生代表の挨拶が始まった。
「新入生代表アニアータ君、壇上へ。」
「はい」
会場中から惜しみない拍手に迎えられながらアニアータは壇上へ上がる。
「私は聖王歴1412年度新入生代表アニアータ、準騎士科だ。
私の国は今戦争の真っ只中の為この学院で戦術や戦略を学ぶためにやってきた。
そして国を憂う同士を集めると共に我が国を助けてくれる兵を集めている。
我が国フルネイス王国さらには巨人王が狙う聖王国アルロイスを守るために私のもとへ集ってくれることを願う。
私の挨拶は以上です。」
どわ~~っと拍手が雨あられだった。
これが学園の新入生代表の挨拶でいいのか?
俺の頭の上が疑問符で一杯だったが、拍手の量は今日一番だった。
このあとも色々挨拶あり、最後に学院長が閉めて終わらせた。
「・・・という事で皆入学おめでとう。」
「学院長の挨拶でした、皆さん盛大な拍手を。」
拍手をして、入学式は終了した。
「新入生の皆さんはこれから、会場で必要な道具を買っていただきます。」
生徒がぞろぞろと動きだす。
動き出してもまだ説明してた教師が話していたので俺は聴き続けた。
「上級生が寮の前で必要なくなった物をバザーで出しています。
それと今年卒業した者が置いていった物が寮長室の前にありますのでご利用ください。」
貴族志向の強いものは他人のお下がりとか買わなそうだが、これは上級生と知り合えるチャンスでもあるわけだな。
特に平民出の物とかには大事なのだろうな。
俺は必要な物を買ってすぐにバザーに向かった。
「アル、これとこれとこれ買ったんだから、あとはバザーで面白い物と家の家具とか買っていくぞ、シアは馬車か馬無しで荷台をあと何人か連れてこい。」
「わかりました」
シアは駆け出して言った、俺は急いでとは言ってないんだが、まあいっか早いに越したことはないな。
「バザーですか掘り出しモノがあるといいですね。」
「とは言っても学生のいらなくなった物が大半だからな、そんな良い物は無いだろう。」
「いえいえ物だけの話ではないですがね。」
アルはいい人材が居るかもしれないってことだろう。
「確かにな俺の姿を見ても動じない奴とかいたら楽しそうだな。」
そう言ってバザーを歩いて回る。
タンスにクローゼットにテーブル、勉強机になんか楽器、いろいろあるな
「家具選びはアルとルナに任せる適当に買ってきてくれ、金額も忘れずに覚えておけあとで学園に請求するからな。」
「畏まりました。」
「行ってまいります。」
二人がそう言って俺から離れる。
俺はそのままぶらぶらと歩く。
「バザーと聞いてましたが中々面白い物が置いてありますね。」
俺はバザーの端っこというか誰も来ないんじゃなかろうかと思うほど辺鄙な所で鎧や武器を売っている先輩を見つけた。
「おっ、初めて客が来たよ。」
ほかの店からこれだけ離れてたら気づかないかもな、最低でも50mは離れてる。
「これは誰かの捨てたものを修理したのかい?」
「それもあるけど一から作ったのもあるよ、この剣とかね。」
「先輩は工房や炉をお持ちで。」
「いや~持ってないんだよね、平民でここに居れるだけで十分幸せなんだけどね、因みに学園の先輩でもないんだ。」
先輩でもなく平民でここに居るということは。
「学園に雇われてるんですか?」
「そうなんだ、俺は魔力だけは多いらしくてね金が無いからこの学園には通えないんだけどここの設備には魔力を使うところが多くて暗くなる前の夕方と日が昇る前の朝方に魔力を込める仕事があるんだ。そのために雇われてる。」
そんな仕事があったのか、面白いことを聞いた。
「その魔力を込める仕事は何人くらいでやってるんですか?」
「俺が来る前まではおじいちゃん達が500人くらいでやってたらしいけど。
今は、広い学園内と学術国家全部を回るので100人かな僕みたいに十代は10人くらいだったと思うよ。
給料も中々良いんだよ範囲制で1区間月40c貰えるんだ。
皆2区間か3区間なんだけど俺は15区間出来るから600c、6sも貰えるんだよ。」
「確かにそれは良い金になりそうだ。そんな君が何故ここで鎧や剣を売ってるんだい?」
俺の最大の疑問だったてっきり鍛冶系の人間だと思ったら全然違った。
「これを作ってるのが同じ仕事をしてるんだが魔力が少なくて1区間しか出来ないんだ。
それで他でも稼ぐ方法を探して手先が器用なのを利用してこれを最近始めたんだ。
元々魔力が少ないのに、無理して作ったから倒れちまってさ、歳も近いし友達なんだ。
だから代わりに売り子をしているんだ。」
「なるほど、少し聞きたいんだが、魔力を持ったお前達はどうやってここで雇われるんだ?」
「ここの周りにある4都市の住人は貧富に関係なく魔力測定を受けるんだ。
魔力の量を認められた者は教養とか教える施設に入るんだ。
もちろん金があれば自分たちで教育するという事で12歳になったら学院へ受験することを条件で施設に入るのを断れるんだけど。
金の無い者は1sくらいのはした金を渡されて連れて行かれるんだ。
俺もその一人だ、俺はたまたま多い魔力がさらに多くなったから稼げるが、魔力の量があまり増えない奴もいるんだ。
そう言う奴は俺の友達みたいに40cしか稼げないんだ。」
この学園は金持ちが多いから身なりはちゃんとしないといけないし。
貴族の残した残飯を食べるのに10bだ三食食べて30bだから一ヶ月で9c。
部屋も住み込みだから給料から元々抜かれてると考えると31cも残るじゃねえか。
一般的な庶民の飯は2食だからさらに残るぞ。
40cしかって言うが生活は十分じゃねぇか。
こいつら貴族や金持ち商人の暮らし見て金銭感覚壊れてるな。
しかもコイツ自身稼いでるから余計に他の奴らの貰ってる給料が薄給に見えてやがる。
それなりの教養も受けられて一生食っていけるんだから、俺は十分だと思うが、こいつらを雇おうと思ったが変更だ。
この学園に染まってない奴を雇おう。
「話はわかった、結構苦労してるんだな、じゃあな頑張れよ。」
「何か買ってくれないのかい?」
俺は彼の言葉を無視して何も買わずにその場を立ち去った。
「危ない危ない間違って同情するところだった金請求。
序でに、ある程度教養を教えてもらってるならメイドや従士や侍従用にまだ働きに出ていない若いのを貰い受けるか必要経費に数えられたら助かるんだけどな。」
そんなことを呟きながらバザーを歩き回る
「おい、お前、新入生の家族か?」
歩いているとバザーを出してる先輩から声を掛けられた
「いいえ今年の新入生ですよ、先輩」
「そうだったのか、小さいから間違えちまったよ、悪かったな」
「いいえ、小さいのは自覚しておりますから」
嫌味ではなく本当に間違えたのだろう、間違えただけなら怒ることもない
「それより先輩はどんなものを売っているんですか?」
「見ればわかるってお前そんなもの着けてたら見えないだろう」
俺のマスクのことを言うがこれを外しても見えないのでどうしようもない。
「いえいえ、見えなくともわかりますよ、中々面白い物を売ってますね、鉄のオブジェですか?」
鉄のオブジェという言い方をしたがどう見ても漫画とかに有りそうな近未来的拳銃だった
「おっわかるか、他のは普通のいらないものだがこれは昔居た賢者の遺物でさ、この鉄の塊を使ってその賢者は戦争で勝利を齎したらしいんだ、でもな誰にも使えず代々このバザーの代表が売ることになってるんだ、金額は1pなんだけどな」
「誰も買わないというわけですか。」
「そうなんだよ金額は1pでも誰も買わないし持ち出してどこかの店で売ろうとしてもお前と同じで鉄のオブジェくらいにしか見られないから、精々10cもいいところだ、もっと安いかもしれないがそんな金額の為に売り払おうって馬鹿も居ないから1pで売れる日を待ってると言った感じだ」
「1p以外では売ってはいけないということですか」
「そうだな1pで売るのは決定事項でこれは代々受け継がれてるな」
「昔の賢者の遺物使いこなしたいという騒動に駆られて買えないようにですね、安く売って本当に使いこなせた場合世界を握れるかもしれないと」
「まあそこまでは思ってないが、悪用されても困るんだろうさ、誰も使えてないがな」
「中々面白い話をありがとうございました、そのオブジェよりも、先輩を1pで買った方が得かもしれないですがね」
「なっ」
俺はそう言って5gを握手する振りをして渡してその場から立ち去った、先輩は驚いていたが気にしない、あぁ名前を聞いておけばよかったな。
そんな考えをしながら学園で生徒をしてる間の住まいに向かった、きっとアル達ももう家に居るだろう。
読んでいただきありがとうございます