入学式までの日々
「アルそれにしても助かったな。」
「そうですね、ネル様が壇上に立たれて話されるのも見たいですが、それは色々と問題がありますからね。」
そう大っぴらに貴族と名乗って居ない俺には新入生代表の挨拶など出来ない。
ましてや盲目の俺が学年トップなんてお笑い種だ。
そういう訳で、聖王歴1413年度の新入生代表が学年三位のフルネイス王国長女アニアータ姫12歳に決まった。
ちなみに二位は商人の娘だそうだ。
この世界の女は優秀だな、一位はもちろん俺だけどな。
「そうそうアル。実家には年間金貨500枚で請求しておけ500gとか書いたら5pで届きそうだし。」
「わかりました。実際お金が掛かっていたら毎年そのくらいだったでしょうから大丈夫だと思います。」
「あと身分を隠してるために準騎士の希望からはずれ、魔法学科で合格したことを伝えておけ。」
歯がゆいだろうな。
真実を告げられないし、王族から騎士ではなく賢者が生まれるかもしれないのだから。
「坊ちゃんも人が悪い。」
アルには俺の悪巧みを考えるといつも読まれてしまう。
まったくその読心術は恐ろしいぞ。
「ネル様のことはなんでもわかりますよ。」
また心読んだな、もう嫌だこいつ。
「それでこれからどうなさるおつもりですか。」
「9月1日までは宿暮らしだ、9月1日に引っ越す、それまでは適当に暮らす、そうだなアルとナタシアとルナリアと俺で冒険者をするってのはどうだ?」
アルではなくメイドのナタシアとルナリアが声をあげた。
「まだ死にたくありません。」
「結婚だけはしたかった。」
「お前達は荷物運びだ、俺だけで魔物を狩るのは問題ないと思うんだが問題がな7歳児が、まぁもうすぐ8歳だが、変わらんなそんな年の奴が冒険者になっては不自然だろう。
だから4都市のどっかに宿を移して俺を獣になれさせるためにとかそういう設定で冒険者を皆でしよう。」
俺はもう決定事項のように話をした、アルが覚悟を決めたのか話し始めた。
「では聖王国アルロイス管理の都市ロイスにしましょう。そこでしたら実家と連絡が取りやすいですし。連絡をここから頼むよりそちらに移ってから連絡を取りましょう。」
効率重視なのか安全面なのかわからないが問題はないので
「わかった、そうしよう。出発は明日だ、二人とも休んでおけ。」
「わかりました。」
めっちゃテンション低いし、返事したのはルナリアだけだナタシアは返事もしてない。
「返事をしないなら股シアって呼ぶぞ、返事はどうした。」
「股シアってなんですか私はナタシアですよ、わかりました。」
怒って元気になったか返事を貰い俺も休んだ。
次の日出発して何事もなく1日でついた。
馬車で一日だけど4都市全てがこんな距離だ。
宿も決めて寝て次の日はギルドに言って3人を登録させていざ森へ。
とは行かず見習い卒業させてよう。
ブロンズからアイアンにランクアップに三日掛かっていざ出発。
ギルドの説明がないのは俺がカードを作ってないからです。
任意でカードは作れるけギルドが認めないとアイアンにはなれないと言われたから、8歳の俺には認められないらしい。
まあでも森には行くんだけどね。
「さあ森だぞアル、シア、ルナ、気を引き締めて解体しろよ。」
「え、解体ですか?」
「そうだ解体だ、ルナもアルも頷いてるぞ。」
まあすでに近隣の魔物や獣には死んでいただいてますがね。
人間を青、それ以外の動くものを赤で、イメージして索敵で赤で引っかかった奴らの心臓と脳の二箇所をピンポイントで熱操作を使って焼き殺してるから歩いても歩いても生きてる獲物には会わないはずだ。
そういう訳で戦闘もせずに一日中解体して森から帰る。
この作業を二月末から八月中盤まで毎日やってしまった。
執事のアルとメイドのシアとルナの三人はギルドで有名になってしまっていた。
引っ越す前の最後の狩りの日も
「今日も稼いだのかい?、やるもんだねぇ、もうカッパーになれるんじゃないか?というかシルバーの依頼も終わらしてるよな。」
俺はギルドの中に入らずにいつも盗み聞きをしている。
もちろん俺は目が見えないのでわざわざ覗き込む必要もないのだ。
聴力強化で問題なく中の声も聞こえている。
まあこの後半年分の稼ぎを分配してやるしアル達もそのくらいは我慢してくれよ。
「いえいえ我々はお金を稼ぐためにしているのでランクは気にしておりません。
ランクに関係なく討伐だと、たまたま出会ってしった魔物は狩っても問題ありませんし。」
「たしかにそうだが中々それをする者は居ないがな、大体の奴は殺されちまう。」
アルは話しかけてくる冒険者の耳に顔を近づけて。
「ここだけの話ですね。依頼もお金がもらえるから受けてるだけで、お金がもらえなければこのまま買取カウンターに行きたいんですよ。お金は大事ですからね。」
「いい服着て冒険者をしていて金金言うなんてな、こりゃあいい話のタネだ。ハハハハ」
「ここだけの話って言って差し上げたのに。」
アルも笑わせる為にやっているのだろう怒ってたりはしない。
暫くすると全部終わらせてアルが戻ってきた。
「お待たせいたしました。」
「俺がさせてる事だ気にするな、行くぞ。」
「はい、入学式のお召し物を取りに服屋に私はいきます。」
ルナがそう言ってきたので。
「ああ頼んだぞ」
俺は軽く頼み、ルナは服屋に向かった。
俺たちは半年の狩りで金を半年で300g以上稼いだ。
400はあるかもしれないが数えていない。
ルナが服屋から戻ってから30gずつを3人報酬として支払った。
シアは「半年死ななくて良かった」ルナは「お嫁にこのお金で行ける」
とか言ってた。
もう金に喜んでくれてるのか良くわからないが、俺達は入学までの残りの日数は学術国家で過ごして入学式の日を待った。
聖王国アルロイス聖都アルロ王城アルロイス玉座の間の隣の執務室にて
「失礼します、陛下」
宰相が慌てて入ってきた
「ジネル、慌ててどうした、それは」
「元執事長のアルフレッドから手紙が来まして、中を確認したところ書かれた内容を陛下にお伝えするべきだと思い参りました」
「読み上げよ」
「はい。
ネフェル様の成長過程で色々分別も出来てきて7歳にしてはとても聡明に育たれました。
この度、成長を確かめるため、学術国家へ受験の為に向かいました。
結果は1位でしたが身分を伏せている為、新入生挨拶は3位のフルネイス王国のアニアータ姫がされることになりました。
1枚目の内容はこのようになっています」
「そうか、あやつは学術国家に居るのか。1枚目と言うことだしそれだけではないのだな、学費とかのことも掛かれておるのだろう?」
「はい、書かれております2枚目を読ませてもらいます。
ネフェル様より年間1000gで請求するとのことです10pでは無く金貨1000枚で届けよ。
との事です」
「あやつめ本当に7歳かアルフレッドの差し金ではないだろうな」
「しかし、7歳にして試験の結果はトップ合格ですから、まず住まいを変えたりメイドを新しく雇ったり教育やパーティーなどもするでしょう。
そのくらいはするのだと思います。
10pであればまだ少ないほうかと思われますが。
それに手紙にはまだ続きがございます」
「続きがあるのか、続けよ。」
「はっ、
あと身分を隠してるために準騎士の希望からはずれ魔法学科で合格したこと。
この言葉をネフェル様がとても申し訳なさそうに仰ってました。
と手紙には書かれておりました。
離れていても王家の方ですね。準騎士を希望していたとは、それにしても学年一位なのに希望を外すとは困ったものですな。」
「ジネルは魔道科出身だったな。準騎士とは貴族のそれも金が無いとダメなのだ、従士たちも雇う形になるし、上騎士や聖騎士になったら騎士も雇ったりする、しかも生徒ではなく卒業生を雇ったりすることもあるのだ、ジネルお前も我が聖騎士の時に雇い入れたのも覚えていよう」
「はい、覚えております。」
「王族にとってはそうやって信頼できる臣下を集める場でもあるのだ学術国家とは、そこで王族でありながら、準騎士になれないという事は、聖騎士にもなれず人を雇い使う機会が減るということなのだ。
有事の際には我やあやつの兄の代わりに戦場に立つという機会すらなくなったことも意味するのだ。
ただでさえ実害がこの国には無いとはいえ戦時中だ。
我が国は優秀な者を雇う機会が減ったとも言える。」
「ネフェル様はそこまで考えて申し訳なく思ったということですか。」
「きっとそうなのだろう、ジネルよ今年は3000gを渡して信頼出来るものを雇えと伝えよ、来年からは1500gでやり繰りせよと。」
「畏まりました、身分を伏せてる身なれど貴族は無理だとしても平民は金銭次第で雇い入れることは出来ましょう、さすが陛下にございます。」
「頼むぞ」
学術国家サイレイ、宿屋にて
「ネル様漸く届きましたよ」
「なにかあったっけ?」
「前に頼んでいたお金です、何故か他にも沢山荷物があるのですが」
「荷物?わからんがそれは入学式が終わった後に引越し先で開ければいいだろう」
「手紙がありました、読ませていただきます」
「声に出して読んで教えてくれ」
わざわざ後で見せてもらうのもめんどくさいのでアルに音読を頼む。
「わかりました。
ネフェルよ。
肩身の狭い思いをさせて申し訳なく思う。
私が思うに陛下じゃなく宰相のジネル様が陛下風に掛かれたんだと思いますよ」
アルそんな見も蓋もないこと言ってあげるな。
「続きは?」
「準騎士科は残念だったが魔法学科で何とかやってくれ。
例え聖騎士や上騎士になれなかったとしても魔法学科の平民や従士科の平民なら金を出せば雇えるだろう。
書いてあった額よりも多くしておいたからそれを使いなさい。
来年からは1500gと今回よりも少なくなるがそれでも新入生でめぼしい者が居れば雇えるだろう。
学術国家は信頼できる者を集める場でもある。
我もジネルという掛け替えのない家臣とであった、出会いは大切にしろ。
と書かれていますね、自作自演とはこの事ですね。
途中で噴出すのを我慢するのがプププ大変でした。」
アルが笑うのも珍しいが、自作自演か悲しいな。
父親の手紙が実は父親からじゃないということよりも。
悲しく思ってしまう事実が、むなしかった。
まさに自演乙。
「それにしても金額が大分違うな。」
「そうですね。金貨が500枚入る箱が6個あるので3000枚ですね。
来年は箱が3個届くのだと思います。
それともう一枚の手紙に大きい荷物には雇った者用に、王国騎士隊の平民用騎士装備や従士装備に王国魔術師のローブと杖等が入っているそうです。
装備一式が各種10セットだそうです。ククク」
まだ笑ってるのか、まあちゃんと話してから笑ってるならいいか。
「そんなものが入っているのか、実家は俺に何がさせたいんだ反乱でもさせたいのか?」
「おそらく違うと思います。有事の際には戦場に出てもらおうと考えているのでしょう。
現在、フルネイス王国が食い止めているとはいえ聖王国アルロイスが宣戦布告をされているのも事実ですので、卒業する頃までに戦火が聖王国アルロイスにまで伸びている可能性も否定できません。」
そういうことか。
今のうちに優秀なものを引き入れて兄の盾になれとか兄の身代わりに戦場で果てろってことだな。
「そんなこと、考えてなかったな、平和に過ごしてきたから忘れてたが、今は戦時中だったな。」
俺は大金を手に入れたが浮かれたり出来ず逆に沈んでしまった。
こんな気持ちで明日は入学式を迎える。
読んでいただきありがとうございます