赤ん坊は脱出でもまだまだお子様
俺は家庭に恵まれているな。
寝返りもできない赤ん坊の頃に暗殺され盲目になり。
親を見た記憶すらなく。
家の庭以上の外の世界は知らず。
金だけはあるので必要な親や愛情以外は色々揃っている家庭だ。
って大事な所が無さすぎる普通の子供ならやっていけないよ。
「まあいいけどさ。」
気づいたら声に出していた。
「どうかされましたか?」
世間的にはおじいちゃん兼執事なんだけど。
でも若かったっけでもここ何年かで老け込んだ気もするけど名前はえーっと。
「アルフレッドです。」
俺は今驚いた表情をしている。
なぜならこれは声に出していないのに執事が名乗ったからだ。
「私は元執事長ですから、それくらいわかります。」
いや普通わからないだろ、元執事長、恐るべし。
「アル、心臓に悪いからそういうのはやめてくれ。」
本当に心臓に悪い。
かなりびっくりして数秒固まったからな。
「坊ちゃんと驚かす以外の楽しみは、坊ちゃんの成長に驚かされる以外にはないので、たまにはいいじゃないですか。」
そう俺はアルをめっちゃ驚かせてきた。
まずは、盲目なのにアルの居場所や物の場所を把握していたり。
挙句には字を読み始めたのだ。
まあ驚くわな。
光感知のおかげで光の反射加減で字を感じられるので読めるのだけど。
アルには何となくで全て通している。
「まあ驚かせるのは好きだけど、驚かされるのは好きじゃないんだよ。」
驚かせる側が、驚かされる方も好きという人は少ないと思うよ。
「私も同じなのでたまには同じ想いをさせて差し上げたくて。」
ということは、いつでも俺の考えを読んでこういう返しは出来たって事か侮れないアル。
・・・なんか語尾にアルつけてるみたいになったな。
「アルそれで今日の予定は?」
紅茶を飲みながらアルに尋ねる。
時が経つのは早いもので気づけば俺は7歳になっていた。
もっと小さい頃に外とか出れれば良かったのだがあいにくの盲目友達付き合いも出来ない。
この歳まで庭を走り回ったり、書斎で本を読んだりして過ごしていた。
完全に引きこもりだ。
「本日は屋敷も村も出まして、町に行こうかと思っています。」
「じゃあ、アルは数日屋敷を空けるのか。」
アルが屋敷を空けるのは珍しい。
今までは家のメイドに必要なものは買いに行かせていたからな。
「いえ、ネル様もご一緒です。」
アルはたまに俺をネル様と言う。
お坊ちゃんとネルどちらか統一しないのかと思うかもしれないが、よくよく考えて欲しい。
母親でもお兄ちゃんって言ってくる時と名前を言ってくるときがあると思う。
そのくらいの差なのだろうな。
ちなみに、俺はネフェルと名乗れないので、今はネルと呼ばれている。
「俺も一緒か、なにか大事な用事か?」
「ネル様には普通のお友達は出来ないと思いますので、これから学術国家サイレイに行きます。」
「国から離れるのか。」
俺は少しびっくりして居た。
片田舎に引っ越してきて早6年か7年。
今度は国からすら引っ越すのか。
「いえなんと申しましょうか。
学術国家サイレイはその名の通り学術が盛ん、と言いますか。
国そのものが学園なのです。
聖王国アルロイス周辺で随一の勉学の場所であり、只今巨人との戦争の最中なので疎開場所にもなっております。
もちろん学園の費用を払える方のみが行ける所にございます。」
そう言ってアルは学園の資料を俺に渡す。
庭より外を知らない子供にこんな説明。
俺がこの子に乗り移ってなくて、王子本人ならきっと絶対駄々捏ねるレベルだぞ。
「そうか、それじゃあ引越しということだな。学園は金さえ払えば入れるのか?」
資料を読みながらアルに確認を取った。
「いえ、試験があります。その試験に通らなかった者は金をさらに積んで入ることも出来ますが、成績上位者に限り幾つかの奨学金により入ることができます。」
学園の奨学金制度は学術国家で将来働く事を約束して、免除してもらう方法と将来払うという約束で後払いにしてもらうもの。
学園が是非にと学園が払ってでも勉強させたいがための奨学金がある。
他にもあるらしいがお金の無い者が一番取りたい奨学金がこれらしい。
他の例で貴族個人の払う奨学金は将来卒業した時にその貴族に仕えるというのがある。
帰属としても優秀な家臣は欲しいのでこういう奨学金が出来たのだが残念なことに貴族を奨学金の援助をしてもらうほうが選べないので子供を入れる親からは人気がない、奨学金制度なのだ。
俺は資料を読みながら着替えを終えて。
アルは旅支度を既に済ませていたようで、メイドを2人連れてきた他のメイドは家に残すようだ。
4人で馬車に乗り、そこで俺はアルに話しかけた。
「じゃあ俺は後払いか、金を学園に払わせる奨学金を狙えばいいんだな。」
「学園の費用はご実家から出る予定です。」
アルはここに引っ越してきてから、城とか王家とかは言わず、ご実家と言うようになった。
元執事長とか言う癖にそこだけは隠そうとしてくる。
俺もそれを指摘することもないので、隠されたままにしておく。
「じゃあその金はそのまま貰って奨学金受ければいい。その金で魔法を買わなきゃいけないからな。」
「なんということを、他の奨学金を受け取る者を減らしてまですることですか。」
アルが久々にキレた。でも口調が変わるだけで声を張り上げたりしないから他人には怖くないだろうが、言われてる方は冷静なキレ方されるとめっちゃ怖い。
「わかった。後払いの奨学金は受けない、学園に払わせるほうならいいだろそれなら学園が決めることだから人数設定もないし年に0人ってこともアルの見せてくれた資料にあっただろ。」
「それなら問題はないと思います。優秀であればご実家もさらにお金を出してくれるかもしれませんね。」
俺の考えに賛同してくれたようだ。
魔法の重要性はわかってるのかもしれないな。
俺の盲目のハンデは全て魔法で補っているのだから。
「今までの実家からの金はいくら今あるんだ?アルがメイドに狩りの仕方まで仕込んで食費を浮かせてたり。
毛皮を服にしたり色々工面してたのは知ってるつもりだ。
何かあった時のために溜め込んでるんだろ。」
「はい、もちろんです。年に一度ご実家から送られる数々の物と一緒に金貨で50枚つまり50gでございます。
その最初の一回のお金のみでこの数年過ごしておりました。」
確か最初引越し早々に一回送られてきて、その後の6回だったかを貯めてるってことは300g貯めてるのか。
「すごい額なのにな魔法を買うって考えると少なく感じるのが嫌になるね。」
1人は御者をやってるので中にはメイド一人なのだがそのメイドがびっくりしてくる。
「魔法とはそんなに高いのですか。」
とメイドが聞いてくるので。
「魔法一つで最低50gはしたと思ったけど、アルどう?」
「私は魔法を覚えても居ないので何とも言えないですが、そうですね高いもので300g以上のものがあると聞いたことがあります。」
時代が変わっても魔法の値段はそれほど変わらないようだ。
「そんなにですか、だから私たち庶民は魔道具以外の魔法を知らずに育つのですね。」
確かに、魔力は誰にでもあって魔道具や魔石がある。
魔石には属性が会って火を起こすのに火属性の魔石を使って火を起こしている。
魔道具に魔法陣を仕込んで魔法を使う場合がある。
誰にでも魔力さえあれば出来る代わりに魔力を多く使ってしまうので魔法よりも安いし魔道具を壊されたら使えなくなる。
魔法は魂に刻むので一人にしか覚えさせられないが忘れることもない。
魔道具で魔法を使う人は少なくない。
でも一般的な魔法とは魔道具に頼らず出すことをいうそうだ。
「まあそれより学園だな、試験はいつごろなんだ?今から引っ越すんだし、一年後とかではないんだろ。」
「はい二ヶ月後に試験がございます。大体12歳くらいの人たちが多いとは思いますが、特に年齢制限はございませんので、大丈夫です。」
「俺まだ7歳だし、学園に入るのは8歳だとしても早すぎないか。」
「問題ありません。ネル様の読まれてた本は学園生でも読まない本が多かったですから。」
「それは、実家から送ってくる本がおかしかったからだろ。」
そう、実家から送られる本が闇帳簿みたいなのだ取引相手の情報とかびっしり書いてあった。
俺が盲目だから読まないと思ってか、書斎に置いておけと書いてあるだけの帳簿や個人情報の数々が雑貨と一緒に送られてきていた。
「そんなことより、ネル様の可能性を広げるためにも学園に行く必要があるのです。」
アルめ自分で始めといて誤魔化したな。
「まあ確かになあの家であんな本読んでても仕方ないしな。学園も楽しいかもな。」
「はい、ネル様ならそう言うと思っておりました。
学園には寮もございますが、貴族用の別宅もございますのでお住みになるところも問題ございません。」
「奨学金で学園に貴族用別宅の費用もふんだくってやるか。」
「坊ちゃんその意気です。」
ネル様から坊ちゃんに変わったな、少し馬鹿にされた気がするが気にしすぎか。
でもまあ俺には自信がある絶対に奨学金を取る自信が。
それは試験内容にあった。
筆記試験、実技試験、面接ここまでは普通なのだが最後に魔力測定があった。
魔力の値なら俺は誰にも負けないと思っている。
もちろん通常値なら俺より高い人は居るかもしれないでも俺には通常値より引き上げる裏技がある。
瞬間的には人間を超えた数値になるはずだ、そのため俺には絶対の自信がある。
「アル、期待していろ。とはいえ先は長いから俺は寝る。」
「おやすみなさいませ。」
アルの言葉を聞いてから俺はメイドの膝枕で寝ることにした。
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