第六稿
いきなりだが牛田レオはクズだ。
そもそもE-Goの八割はクズ(俺調べ)なのだが、こいつに関しては俺達『ルーニーズルーム』の中でも一番のクズである。
見た目は良い。身長こそ170cmくらいとやや低めなのを除けば、そこそこイケメンだし体型もガッシリしていて男らしい。
性格そのものは面倒見も良いし特に年下や後輩からは慕われていると聞く。
最も、俺らの中では下から二番目の年齢なのであんまりそういう部分は見られない。
一番年下がユイなのだが、彼女はしっかりしてるからむしろレオの面倒を見る事の方が多い。
まぁ実際のところがどうなのかは知らないが、たまに街を歩いてるとレオに頭を下げていく連中が居るので事実なのだろう。
一見するととてもクズとは思えないレオなのだが、彼がクズたる所以はその趣味にあった。
「おおう……うおう……」
俺達が根城にするマンションの一室。ママこと津島マキトが借りている部屋だ。
そのリビングのソファーに突っ伏して情けない声で泣くレオを俺達は白い目で見ていた。
時折ゴロゴロとのた打ち回る様は見ていてみっともない以外の何物でもない。
そしてこいつがこういう状態になる時は大体同じ理由だ。
「で、今日はいくら負けたのよ?」
「…………」
ママの溜息交じりの問い掛けにレオは左手で指を二本立てた。
「なんだ、二万円で済んだならいいじゃない」
「…………」
今度は右手を広げて、立てた指の横に持って行った。
「七万も負けたの?!アンタ、本気で馬鹿じゃないの!?」
「いや、最初四万負けたとこでやめようかと思ったんだけどこのままじゃ終われねぇって……」
そう、レオはギャンブル狂なのだ。
パチンコパチスロに始まり、競馬競輪競艇の公営ギャンブル、しまいにゃ裏カジノのバカラまで。
引越しのバイトで稼いだお金の半分以上がギャンブルに消えていく。
それで勝ててるんならともかく、こいつはとにかく弱い。引きが弱いというか、引き際が悪いのだ。
にも関わらずギャンブルから足を洗おうとしない辺りがクズだ。本当にクズだこいつは。
「言っておくけど貸さないわよ」
「……レン!」
ママに追随するようにバッテンマークで金は貸さないと主張。あ、完全に撃沈した。
大体俺だって不定給なんだから消えると分かってる金を貸すなんて無謀な真似は出来ないのである。
これで少しは懲りる……とは思えないが、しばらく大人しくしておいてくれたら幸いだ。
※
数日後、ウハウハ顔のレオを見た時に無性に殴り飛ばしたい気分になったが返り討ちが目に見えてるので我慢した。
ソファーにふんぞり返って露骨に万札を数えてる姿は非常にムカつく。
「……あんた、とうとう強盗に手ぇ出したわけ?」
「人聞きの悪い事言うなよ!ちゃんと自力で稼いだ金だよ!」
綺麗な金とは言わないんだな。
「まぁ合法じゃないギャンブルで勝った金だしな。いやー、儲かった儲かった」
「あんたが勝てるギャンブルがこの世に存在してたの?」
「失礼だな!まぁ、今までのギャンブルとはちょっと毛色が違うけどな」
「へぇ、参考までに教えてくれる?」
「闘技場」
……何を言っているんだこいつは。あ、ママも同じような顔してる。
「『シロカミ放送局』の奴に教えられたんだよ。E-Go同士の戦闘を賭け試合にしてんのさ。俺もE-Goだから競馬や競輪よりはよっぽど予想しやすいってワケよ。全戦全勝とはいかなかったが、大きく賭けたところでキッチリ回収したから十万越えの大勝利。いやー、自分の才能が、才覚が怖い!」
「……よくもまぁ、そんな怪しいギャンブルに手ぇ出す気になったわね。あんた、そのうち破滅するわよ」
「はっ、俺がギャンブルで破滅するならとっくの昔に破滅してるっつーの」
「ちょっとレン。馬鹿に付ける薬どこかに売ってないかしら?」
《最近、規制ガ厳シクテ脱法ハーブスラ売ッテナインダヨナ》
「おいちょっと待てや!お前ら俺に何する気だ?!」
「馬鹿は死んでも治らないけど、馬鹿を薬漬けにして思考回路を破壊すれば馬鹿よりはマシかなって」
「どう考えても馬鹿のがマシだろうが!」
ギャンギャンと喚くレオを尻目に、スマートブックで検索を続ける俺。
無論、調べている内容は脱法ハーブだの麻薬だのではなく奴が勝ってきたという闘技場の事だ。
どうもキナ臭い感じが拭えない。
レオ一人が破滅するなら別に何の問題も無いが、芋づる式に『ルーニーズルーム』に行き着くと厄介だ。
裏ギャンブルなのは間違いないので治安維持組織が動く事はあるだろうけども、問題はそっちではない。
この賭け試合ギャンブルの胴元がどの組織か、だ。
《オイ、レオ。ドコノ組織ガ経営シテタンダヨ、ソノ闘技場》
「あ?シロカミの奴が言うには『ダラスベガス』の連中が取り仕切ってるって話だ」
『ダラスベガス』……聞いた事がある。
元々は浜松あたりで立ち回ってた裏ギャンブル専門の組織だ。
一時は関東進出を狙ったが、『秩序の剣』の摘発に遭って初代の頭がぶっ殺されたって話だ。
それ以来静岡に引き籠ってたみたいだけど、最近は西側に手を伸ばしてきたのか……。
「面倒な連中がこっちに来てるのね……大丈夫なの?剣が連中追ってこっちに来るなんて事ないでしょうね?」
「一応、『神鬼籠』に話通してあるって黒服が言ってたから大丈夫だろ。そもそも剣の連中、静岡の抵抗勢力に押されてるらしいじゃねぇか」
「……ヤバいと思ったら逃げなさいよ、レオ。それでなくてもあんた、往生際悪く粘る癖があるんだからね?」
「ならママも付いてこればいいだろ?いざとなったら一緒に逃げようぜ」
「あんたと逃避行なんて死んでも御免よ。身長10cm伸ばして出直して来なさいよこのズングリムックリ」
「よし、表出ろ変態オネエ」
「上等じゃない、能力使わなくてもあんたくらい五分で完封してやるわよ」
そう言って二人で表に出ていき、顔の形が変わったんじゃないかってくらい殴られて失神しているレオを連れてママが戻って来たのは三分後の事だった。
もうちょっと粘れよ、レオ。
※
結局、次の土曜日にレオとママは二人で例の闘技場へと出向く事になったようだ。
暴力を含めた話し合いの末、最終的にレオが『パンイチ土下座三顧の礼』の大技を決めた結果ママが折れた形だ。
なお、『パンイチ土下座三顧の礼』とは午前九時・正午・午後六時にそれぞれパンツ一丁で丁寧な土下座をするというルーニーズルーム伝統と格式に則った最上級の懇願スタイルである。
今までに使い手はレオしか居ない正真正銘の大技だ。
ちなみに前回使われたのは三か月前であり、バイトの給料日の翌日、パチンコで八万負けたレオが俺達全員に義援金を求めた時以来だ。
……あいつくらいしか使いそうな奴が居ないとか言ってはいけない。
もしかしたらシュラクあたりがやってくれるかもしれない。……いや、シュラクは無いな。むしろカナエの方がやりかねない。
その場合ブラの着用が許可されるかどうかが論点になるだろう。
それはさておき。
ママが同行を決めた最大の理由は、闘技場を取り仕切っているという『ダラスベガス』に不審さを感じたかららしい。
俺達の中で一番顔が広いのはママだ。
何せ、愛知・岐阜・富山の中立ラインを取り仕切る『撃団・神鬼籠』のトップと知り合いなのだから、交友関係の広さは計り知れない。
なので『ダラスベガス』と懇意にしてた人物とも数名知り合いが居るとの事だった。
「裏賭博やってる連中をこんな風に評するのもおかしな話なんだけどね、ダラスベガスって凄く『堅い』連中なのよ。あ、堅いって言っても股間の話じゃないわよ?」
こっちは真面目に聞こうと思ってんだよ。いい加減にしろよ。オネエならシモネタいくら言ってもいいってワケじゃねぇんだからな。
「……あんたもある意味堅いわねぇ、レンちゃん。まぁ良いわ。とにかくね、警察や治安維持部隊のガサ入れに対して慎重すぎるくらい慎重なのが“ダラベガ”の運営方針だったのよ。賭場が開かれる場所もマンションやアパートの一室だったり、貸しオフィスだったり……とにかく、足が付くような派手な行為は絶対にしなかった。そんな連中が『闘技場』みたいな大がかりな賭場を開くとは思えなくてね……」
どうやらママは以前の『ダラスベガス』からの変化を訝しんでいるようだった。
レオ一人に潜入調査をさせても、奴の場合ギャンブルやるだけやって帰ってくるのが目に見えているので自分から行こう、ということらしい。
「オマケに神鬼籠が関わってるってのも信じていいかわからないのよね。末端が勝手にやってるならそれはそれで問題だし、そうじゃなくて誰かが神鬼籠を騙ってるってなったらもっと問題だし」
……あの人達騙るって相当度胸無いとやばくね?
つーか、神鬼籠になり済ますことにメリットがある奴らなんて……あ。
「……『煉獄同盟』か、その配下チームの誰かが関わってる可能性が高いでしょう?レオのギャンブルを笑えないけど……リターンは大きいわ。弱小の私たちはこういう形で恩を売って稼いでおかないとね?」
正直に言えば俺は反対だ。
わざわざ『煉獄同盟』の尻尾があるかも知れない場所を歩くなんて、どう考えても自殺行為だろう。
奴さん達が『神鬼籠』を騙っているのだとしたら、その情報を流すだけでいいと思う。
だが、それだけでは俺達みたいな弱小零細チームが生きていける状態じゃないと言う事だ。
ママは変態だが……もとい、ド変態だが馬鹿じゃない。
そんな彼が自ら危険地帯への侵入を買って出てくれた事に感謝するべきだろう。
まぁ、万が一の事があってもママにはテレポート能力がある。
白兵戦ならレオだって役に立つどころか、充分過ぎる戦力だ。
そしてママ自身も能力無しのレオをボッコボコに出来るだけの暴力は持っているのだし、多分大丈夫だろう。
……ただ、余計なトラブルを抱えて帰ってきそうな気配だけはプンプンするのが俺には不安で仕方なかった。