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第五稿

『煉獄同盟』が宣戦布告をしてきて一週間が経った。


その間に、愛知県内だけで七つのチームが潰され、三十近いチームがその傘下に入った。







「……うん、わかったよー。そっちはそっちで大変だろうけど、頑張ってねー」


電話を切ると同時に深い溜息。

『ルーニーズルーム』の征夷大将軍、摂津カナエの元気が失われたのも、丁度一週間前からだ。

原因は間違いなく煉獄同盟。岐阜に居る知り合いのチームが的に掛けられたらしい。

結局抵抗らしい抵抗も出来ないまま半分以上のメンバーが煉獄の軍門に下り、残ったメンバーは『撃団・神鬼籠』に入ることで再起を誓っているようだ。


「ねぇ、レンちゃん。私達も潰されたら神鬼籠さんにお世話になるのかなー」


いやいやいや。

物憂げな顔して縁起でもない事言うんじゃないですよ、本当に。

あとレンちゃん言うな。名前を中途半端に略すんじゃないよ、まったく。


しかし、そうして黙ってると本当にモデルとかで喰っていけるレベルで可愛いのにな。


身長は百六十センチそこそこでスタイルも良い。

顔立ちも愛嬌と人懐っこさを感じさせる可愛らしさ。

……この醒めてるんだか何なんだかわからない性格と大飯喰らいのせいで色々と台無し系の女子だ。


「だってさー、私たちなんてE-Goとしてはさん……二流の下の方だよ?」


お前今、三流って言いかけただろ。


「事実じゃん。あ、いつもの犬と猿は五流ね。……あいつらも潰されちゃったね」


……そうだな。


犬猿の仲だった『ナイトメアドッグ』と『ブラッドモンキー』は煉獄襲撃の報を聞き、長年の遺恨を乗り越えて同盟を組んだ。

そして果敢にもS-14を見つけ直接挑み――ものの数分で叩きのめされていた。

偉いのは全員が煉獄配下となる事を望まず、撃団・神鬼籠の一員としてリベンジを誓った事だろうか。


つーか、五流とか言ってやるなよ。


「えー。でも、結局は実力次第みたいなところあるじゃん、E-Goってさ。私達だってそれなりの力があるから、こうして好き勝手出来てるところあるでしょ?レンちゃんの能力とか、ぼんよーせー凄いじゃん?」


はんようせい、な。『汎用性』←ほれ、ちゃんと覚えれ。


「……どう見てもボンとしか読めない」


勉強しろよ。俺が言えた立場じゃねぇけどさ。


「……とにかく!煉獄同盟にしても、神鬼籠にしても私らなんかの百倍以上強いの分かってるんだからさ。いざとなったら遠慮なく長いものにぐるんぐるんしなきゃな、って思わない?」


……思わなくはないけど、他の連中は気乗りしなさそうなんだよな。

まぁ我の強くないE-Goなんてほぼゼロと言って良いくらいだ。俺も、カナエも、他のメンバーも常人の領域を遥かに超えるレベルで我が強い。


超常的な能力の代償として、自意識を拡張されたのがE-Goだ――それが一般的な認識であり、最も支持されている説である。

ただ、様々な能力に対してエゴが強くなったこと程度が果たして『代償』と言えるのだろうか。


俺は思うのだ。


自意識を拡張し、我を通すために必要だったから超常的な能力が備わった。


代償としてではなく必要だからそうなった――まぁ、卵が先か鶏が先か、みたいな話になってしまうが。



「卵か鶏……あ、すいません!この三河地鶏の親子丼追加でお願いします!」



まだ喰うのかよ!


……摂津カナエ、ファミレスだろうがどこだろうが満足するまで胃袋に飯を詰める女。


こいつが結婚するべき相手は金持ちだな。そうじゃなきゃエンゲル係数で家計が死ぬ。







その後、夜の街をフラフラと歩くことにした。

デートと言えば聞こえはいいだろうが、俺達は生憎そんな仲では無い。

大体、ヒールの高さで上乗せされたカナエは俺より背が高い。その上、俺は猫背ときている。

デートの相手として俺じゃ不適格も良いところだろう。


大体、そろそろ初夏だというのにニット帽を深く被り、大きめの花粉症用マスクをしている俺はどう見ても不審者だ。

一緒に歩いているだけで職務質問でもされそうな勢いである。


「……レンちゃん、あれ」


ん?

立ち止まったカナエが指差す先には人込みをかき分けるように走ってくる男が一人。

なんというか、トラブルの匂いしかしないな……。


「ど、どいてくれええ!!」


のわっ!あっぶねぇなぁ。

必死な形相で走って行った男は俺達の間を無理矢理割り込むようにして走り去って行った。

しかしなんだったんだ。つーか今の奴、裸足だったな。服も妙にボロボロだったし。


「気になるけど、追い掛けたら絶対何かしらに巻き込まれるよねぇ」


確かにその通りだな……藪を突いて蛇を出してから後悔しても遅い。

俺達だけでなく周囲の人間もそう思ったらしく、走り抜けていった男の事など一分もすれば過去の出来事になっていた。

誰もが理解しているのだ、誰かが追われる、誰かが襲われる、誰かが死んでいる――そんなことは、日常のヒトコマに過ぎないと。


例え、明日の朝になってさっきの男がゴミ捨て場で死体に変わっていたとしても、朝刊にすら載りはしない。

E-Goの存在が、それらを当たり前の光景に変えてしまったからだ。

ただ、それでもこの国のE-Goはまだ扱いやすいと言われている。

なぜなら、俺達は閉じたコミュニティの中を安住の地としているからだ。

縄張りを荒らさない限り、普通の人間を襲ったりはしない。



ただし、藪を突けば蛇が出るのだ。その蛇は、相手を噛み殺すまで離さない――。

ミミズと見間違うような小さい蛇だろうと、ヤマタノオロチみたいな化け物だろうと、同じ。

『E-Goに触れるな』――これこそが、この国で身の安全を守るために一番重要な事だ。テストに出るよ。






「ねぇねぇ、君。ちょっといいかな」


……んな事考えてたら、わざわざ藪を突きにやってくる物好き…いや、命知らずに絡まれるカナエが居た。

話しかけてくるのは中年の男だ。なんというか、ネチっこそうな顔のオッサン。ニヤニヤすんな気色悪ぃな。


当のカナエさんはというと、しつこく声を掛けてくる中年の男を無視してクレープを食べている。

しかも左手にイチゴチョコ生クリーム、右手にバナナチョコ生クリームという二刀流。

店前のベンチで座って食べてるだけで購買意欲をそそる光景ではあるが、しつこいオッサンのお陰で台無しだよ。


「ちょっとだけ、ちょっとだけお話聞いてもらえないかなぁ?」


本当にしつけぇな。大体、カナエがなんか食ってる時に話しかけても聞こえてねぇっつの。

まぁ俺の忠告も聞こえないから意味ないんだけどなー。こういう時不便だよな、喋れないって。



「頼むよー……知りたいんだよ、君らから見た“撃団・神鬼籠”の事をさぁ」



……今、なんつった?


あ、カナエの手も止まった。



「君ら、『ルーニーズルーム』だろ?知ってるんだよ、だから話聞かせてくれない?悪いようにはしないからさぁ」

「ええ、構いませんわ」



……あーあ、知らない知らない。



「ただここではゆっくりとお話できません故に、場所を移していただけませんでしょうか、おじさま?」




カナエが“お嬢様モード”になった時って、キレてる時なんだよなぁ……。


ご愁傷さま、おっさん。死なないように祈ってたらいいと思うよ。

少し短めになり、申し訳ありません。

次回はカナエ視点の話になります。

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