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第四稿

『撃団・神鬼籠』――元々は富山の自称・治安維持部隊だった小規模グループだが、現在は違う。

俺がまだガキだったころ、西の『煉獄同盟』と東の『秩序の剣』が中部地方で全面戦争になった事があったらしい。

その戦争はどちらの勝ちでもなく、両チームが疲弊した所を襲撃。本州二強と呼ばれた『煉獄』と『剣』を執拗なまでに攻撃。

結果、煉獄・剣の両チームは神鬼籠の偏執的なまでの攻勢を跳ね返せず、中部から撤退。

神鬼籠はその勢いのまま岐阜・愛知を勢力下に置き、西と東の侵略を阻む壁――『愛知・岐阜・富山中立ライン』を制定した。


チームの名前に『撃団』を付けたのはその頃らしい。

攻撃・襲撃・迎撃・突撃・反撃――ありとあらゆる『撃』の字が付く行動を休まず起こし続けた事が由来だそうだ。


現在、撃団・神鬼籠は中部地方を根城にする全国区のチームとして知られている。

一説には秩序の剣を上回る危険人物集団だ、とも。そして、その説は間違っていない事が今日、証明されたのだ。


「おい、どうすんだよ。とんでもねぇ大物来ちゃったじゃねぇか……」

「丁度いいじゃないですか。煉獄同盟の本命も彼らみたいですし、潰し合ってるところをトンズラするべきでは?しかも『逃がすために人を多めに連れてきた』って向こうが言ってるんだから、お言葉に甘えましょう」

「いや、確かにユイの言う通りなんだけどな……」


あからさまに狼狽するレオと平然としているユイの会話を聞きながら周囲をざっと見渡す。

さっきまで俺らをあしらってた煉獄同盟の二人が、俺達には視線を向けることすらせずにユニフォーム姿の男を警戒している。


「とんでもない大物が釣れたもんだな。神鬼籠の『鬼』が自ら前線に立つとはな」

「えーっと、S-10君だっけ?ああ、うん間違ってたら後で訂正するから答えなくていいよ。俺が今から喋るからさ。俺、相槌打ちながら交互に会話するのが物凄く苦手なんだよ。片方が一方的に喋って、それに対して相手も一方的に喋ってくれたらそれが何よりだよね。こっちも話聞きながらどう答えるか考える時間が出来るし。で、そうだそうだ、S-10君が俺をちゃんと大物として扱ってくれた事に対する返事ね。まぁ、確かに『撃団・神鬼狼』ってのは初期メンバー三人の名字から一文字ずつとった名前で、しかも結成が富山だったから名物の蜃気楼と合わせて素敵な名前になったんだよね。で、俺がその一文字の『鬼』こと鬼頭ヨシツネ。最近では愛知県内で活動してるんだ。今後、深いドツキ合い……じゃないや、お付き合いがある事だしね。煉獄の君達が俺の事を知っててくれて本当に助かったよ、一から十まで説明するのは時間が掛かるし面倒だ。ああ、でも三から六くらいは話しちゃったかな?まぁ世の中には一を聞いて――」


「いい加減黙れウルセぇんだよ!!!」


あ、S-14がキレた。

しっかし鬼頭さん凄ぇなー。なんであんなに喋りが達者なんだろうか。小ネタがスベってるのに、スベった事に周囲が気付く前に次の話してるんだもの。

ちょっと前にシロカミ放送局にゲストで出た時に『倍速外郎売』とかいう隠し芸を披露してたし、単純に喋るのが超得意なんだろうな……。

もしあれが超常能力だとしたら逆に凄いが。聞いてる内にマインドコントロールとかしちゃうタイプの力とか。


尤も鬼頭さんが持ってる能力がそういう系じゃないのは目の前の光景から良く分かる。


「S-14君ともお話したいんだけど、いきなり雷ぶっぱなすってのはマナー違反じゃない?」

「……チッ、能力までウザッてえな」


S-14の表情は相変わらずフードに覆われていて読めないが、声の調子から苛立ちと同時に感心しているようにも思える。

何せ、放った雷撃を“素手で受け止めた”と同時に“吸い込まれるようにして消えた”のだから。


「おや、流石に分かってたか。まぁそれくらい知ってないと煉獄同盟のナンバーズは務まらないか。でも分かってて雷を撃ってくるんだから、相当キレちゃってるねぇS-14君。それでまだやる?やっちゃう?殺ったり殺られたりしちゃう?」

「んなもん、当然――」

「やる訳ないだろう、馬鹿め」


ここでS-10が冷静なツッコミ。

うわ、S-14が親の仇でも見る様な目……はフード被っててわかんないけど、口元はそんな感じだ。怒り心頭というか。


「流石にこの人数を相手にしていては効率が悪い。鬼頭ヨシツネが動いた――その意味を深く考えろ、S-14」

「……チッ」

「ありゃりゃ、引いちゃうんだ。残念残念。これで君達が俺を殺すチャンスはもう無い……おおぅ?」


S-10の羽織るウインドブレイカーの袖口から大量の煙が吹き出し周囲を包む……マスクしててよかった。


「ゲホッ、ゲホッ!」

「くそ、何にも見えねぇ!」

「マサムネさん!逃がしていいのか?!」


神鬼狼のメンバー達が騒ぎ始める。催涙ガスの類ではなく、単なる白煙だったみたいだ。

念のために嗅覚を切ったけど必要無かったかもしれない。S-10の超常能力はあの煙だったんだろうか。


「いいのいいの。俺らのモットーは“来る者は拒まず去る者は追わず、殴ってくる奴は全力で殴り返す”でしょ?だから今日のところは追わなくていいさ」

「……クソッタレ、次はその余裕面グシャグシャにしてやっからなァ……?」

「S-14、相手にするな。行くぞ」


しばらくして白煙が散ると、既に煉獄同盟の二人は居なかった。

……まさに“煙に巻かれた”って感じだ。







「そんじゃ私らも帰りましょうか?」


そう切り出したのはママだった。

上白さんは鬼頭さんと色々話し込んでたし、神鬼籠のメンバー達は鬼頭さんの指示があるまで動かないだろう。

少なくとも俺らがここに居て、これ以上プラスになるとは思えないしその提案に全員が賛成した。

と、そんな時にこちらへとやってくる人影が。


「やぁやぁ、上白クンを助けてくれてどうもありがとうね。えーっと、『ルーニーズルーム』で正解?色々楽しくやってるって噂は聞いてるよ。……なんだ、その、そう警戒しなくてもいいんだ。別に君らを傘下に入れようとか、君らも煉獄同盟と戦えとか、そういう話じゃないから大丈夫。まぁ、どうせ煉獄が来る以上、嫌でも巻き込まれるとは思うけどね。そういう意味では『中立ライン』に居るE-Goはみんな平等さ。そうだろ?」


いや、まぁそれはその通りでしょうけども。E-Go同士だと建前取っ払った会話になるから話の内容、全部抜き身の刀みたいになるんだよなぁ。


「なーに言ってるのよマサムネちゃん。私たち、そんなに強いE-Goじゃないんだからそこは気ぃ遣って俺達が何とかするくらいの事言いなさいよね。そっちは男所帯だからいいけど、こっちは女の子も居るんだから!私とか!私とか!」

「うん、マキトくんの前に他の女の子の名前だそうよ。君はあくまでもオネエであって女ではないでしょ?自己主張キツいオネエとか結構アレだよ?」

「やだもう器ちっちゃいわねぇ、アンタ。マサムネちゃん神鬼狼トップの一角なんだから器の大きいところ見せなさいよ!男は器と○○○の大きさで決まるのよ!?」

「マキトくんって躊躇なくシモネタぶち込んでくるよね。俺はマキトくんとは昔からの友達だから敢えて言うけど、君って本当に見た目詐欺だと思うよ。顔だけ見れば女の子から大人気なのにどうしてそうなっちゃったのさ」

「自分に正直に生きてるだけよ。そういう意味ではE-Goとして生まれてよかったって本気で思ってる。そうじゃなきゃ、ここまで開き直れなかったもの。アンタだってそういう部分、あるでしょ?」

「……否定はしない」


おお、鬼頭さんを黙らせた。

この二人が古い知り合いだったっていうのは知ってたが、ここまでフランクに物を言い合える仲だっていうのはちょっと予想外だ。

でも本当に無遠慮なシモネタは勘弁してくれねぇかなぁと思う。本人的にはTPOを弁えてるとの事だけど、傍から見るとそうでもないぞ。


「ほら、さっさと離れなさいよ。巻き込まれたら自費で帰ってもらうからね。はい、みんな掴まって」


言われてLRのメンバーがママの腕に捕まる。右手に二人、左手に三人。ちなみに俺は右手側。

ママの超常能力は単純明快に瞬間移動だ。ママに直接触れてさえいれば、何人でも一度に運べるらしい。

とりあえず今日は帰ってゆっくり休もう……そう思ったら鬼頭さんがまだ何か話しかけてきた。


ただ、その相手はママではなかったけど。


「あー、そうだそうだ忘れてた。鳴海ユイさんって君だよね?」

「……そうですが?」


うわ、なんかユイが不機嫌丸出しだ。

何を聞くんだよ、後で窘めるの俺達なんだぞ。


「大したことじゃないよ。ただ……“俺の弟”は元気にしてるかい?」

「……ええ、最近は寝てばかりですけど」


……なるほど、その話か。それなら、触れない訳にいかないよな。

普段ユイと鬼頭さんが顔を合わせる機会は殆どないんだから。

彼の弟に関しての情報はたぶんママを通じて送られてはいるだろうけども、どうせなら“一番近くにいる人”から直接聞きたいはずだ。


「うん、それならいいんだ。ありがとう。……やんちゃな弟だけど、よろしく頼むね」

「わかりました……ママ、行きましょう」

「はいはい。それじゃ……“転移”!」



次の瞬間には、俺達が根城にしているマンションのエレベーターホールに俺達は立っていた。

色々な意味で、今夜がターニングポイントになるだろう、と。


そう考えているのはきっと俺だけじゃなく、この場にいる六人全員だろう。



ああ、どうか俺らの平和がほんの一日でも長く続きますように。

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