第二稿
序盤なので世界観説明が多いですが、ある程度は今回の話でまとまります。
よろしければ、お付き合いを。
「オイオラこの猿野郎!今日こそ決着付けてやんぞオラァ!!」
「んだとコラこの犬野郎!それはこっちの台詞だってんだコラァ!」
「ザケんじゃねぇよこの馬鹿猿クソ野郎が!テメェのケツ血塗れにして真っ赤にして犬山モ○キーパークに放り込んでやんぞオラァ!!」
「ナメた事言ってんじゃねぇぞこの負け犬ゴミ野郎が!テメェの首に可愛い首輪付けて背中に『負け犬』って書いてナ○ちゃん人形の足首に繋いでやんぞコラァ!!」
……のっけからコレである。
非行少年グループ『ナイトメアドッグ』と『ブラッドモンキー』の通算七回目の最終決戦の舞台である公園のグラウンドに響く罵声。
ナイトメアドッグの総長・竹中ケイスケとブラッドモンキーのリーダー・大庭シュウジによるどうしようもないくらい頭の悪い怒鳴り合いを聞きながら、LRとシロカミ放送局の面々は淡々と中継の仕事を行っていた。
既にこの模様はインターネットを通じて生配信されている。視聴者からのコメントを専用のSNSに設けられた実況BBSでは、
「アホだwwwwww」
「馬鹿すぎるwwwwwww」
「実は仲良いだろ、こいつらwwwwwwwww」
「犬×猿と聞いて」「腐女子はお帰りくださいませ、お嬢様」
「むしろ猿×犬だろ」「こっちにも出たぞー!!」
と、大好評です!誰が何と言おうと大好評です!
こっそりと俺が能力を行使して聴覚を強化すると、それぞれの構成員同士の会話が聞こえてきた。
ちなみに頭目二人による生産性の無い煽り合いはシャットダウンしている。単純に音が大きく聞こえるのではなく、こういう微調整が効くのが聴覚強化の利点だと思う。
「この前は何で勝負したっけ?」
「草野球。最終的にウチのケイちゃんがそっちのリーダーに危険球キメて済し崩し的に乱闘になったけど」
「んじゃ今日はサッカーにしとくか」
「あ、ゴメン。今日、ナイトメアドッグ九人しか居ねぇんだよ」
「えー、マジかよ。モンキー十二人居るから何人か貸そうか?どうせTシャツ交換しちまえばバレねぇって」
「つーかフットサルじゃ駄目なんか?」
「それだ!」「お前頭いいな!」
……これは絶対に音声に乗せたら駄目だな。ただでさえ茶番疑惑(≒コント疑惑)が絶えないのに、構成員同士がこんな和やかに会話してるのがバレたら駄目だ。視聴率が落ちる。
しかし俺が言うのもなんだけど、二チーム合わせて馬鹿しか居ねぇって凄ぇな!
あ、LRとシロカミ放送局も基本的に馬鹿しか居ないの忘れてた。まぁいいや。
さて。そんな撮影する方に回ってる馬鹿の群れはといえば、それぞれスタッフとして機敏に働いている。
コメントの「w」の数が誇りと称するシロカミ放送局の“局長”上白達也は薄笑いを浮かべながらモニターに集中している。
上白はこの地方のE-Goの中では珍しく本名を完全公開している数少ない人物だ。本人曰く「テレビ業界に渡りをつけるために必要」との事だった。
基本的にE-Goは本名を隠す傾向にある。俺達の住む中部東海エリアで一番多いのは「下の名前の漢字を教えない」パターンだ。
何故こんな傾向が生まれたかと言えば、最大の原因は東京の『秩序の剣』、そして関西の『煉獄同盟』だ。
秩序の剣はその名の通りE-Goに秩序を徹底させる事が目的。その過激なやり口は影響の薄いこの地方にも伝わって来ている。
その団員達は氏名と年齢を全てホームページ上に顔写真付きで公開されている。
個人情報を公に晒す事で本人達が「自分達は世界中に監視されている」という意識を持たせ、秩序を保つ者の自覚を促している。
――って、まとめwikiに書いてあった。
敢えて俺から言う事があるとすれば。
その団員の女の子達の顔写真を印刷して黒マジックで目線塗りつぶして「イメクラ・下半身の秩序の剣」とか言って遊んでたのがバレたらLRは十秒で潰されるだろう。
で、一方の関西『煉獄同盟』だが、こちらは逆に名前を一切出していない。首魁の名は「THE A」と名乗る男だが、その姿を見せた事はこれまでに一度も無い。
幹部はそれぞれアルファベットのBからZで始まる英単語をコードネームにしている。更にその部下はアルファベットと数字の組み合わせだ。例えば、Bという幹部の配下ならば「B-01」といった感じだ。
流石の俺達も彼らをイジって遊ぶ事は無い。というより、イジりたくても情報が入ってこないからイジりようが無いというのが実際のところだが。
万が一にもイジったのがバレた日には、LR総勢六人分の葬式が必要になるだろう。いや、葬式を挙げさせてくれるような死に方が出来るかも危うい。
つまり名前を晒せば『秩序の剣』寄りの人間と見なされ、『煉獄連盟』を始めとしたアンダーグラウンド系列の組織に狙われる。
逆に名前の全てを隠せば『煉獄連盟』寄りの人間と見なされ、『秩序の剣』を筆頭とする自警団組織からマークされる。
なので中立を表明する人間は、名前を晒すが漢字は秘匿する、というのがこの地域の主流になって行った。
あ、俺はこの文章中ではサイレンスって名乗ってるけど、周りも俺の名前を知ってるし、そっちの名前で呼ぶ。
どうせ俺がタイピングしている文章なんだから、俺の名前の所を打つ必要のあるところだけ「サイレンス」と書きかえればそれで済む。
こういうのは筆者の特権と言う奴だ。俺の書くレポートなんだから、これくらいの自由は許されていいはずだ。
それ以外の部分で嘘は書いていないし、嘘を書いたとしてもすぐフォローしているから問題ない。ないったらない。
まぁどちらにしろ触らぬ神に祟り無し。秩序の剣とも、煉獄同盟ともエンカウントせずに済むならそれに越した事は無い。
折角『中立ライン』の一部である愛知県に居る恩恵を存分に堪能させてもらうだけだ。
※
すったもんだの末、今回の最終決戦は「叩いて被ってジャンケンポン」対決と相成った。
防御用の工事現場ヘルメットと、叩く為のピコハンが用意されたが「拳で語るのもOK」という無茶なルールが制定されたため、二つのアイテムの存在意義が危うい。
どちらかというと「ジャンケンで勝った方に攻撃権利のあるタイマン」だ。
それはそれで非常に面白く、視聴者からの反応も上々。
このまま最後のリーダー対決だが、流石にちょっと大騒ぎし過ぎた。警備組織(not 秩序の剣)がやってくると面倒なので、警戒がてら聴覚強化のレベルを一段階上げた。
その判断は正しかったが、その判断を心底から後悔したのもまた事実だった。
「……奴がシロカミ放送局局長、上白達也で間違い無さそうだな。どうも今も中継しているみたいだがどうする?」
「構わねぇさ。『Striker』様は“派手に花火を打ち上げて来い”って言ってんだ。これが放送されてるんならむしろ都合がいい。宣戦布告と行こうじゃねぇか」
「それもそうだな。だが『S-14』、早くフードを被れ。この程度の仕事で顔を晒す必要なんぞ無い。『剣』が見ていないとも限らないのだからな」
「ケッ、『S-10』様はクソ真面目だな。言っておくがな……確かにコードネームはお前のが小せぇけど『数字』は全員同格だって事忘れんなよ?」
「当然だ。俺達に上下は無い。『スペル』と『THE A』以外は、全て一兵卒に過ぎない……そろそろ仕掛けるぞ、準備しろ」
「ああ、中立ラインのぬるま湯にどっぷり浸かった連中に『煉獄』の恐怖を教えてやろうぜ」
……俺は持ち場を離れて上白の元へ走った。近くに居たシュレンがどうかしたか、と聞いてきたがそれに答えるヒマは無い。
「ん~サイレンスちゃんどうしたんよぉ?今良いとこだから相手出来ないよぅ?」
妙に間延びした口調でのほほんと答える上白に若干イラッとしながらも、俺は高速でタイピングし、その内容をロボボイス君を通して伝える。
《煉獄ガ来テルゾ!逃ゲロ!!》
機械音声の内容を理解した上白の薄笑いが消え、真剣な表情へと変わった同時に彼は立ちあがって声を張り上げた。
「中継中止ぃ!とにかく皆逃げ……!」
しかしその声は落雷の様な音に掻き消され、その落雷の中心に居た犬と猿のリーダー二人が吹き飛ばされた。
スタッフ達は騒然とし、犬と猿の構成員たちはそれぞれのリーダーを連れて後退し、俺達は狼狽しながらその落雷が放たれた方向を見遣る。
「こんばんはシロカミ放送局とそのスタッフ、視聴者の皆さん!」
「チッ、出たがりめ……」
悠然とカメラに向かって歩く黒のウインドブレーカーの男。同じ服装のもう一人はカメラに背を向けて、周囲を牽制している。
黒のウインドブレーカー、そしてその背中の青い焔のロゴと、その中に書かれたアルファベットと数字。
「煉獄同盟、『Striker』隊参上だ!良く聴け愛知・岐阜・富山の『中立ライン』に居るボンクラE-Go共!テメェらの平和は今日で終了だ!」
「……現在、我々と同隊の者が岐阜と富山で行動を開始している。今すぐに降伏し、我々煉獄同盟の傘下に入るならば、痛い目を見る事はない」
この襲撃が全ての始まりだった。
ただ馬鹿をやっていたかっただけの、俺達ルーニーズルームが後に『中部圏最終戦争』と呼ばれる一大抗争劇に巻き込まれてしまったのは。
神様ってのがこの世に居るなら、一言だけよろしいでしょうか?
《クタバリヤガレ、疫病神》
俺の打ち込んだ機械音声は幸い誰にも聞かれる事は無かったがそれでいい。
これは俺の個人的な神様への八つ当たりなんだから。
ようやく能力バトル物っぽい空気になりました。
でもこの程度のシリアスをぶっ壊せないようでは「ルーニー」は名乗れません。
LRの明日はどっちだ。






